騎士爵を賜ったからメイドが務まりそうな奴隷を買いに行ったら姫さm「他人の空似の別人ですわ」……が居たんだが、誰か正解の選択肢を教えてくれ
京高
格子の向こうにお姫様
「……………………」
「……(にこにこ)」
格子越しに笑顔の女性と目が合った瞬間に硬直してしまったのは仕方がないことだと思う。
先に言っておくと恋に落ちたとか一目ぼれをしたとかといった色恋沙汰ではないからな。まあ、街中ですれ違ったとしたら九割方の連中が振り返るだろう美人であることは認めるが。
とにかく、俺が驚いた理由は別にあった。長らく手入れをされていないゴーレムのように、ギギギと耳障りな音を立てそうな調子で無理矢理に首を動かしてみれば、疲労感満載の奴隷商館の主人が立っていた。つい先ほどまで溌溂とした調子で応対してくれていた者と同一人物とは思えないくらいのやつれっぷりだ。
その様子から格子の向こう側に居る彼女から無理難題を押し付けられたのだろう、ということが理解できてしまったが、それでも俺の立場上一言言わざるを得なかった。
「主人、これは不味いどころの騒ぎではないと思うのだが?もしも先程の話にでていた者がこの御方だとすれば、私と貴殿の首を差し出したとしても収まらないぞ」
何せあの女性こそ、このメネセラス王国の第一王女であり『至宝』の呼び声高いアリルメイ・レイン・パウム・メネセラス王女殿下その人だったためである。
それにしても王族が一人だけとはどういうことだ?そのあたりの物陰に近衛騎士や侍女たちが隠れてこちらの様子をうかがっているのだろうか?
「い、いえ、あの……、その……」
「違いますわ。わたくしはそのような高貴な方ではありません。わたくしは……、そう!ただのアリルですの!」
しどろもどろな主人から強引にバトンを奪い取り、アリルメイ殿下は今思いついたのが丸分かりな口調でそう言い放ったのだった。
「……殿下、偽名を名乗るのであればもう少し本当の名前が分からないようにしてください。それではただの愛称です。それと別人に成りすまそうというのであれば、せめてその御身分の証明となる装飾品の数々くらいは外しておくべきです」
「あら?」
つまり、見る者が見ればそれだけで彼女が何者であるか分かってしまうのである。そして俺とてこれでも騎士爵を
「珍しくお小言の一つもなしに着飾ってくれたと思えばこのような罠を仕掛けていただなんて。これは侍女たちにしてやられましたわね」
台詞の割にアリルメイ殿下は随分と楽しそうにしている。やれやれ。困ったことに懲りている様子はまるでなさそうだ。
「それで殿下、国唯一の認定奴隷商まで巻き込んで何をなさっておいでなのですか?」
メネセラス王国は周辺国家の中では珍しく奴隷の扱いを厳しく取り締まっており、公で商売ができるのはこの認定奴隷商ただ一つとなっていた。
「実はわたくし、王宮での権力争いに敗れて奴隷に堕とされてしまいましたの」
「……は?」
内政から外敵の武力制圧まで、たった五年で『至宝』と呼ばれるに値する活躍を見せてきた完璧超人が権力争いに敗れただと?一体何の冗談なのだ?
仮に本当だとしても、騎士爵になったばかりの俺が聞いていい内容だとは思えないのだが!?
「これがその証拠ですわ」
呆然としていた俺は、格子の間から差し出された巻物を受け取った、受け取ってしまったのだった。だが、この大失敗に気が付くのはもう少し先のことになる。
「王家の紋章の焼き印……。まじか……」
「まじですわ」
閉じ紐の結び方もまた正式な文書や通達書に使用されるものだった。この時点で偽装は完全にあり得ないものとなった。
しゅるりと紐を解き、ゆっくりと巻物を開いていく。そこにはこう書かれていた。
『ざい。こっかはんぎゃくのけいかくをねっていたこと。ばつ。ありるめいおねえちゃんをどれいとする。だいいちおうじ、いかるす・れいん・めねせらす』
一度見ただけでは理解ができず再度見直す。というか文字を覚えたての子どもが書いたもののようですさまじく読み辛い。結局、三度目でようやく内容が頭に入ってきた。
そして、
「あんた七歳の第一王子まで巻き込んで何やってんだー!!」
「うきゅ!?」
「アリルメイ殿下!?」
持っていた巻物を思わず王女殿下の顔にぶつけてしまったが、俺はきっと悪くない。
「本当に何やってんの!?イカルス様絶対文書の内容理解していなかったでしょ!?あああ……。今頃陛下や王妃様方からどんなお叱りを受けていることやら……」
イカルス様、イカルス・レイン・メネセラスはアリルメイ殿下の腹違いの弟にあたる御年七歳の第一王子だ。そして第一王位継承者でもある。彼が下した沙汰となればたとえ姉の王女殿下であっても従わざるを得ない。
「陛下であれば撤回させることも可能だろうが、後々にイカルス様の裁定が間違っていたという
奴隷という身分にはなってしまうが、王家でこっそり買い取ってしまえば誰にも知られることはない。
「いや待て、俺がその全貌を知っているじゃないか!?」
「うふふ。それこそ国が転覆しかねないほどの大問題ですわ」
「とんでもないことに巻き込んでくれやがったなー!」
「はぴゅ!?」
「で、殿下ー!?」
ドヤ顔にムカついて、懐から取り出したハンカチをぶつけてしまった俺は絶対に悪くない。
「うあああ……。王立学園に通うこと苦節五年、貴族どもの嫌がらせや同じ特待生連中からの
更に言えばその特待生枠に入り込むために子どもの頃から血のにじむような努力をしてきたというのに……。
どう考えても口封じのためにサクッと殺されるやつじゃないか……。故郷の父さん母さんすまない。王都出身なのでここが故郷な上に、孤児だから両親の顔なんて知らないけど。
両手両膝を床につけて最悪な未来を思い浮かべることしかできなくなっていた俺は気が付くことができなかった。すぐそばでこんなにも重要で怪しげな会話が繰り広げられていたことに。
「王立学園在学の頃から殿下が目をかけられていただけあって、頭の回転は速いようですな。しかも身分さに委縮することなく堂々と自身の意見を述べるだけの胆力もある。……まあ、殿下のお顔に物を投げつけるのはやり過ぎかと思いますが」
「学園の卒業からほとんど間がありませんもの。そのくらいは大目に見てあげて欲しいですわ」
「はっ!殿下のお言葉なれば。……しかし、いくら貴族たちに潰されるのがもったいないとはいえ、いささか大仰過ぎたのではありませんか?」
「そんなことありませんわ。殿方が奴隷を、しかも異性の者をお求めになる理由など相場が決まっておりますもの。ふ、ふふふ……。ええ、これは必要な行いなのですわ」
瞳からハイライトの消えたアリルメイ殿下は、その美貌と相まって大層恐ろしかった、らしい。
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