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本日の仕事が終わり、特に話したい事も何も無く、床に寝そべる。社会人に許された時間というのはそう多くはなく。帰っていえの事を済ませたら、もう寝る時間である。他の国がどうだかは知らないが、もう少しゆとりがあればとは思っている。

ひたり、ひたり、と足音が聞こえて来た。転がって相手を見上げると、同居人の瑠衣が其方を見下ろしていた。そうしてそのまましゃがみ込むと、ふと手の甲に触れて来た。

瑠衣は触る、触られる事を好まない。当の本人に聞いてみると『何が良いのか分からない。無意味に感じる。ある意味自分が欠陥品だと知る事になる』などと淡々と返って来た。

そうした意味ではある意味もう一人の気の置けない友人、諭羅と似ているのである。

「ゆらりぃってさ、接触恐怖症じゃない? 満員電車はまぁまぁ我慢出来るみたいだけど、相手が『触る』という意識を感じた途端に気持ち悪くなるって言ってたな」

諭羅も瑠衣と同様、触る触られるの関係を望まない。恋人だけじゃなく、友人に対してもあまり良い感情を抱かない。何故なのか聞いてみたら、『触って来た人間を気持ち悪いと思っている訳じゃない。ただ手を使って来て、触れて来たという事実。質感がどうにも受け入れられない。その神経回路が気持ち悪いと断定する』と帰って来た。

瑠衣は自分のコンプレックスから、諭羅は気持ち悪さから、触れられる事を嫌がる。経緯の違いとはいえ、触れる触れられるの関係を拒むのは変わらない様だった。

「まぁ、瑠衣たんもだけど」

「街中で恋人達、中でも男性の方が女性に腰を回している。理由が俺には分からない。分からない龍は分かっている。そうされる事に意味を感じないからだ」

「まぁ何時も言ってるけどね」

それでもまぁまぁベタベタする私を傍に置いたのか、強い女が好きだと言っていたが、其れを凌駕すべきものなのかさえも分からない。

「何か感じた?」

「何も。やはり意味を感じない。何故触れるのか分からない。こうしても何も思わない。だが……彼奴の方が深刻だろうがな」

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