Lullaby "無題"

@K_3a

"無題"

私は、生まれつき身体が弱かった。なので、今までの人生の大半はこの病院にいた。そうしないと死んでしまうから。

病院に不自由は無かった。けれど、何か特別な娯楽があるわけでもなかったから退屈だった。絵本はもう読み飽きたし、小説は私には難しすぎた。

でもある日、とある物が目に入った。看護師からは、それが「ハープ」という名前であることとハープの使い方、そして、それがこの病院の大切な物であるということなどを教えて貰った。


琴線に触れた。静かに、しかし、永く響いた。


それから、看護師は私にハープの音色を聞かせてくれた。聞いたことが無かった音ではあったものの、とても心地がいいと感じた。その日から私は、毎日看護師が弾いてくれるハープの音色を聞くようになっていた。

※私は夢を見ていた。家族と楽しく過ごす、というだけのシンプルな夢だ。私は、家族とはあまり会えなかった。病院の皆とは仲良くやっていた。でも、そう夢を見ているという以上は心のどこかで寂しさを感じていたのかもしれない。私の夢の家族は、迎えのように私へと手を差し伸べた。coda al fine

そこで、目が覚めた。良い夢だった。

眠りから覚めるや否や、看護師が鮮やかなイチゴの乗ったショートケーキを持って私の部屋に来た。ついでに、ハープも。

そして彼女は、私にハープの音色と歌を贈ってくれた。本当に美しく、気付いた時には頬を涙が伝っていた。

その時まですっかり忘れていたけれど、どうやら私は誕生日だったらしい。人生でまだ8回目の。 前は家族も祝ってくれたが、今年はまだ来ていない。私はそれでも、祝ってくれたというだけで嬉しかった。

私1人には多すぎたので、彼女と二人でケーキを美味しく食べた。病弱でも、ケーキくらいは食べられたので私は幸せなのだと思う。

普段の温いズッパと甘くないヨーグルトとは、まるで比べる事すら出来ない程美味しかった。

その日は、雪が降っていた。雪が降っているのはいつもの事なのに、何故か少しだけ感動していた。感傷に浸っていると、また看護師が部屋にやってきた。どうして来たのかを訪ねると、私のことが気になったからとだけ答えた。私は至って普通であったが、彼女はどこか焦っているようだった。気になって訪ねてみても、彼女は口を開かない。少しの閑があった後、彼女は一言だけ私に伝えた。その一言は、私を絶望へと突き落した。

この大雪のせいで家族が事故に遭い、病院への道中で亡くなったのだという。私と彼女は泣いた。ただひたすらに泣き続けた。流す涙も涸れたころ、私は彼女にもう大丈夫だと伝え、部屋を去ってもらった。そして、部屋のトイレでケーキを吐いた。 明らかにイチゴではない赤色が混じっていたが、看護師には言わなかった。せっかく祝ってくれたのを台無しにしたくなかったから。

その日の晩、 dal segno


Φ今度は家族の手を取った。目は覚めていたのに、まるで眠りの中で夢と連動するかのように、無意識のうちに手を上に伸ばしていた。何故かはわからないが、世界が明るくなっていった。私の大好きなハープの音色が聞こえ、ハープを奏でる天使の姿さえ見えた。その音色は、今まで聞いたどの音よりも心地よかった。

そうして、私は瞼を閉じた。


———静かに、そして、永く。


Lullaby "無題" fine

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