第2話 【問題児カップル記録用】ファイル

「戻りましたぁ、はあ……」


 自席に突っ伏して、「あー」とも「うー」とも付かない呻き声を漏らしている雪に、後ろから誰かが抱きついた。


「おーくーえーせーんせっ! そんなに落ち込んじゃって……どうしたんですか? 話、聞きますよ?」


「……大宮おおみや先生、何時も言ってますけど、あんまりベタベタとくっ付かないでください」


 耳元で聴こえる甘ったるい声に、雪はめんどくさいと言わんばっかりの態度で、振り返った。すると案の定そこには、英語教師であり、赴任翌日からやたらと雪にひっつきたがる、大宮 凪沙なぎさが居た。


「大宮先生だなんて、そんな他人行儀な……私と先生の仲なんですから、凪沙って呼んでくださいよ!」


「馬鹿なことばっかり言ってないで仕事してください。大宮先生、一限から授業入ってますよね?」


「ちえー! 奥江先生のケチー!」


 ブーブーと文句を垂れながら、凪沙は職員室を出て行った。凪沙の姿が見えなくなったのを確認して、雪はパソコンを開いた。今朝のことを記録するために、【問題児カップル記録用】と称されたファイルをクリックした。


 先述の通り、この学校のカップルはところ構わずイチャつく習性がある。


 手を繋ぐだとか、軽いハグ程度なら、教師も目を瞑るというもの。でも、全く関係のない生徒たちの前で、堂々とキスをしたり、保健室や体育館倉庫でおっぱじめられると、流石に止めないといけない。


 だからこそ、プライバシー的に問題はあるが、そういう問題をよく行す生徒を、メモしておくのがこのファイルだ。


 雪自身、事に及ぼうとしているカップルを何度も止めたし、数え切れないほど叱っている。


 雪が、苛立ちを顕に、キーボードをバシバシと叩いていると、コトンと隣に、缶コーヒーが置かれた。


「奥江先生、お疲れ様です。朝から、大変でしたね。これ、良かったらどうぞ」


「あ、ありがとうございます。榛野井はるのい先生も、お疲れ様です」


 雪の後ろに立っていたのは、教師歴三十七年のベテラン数学教師、榛野井 雅人まさとだった。


 雅人は、いわゆるイケおじというやつで、妻子持ちであるにもかかわらず、中学一年生から中学二年生の生徒に人気がある。


「ありがとうございます、俺も用事があるので、失礼しますね。では」


「はい、私も二限からは授業があるので、お互いに頑張りましょう」


 そう言い終わると、雪はパソコンに向き治った。

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百合の園〜本能的にイチャつく百合カップルvsそれを止めたい教師陣〜 蓬田律 @Harumiti17

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