地獄の歩き方。――闘病記 ②
「鬱病」という病気は、人によって驚くほど千差万別です。
私は医療従事者としての知識もありましたし、その当時であっても、自分の病態を正しく理解することができていました。
また、かつて大切な人が鬱を患った経験があり、どんな声掛けやケアが必要なのかを必死に専門書を読んで、学んだ知識もありました。
けれど、いざ自分が「当事者」になってみると、そこにあったのは教科書のページをいくらめくっても見つからない、凄惨な現実でした。
今振り返っても、最初の休職一ヶ月間は、限りなく「地獄」に近い時間だったと思います。
消えてしまいたいという衝動(専門的な用語としては希死念慮といいます)に突き動かされ、台所から包丁を取り出しては、それを必死にクッションに突き刺してやり過ごす夜。
眠りにつけば、ありとあらゆる不快なレパートリーを詰め込んだような悪夢にうなされ、泣きながら飛び起きる深夜。
何より辛かったのは、何もしないで休んでいる時でさえ、頭の片隅で「思考」が止まってくれなかったことです。
脳が勝手に、長編小説のような物語を無意識に綴り続けてしまうのです。
恋愛小説から漫画の続き、そして、私の好みではない血生臭い戦記ものや、殺伐としたSFなど様々……。
集中力も体力も、ただそこに削り取られていく。逃げ場のない脳内は、ただただ不快で、恐ろしい場所でした。
巷には「風呂キャン(お風呂をキャンセルする)」という言葉がありますが、かつての私なら「自分にはあり得ない」と一蹴していたでしょう。
けれど、当時の私は、そんな当たり前のことすらできなくなっていました。
どんどん「普通」ではなくなっていく自分。昨日までの自分を失っていく恐怖。
……それでも、安心してください。
今、こうして当時のことをエッセイに綴ることができるくらいには、私は回復しています。
まだ社会に戻る準備は整っていませんし、一進一退の毎日ではありますが。そもそも、この病気は少しずつ、良いと悪いをくり返す病気なのです。
それでもあの地獄からは、一歩ずつ這い出してくることができました。
その「続き」のお話は、また次回に。
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