本文
息の仕方を忘れた事がある。どうやって呼吸を取り込んで良いか分からなくて、どうすれば息を吐けるか分からなくて。鼓動だけが駆け足になって。そうして苛立ちだけが蓄積する。
今日もそんな日だった。渡された書類の記号がバラバラ。どう頑張っても正確に判断出来ないものなのに、上司は此方に丸投して、口論になった。その後の会議では自律神経の乱れによる寒け、目眩、声の反響、倒れそうになるなどの身体的不調が続いた。早く帰りたいと思ったら、コート掛けには人だかり、エレベーターには接待する人々で、上手く帰れなかった。
そうして都合の良い電車を逃して今にいたる。鞄に定期券を何度か叩きつけても、そろそろ許されるのでは無いかと思っている。兎にも角にも気持ちが悪くて、ふらふらして、まともな判断が下せない状態にあった。
何とか帰宅して、荷物を下ろし、コートを掛けると、もうそれだけで座り込んでしまう。
疲れた。自分が出した指示に責任持てない上司にも、コート掛けの人混みも、接待の為に乗れなかったエレベーターも、何より、自律神経が狂って今立つことも出来ない自分時に、苛立ちが止まらない。
息ってどうやってするんだっけ? 吸って吐くってどうするんだっけ? なんだかそれさえも面倒臭くなって、そのままゴロリと横になった。
ひたひたと足音が聞こえてくる。足音以外の情報として、私以外にこの家にいる人なんて知れてい。同居人の瑠衣である。瑠衣は私の近くに静かに腰を下ろすと、髪の掛かった首周りにそっと手を添えた。
「ごめん。夕飯先食べてて」
今動けないから。動きたくないから。というか、せっかく作って貰って大変申し訳ないけど、多分今は何を口に入れても気持ち悪くなるから。
イライラする。私を不快にさせる全てに。けれどもそれ以上に、些細な事も許せず、自立神経が狂ってしまうこの自分に。
「水は?」
「勝手に飲むよ。……ごめんね。暫く一人にして欲しいんだ。夕飯は後で食べるから。大丈夫」
そう言うと、名残惜しそうに首元を撫でていた手が遠のいた。其れが最後の温情だと言うように。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。