選び取りのその先で、推しが決まった話

夏乃鼓

選び取りのその先で、推しが決まった話

--某月吉日、俺は姉夫婦の自宅へと招かれた。姪っ子の乃愛(のあ)ちゃんの1歳のお誕生日会をするから、写真や動画をたくさん撮って欲しいらしい。

美味しいご飯を用意してくれているみたいだし、久しぶりに姪っ子に会えるのも嬉しいんだけど……。



「……姉さんもお義兄さんも、趣味隠す気ないでしょ?むしろ、この前乃愛ちゃんに会いに来た時より、物増えてない?!」

「え?そうかなぁ?これでも片付けた方だよ(笑)」

「お義兄さん!笑っている場合じゃないですって!」

「産後の体調もだいぶ良くなってきたから、また趣味のエンジンが掛かってきてさぁ(笑)」

「……姉さん、乃愛ちゃんのためにも、趣味はほどほどにしないと……。」

部屋中に飾られている、アニメのポスターやフィギュアやグッズを見て、俺は頭がクラクラしてきた。



俺がさっき言い淀んでいたのは、姉夫婦が趣味全開のガチ勢だということ。


俺の姉--山下 百華(ももか)は、生粋のコスプレイヤー。乃愛ちゃんが生まれてからは控えているけど、結婚式のお色直しでアニメキャラのコスプレをした強者だ。

俺のお義兄さん--山下 大貴(だいき)は、アニメオタク。姉さんとは、東京で行われている大型同人イベントで出会ったらしい。


……ちなみに、俺--上田 理人(りひと)は、趣味のないごく普通の会社員だ。人よりちょっとだけ写真や動画を撮るのが上手いから、今回の“記録係”として呼ばれたってわけ。





「ももちゃん(姉のあだ名)のお父さんお母さんに理人くん、久しぶりだね。」

「いやいや、来て早々に理人がうるさくして申し訳ない。大貴くんのお父さんお母さんも元気そうで何より。」

「「はっはっはっ」」

両家のお父さんたちが、挨拶しながら笑い合っている。


「あら!今日の菜々美さんのお洋服、素敵ねぇ!」

「陽子さんこそ、また若返りました?お肌ツルツルで羨ましい!」

一方で、両家のお母さんたちが、ごく普通に下の名前で呼び合ってキャッキャしている。




……そう!今日の乃愛ちゃんのお誕生日会、両家のお父さんお母さんも揃っているのだ。

はぁ、頭が痛い……。



と言うのも、【親にしてこの子あり】と言えるほど、両家のお父さんお母さんも、全員ガチ勢。

俺の父--上田 拓実(たくみ)は、歴史オタク。日本史が専門で、俺が社会の宿題で質問した時は、永遠に語るほどだった。しかも、日曜日の20時は、大河ドラマしか見せてもらえなかった。

俺の母--上田 菜々美(ななみ)は、裁縫マニア勢。俺が子どもの頃から、服や手さげカバンをたくさん作っていたけど、姉さんがコスプレにハマってから、母が一緒に作っている。



あと、お義兄さんのご両親についても紹介しておくか……。

お義兄さんの父--山下 丈二(じょうじ)は、鉄道マニア。「乗り鉄」とのことで、昔の電車や汽車にも詳しいから、俺の父とも話が合うらしい。

お義兄さんの母--山下 陽子(ようこ)は、男性アイドルグループのファン。1人でも遠征できるほどアクティブな人で、参戦服を俺の母に作ってもらったらしい。


そんなこんなで--

失礼ながら、まともな人が俺しかいない。




◇◇◇◇◇




乃愛ちゃんのお誕生日会は、和やかな雰囲気で進んでいった。



そして、最後に【選び取り】をする時間になった。

選び取りとは、将来の才能や職業を占う日本の伝統行事で、赤ちゃんが最初に触ったもので未来を予測するらしい。

しかも、一升餅を背負った状態でやるから、世間一般の1歳は大変だ。



……と、ぼんやり思っていたら、和やかな雰囲気が急にピリつき始めた!!

周りの大人を見ると、みんなガチな目をしている。しかも、手元には1人ずつ紙袋を持っている。



「では、いよいよ選び取りを始めましょう。皆さん、準備はいいですか?理人は、今からビデオで撮ってね。」


やけに丁寧な話し方と怪しい笑顔で、姉さんが俺以外の大人に声を掛ける。

「「あぁ」」「「えぇ」」


一体、選び取りなのに何が始まるんだ?!

とりあえず俺は、うるさくならないようにビデオを撮り始めた。


「じゃあ、私から……。」

と言って姉さんが置いたのは、金髪のウィッグとカラコンが入っている箱。

……はぁっ?!姉さん、何考えてるんだ?!


「次は、僕の番だね。」

と言い、お義兄さんがルンルンしながら置いたのは、アニメキャラや特撮キャラのアクスタが10体。

……えっ、お義兄さんもなの?!これ、推しを置いてる感じ?!てか、多くない?!


「では、次は山下家が置かせてもらおう。」

お義兄さんのお父さんは、分厚い時刻表と蒸気機関車の玩具。

……あ、はいはい。みんなそんな感じで来るんですね。たぶん、蒸気機関車は某有名玩具会社製かな?


「私は、これね!」

お義兄さんのお母さんは、男性アイドルグループのペンライトと推している方のデコうちわ。

……うわぁ、推し全開だ。でも、ペンライトは乃愛ちゃんでも持ちやすいかも?!


「最後は上田家だな。」

父さんが置いたのは、家紋がたくさんついたタオルと日本史年表のポスター。

……渋さ全開だけど、父さんらしい。


「乃愛ちゃんに、選んでもらえるかしら?」

母さんが置いたのは、お手製の乃愛ちゃんのワンピースとヘアバンド。

……家でニマニマしながら作っていたのは、これだったのか!




ついに、六者六様のガチグッズが、横一列に並んだ。

姉さんが、一升餅を背負った乃愛ちゃんを少し離れた所に移動させ、すぐにグッズの後ろに戻る。


「乃愛ちゃん、こっちおいでー!」

姉さんの掛け声で、乃愛ちゃんはよたよたハイハイをし始めた。

俺は、乃愛ちゃんの動きを見逃さないために、横から乃愛ちゃんの動きをビデオで追った。

グッズの手前で、乃愛ちゃんはペタンと座り込み、グッズたちをキョロキョロ見渡す。

大人たちは固唾を飲み込んで、静かに……でも熱く乃愛ちゃんを見守る。



大人たちの雰囲気を少し察したのか、ちょっと困り顔の乃愛ちゃん。

グッズを見ている流れで、乃愛ちゃんはビデオを撮っている俺に気がついた。俺は声を出していないから、気づかなかったのだろう。



乃愛ちゃんは俺の顔をじーっと見つめる。

次の瞬間、進行方向を90°変えて、乃愛ちゃんが俺の方に向かってハイハイしてきた!

しかも、満面の笑み!!


「「えっ!どこ行くの?!」」

と他の大人は声を上げてオロオロし始めている。



乃愛ちゃんは、他の大人を無視して、ハイハイで俺の所に来た。

そして、

「あきゃ〜〜っ♡♡」

と声を出して、超絶上目遣いで、とびっきりの笑顔で俺に抱きついてゴールした。



……天使だ。マジで天使っているんだ。この世に、こんな可愛い天使がいたのか。神様ありがとうございます。俺、決めました。乃愛ちゃんを一生推していきます。もう、推しが可愛い。こんなにも可愛いのか。もう、語彙力がなくなってきた……。



「理人?!おーい!!」

「……ね、姉さん!俺、一瞬フリーズしてた?!」

「理人くん、これは完全に乃愛ちゃんに【沼落ち】だね。でも、僕たちの可愛い娘だから、叔父さん兼ファン1号としてよろしくね(笑)」

「ちょっ……お義兄さん!//」

「「あははははは!」」



--こうして、俺はめでたく、乃愛ちゃんガチ勢になりましたとさ。

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