群芳譜

吉田隼人

群芳譜


  À Yukio Mishima

ソーダ水くちに弾けて霜月の平岡 公威こうい死にたまひけり


  イエスは三十四にて果てにき乾葡萄噛みつつ苦くおもふその年齒とし/塚本邦雄『装飾楽句カデンツァ


邦雄は経理部長にて退き淡海あはうみの国はるかなる彦根高商


  À Ken'ichi Yoshida

買ひなほすことなく諳んずることで焼かれし本を悔やむ健坊

  À Mitsuo Nakamura

健坊は喪主の大役こなしたり木庭さんの借りものの喪服にて


  À Nobuhiko Kobayashi

たれひとり責任負はぬニッポンの植木等の背広のみどり


  「とんでもねえことだなあこれぇ!?」

黴むせる芋のやうなる知識人しきりに唾を飛ばすはつなつ


  À Masaomi Kondoh

おひたしのしやきつといたし暗き夜の近藤正臣の京ことば


  À Shigeru Nambara et Kôtarô Tanaka

南原と田中 こころは一致せずたそがれ近きこのしづけさを


  À Shiguéhiko Hasoumi

くりかへす歴史に一度目はなくていつもみだらな笑劇ばかり


  À Wataru Hiromatsu

廣松のサラシの下にバレンタインチョコ溶けてゆく茶房の午後か


  À Takashi Tachibana

ひとりまたひとりと斃れ滅ぶ世にメーヌ・ド・ビランの日記購ふ


  À Masao Maruyama

講義のみ聴きて試験を受けざりし眞男のまへに珈琲のゆげ


  À Sôkichi Nagai

カツ丼を喰ひ血を吐きて死ににけり敗荷落日なむあみだぶつ


  À Kinnosuke Natsume

晩年のKAN、晩年の漱石を真似て写真を撮りて遺影に


  À Atsuo Egashira

親よりは先に死にたし 嵐の日逝きし江藤の犬への愛も


  À Rokusaburô Nieda

哲学史教科書古代の部のをはりプロティノスありさらば春愁


  À Tadashi Inoue

眠られぬ夜は夜もすがら在ることのパルメニデスをおもひて過ぐす


  À Kanji Nishio

ニイチェ受容史読むはなぐさめ生田長江受洗時いまだ十九世紀


  À Kitarô Nishida

鎌倉に没せしといふギリシア語つひに成らずと悔やみしひとは


  À Osamu Ikeuchi

散歩するカントをおもふこんじきの懐中時計まばゆき午後の


  À Kei Ogura

勧銀の神田さんよりお電話のありてそののちにほひたつ空


  À Shigeharu Nakano

卒論のためのハイネの全集を安吉もまた質に入れしか


  À Kusatao Nakamura

草田男に長子なる語のかく重くされど花咲きそむる季節の


  À Hisashi Inoue

困難は分割せよ、はデカルトにある句とをしへられチョークの重き


  À Kazuyoshi Morita

春うらら空耳アワーでたまにある「歌詞不明」の安齋さん、すごい顔



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群芳譜 吉田隼人 @44da8810

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