第25話
⑦ 終わらせた言葉
オーナーは、
客が来ると
いきなり距離を詰める。
「おおっ、○○じゃーん?」
「久しぶり!」
声は大きい。
テンションも高い。
対局に入りたがる日もある。
入らない日は、
驚くほど静かだ。
差は、分かりやすい。
客を選んでいる。
正直に言えば、
私はオーナーと
同卓したくなかった。
この店は
競技麻雀を掲げている。
少なくとも、
そう名乗っていた。
でも、
オーナーの振る舞いは
明らかに違っていた。
⸻
BGMが変わる。
懐かしいJ-POPから、
別の曲へ。
鼻歌が始まり、
身振り手振りが大きくなる。
時々、
歌い出す。
人には
「牌は静かに置いて」
と言う。
でも、
自分は派手に置く。
手の動きは、
大げさで、
どこか芝居がかっている。
⸻
三味線。
言葉や動きで相手を惑わせ、
自分を有利にしようとする行為。
競技では、
嫌われる。
⸻
対局が始まると、
急に会話が増える。
イベントの話。
前に何があったか。
誰がどうだったか。
オーナー以外の誰かが和了すると
必ず話が始まる。
「今のはどういう流れ?」
「狙いは?」
最後は、
決まってオーナーの話になる。
「今のはさ、
テンパイしてたんだけど
あえて外してね……」
⸻
私は、
対局が始まる時に
「よろしくお願いします」
と言ったきり、
表情を変えない。
会話に入らない。
分からないし、
入りたくない。
鳴き。
リーチ。
カン。
ロン。
ツモ。
必要な言葉だけを、
相手に届く音量で。
それだけだ。
⸻
オーナーが、
こちらを見る。
何か言え、
という視線。
気にしない。
気にした瞬間、
集中が切れるからだ。
⸻
流局。
私はノーテン。
イーシャンテンだった。
次の局に移る時、
オーナーが聞いた。
「今のは、
何を狙ってた?」
私は答えた。
「牌は、
中に入れたので
分かりません。」
それだけだった。
⸻
オーナーは、
何も言わなかった。
話は、
そのまま終わった。
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