第43話 姉
昼過ぎ、家でぼんやりと過ごしていると、端末が短く振動した
画面を確認すると、表示された名前に少しだけ意外な気持ちになる
羽板葵
通知を開くと、簡潔な文面が目に入る
今、時間ある?
久しぶりにご飯行かない?
それだけの文章なのに、なぜか胸の奥が少しだけ温かくなる
施設で一緒に育った、血のつながりはないが姉のような存在
仕事で顔を合わせることはあっても、こうして個人的に食事に誘われるのは久しぶりだった
すぐに了承の返事を送ると、数秒も経たずに既読がつき、待ち合わせ場所と時間が送られてくる
準備を整え、指定された店へ向かう
街の中は平日の昼間らしく、人通りはそこそこある程度で落ち着いていた
約束の店は、少し奥まった場所にある定食屋だった。昔から変わらない、木の看板とガラス戸
中に入ると、すでに羽板は席についていた
長い髪を後ろで軽くまとめ、普段の戦闘時よりも柔らかい雰囲気だ
こちらに気づくと、軽く手を振って笑う
「久しぶり。元気そうじゃん」
「まあ、それなりに」
向かいの席に腰を下ろす
注文を済ませると、しばらくは他愛のない会話が続いた
最近の仕事のこと
羽板のパーティの様子
新人が増えて、少し騒がしくなったという話
食事が運ばれてきた頃、話題は自然と近況へ移っていく
「そういえばさ」
箸を置き、羽板がこちらをじっと見る
「この前のダンジョン溢れ。ニュースで見たよ」
来るだろうとは思っていた話題だった
「ああ、まあ……現場に呼ばれただけだ」
できるだけ淡々と答える
だが、羽板は納得していない様子だった
少しだけ眉を寄せ、ため息をつく
「呼ばれただけで、あんなことにならないでしょ」
視線が鋭くなる
「無理、してない?」
その一言に、少しだけ言葉に詰まる
心配されているのは分かっている
「無理は……必要な範囲でしかしてない」
そう答えると、羽板は苦笑した
「それが一番信用できない答えなんだよ」
昔から変わらない口調だった
施設にいた頃、怪我をして戻るたびに、同じように言われていたのを思い出す
「自分の限界、ちゃんと分かってる?」
「分かってるつもりだ」
「つもり、ね」
羽板は小さく首を振る
「あなたは昔から、限界の一歩先まで行こうとするから...」
その言葉に、反論はできなかった
しばらく沈黙が流れる
だが、それは重たいものではなく、どこか懐かしい静けさだった
やがて羽板は話題を変える
「そういえば、覚えてる? 施設の裏庭」
「……ボロい鉄棒があった場所だろ」
「あれ、あなたが壊したんだよね?」
「俺じゃない」
即座に否定すると、羽板が吹き出す
「はいはい。そういうことにしとこ」
その笑顔を見ていると、胸の奥が少し緩む
施設で過ごした日々
大したものはなかったが、それでも確かに居場所だった
夜になると、羽板が年上らしく振る舞い、無理に明るく話してくれたこと
怖い夢を見た子どもを、静かにあやしていた背中
自分にとって、彼女はずっと姉のような存在だった
「今はさ」
羽板が静かに言う
「強くなったのは分かる。でも、一人で背負わなくていいんだから」
視線が真っ直ぐ向けられる
「困ったら言いな」
その言葉に、思わず小さく笑ってしまった
「姉貴面するなよ」
「何今さら」
羽板は肩をすくめる
食事を終え、会計を済ませる
店を出ると、空は夕方の色に染まり始めていた
並んで歩きながら、他愛のない話を続ける
仕事の愚痴
最近の食事事情
次にどこへ行く予定か
やがて駅前に差し掛かり、自然と足が止まる
「じゃあ、今日はここまでだね」
「ああ。またな」
軽く手を振ると、羽板は少しだけ真剣な表情になった
「本当に、無理しないで」
「努力はする」
そう答えると、満足したのか小さく頷いた
背を向けて去っていく羽板の後ろ姿を見送りながら、胸の中に静かな温もりが残る
夕暮れの街を一人歩く
明日からまた忙しくなるだろう
それでも、こうして誰かが気にかけてくれるだけで、少しだけ前に進める気がした
本作を読んでいただきありがとうございます!
勢いで描き始めた作品なので話の矛盾点や誤字脱字などがあったら教えていただけると嬉しいです。
そして少しでも面白いと思って頂けたら、作者の励みになりますので♡や⭐︎、感想などよろしくお願いいたします!!
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