転生ルーレット〜アタリを引いて勇者になりたい!

マロッシマロッシ

転生ルーレット〜アタリを引いて勇者になりたい!

 水戸正義29歳は、あっけなく死んだ。


 台風の余波が残る強風の日。数打ちゃ当たるの営業中に、飛んで来た瓦が後頭部に直撃。「ガッ!?」と声を出したのまでは覚えている。


 視界は真っ暗。ああ、これが死後の世界か……天国や地獄はなく、無の世界……にしては、意識が割とハッキリしている。


「ここは、天国と言えなくはないかもなぁ?」


 野太い声が聞こえた。


 目を開けると、パンチの効いたパーマにティアドロップのサングラス。それに白いローブを着ている「ああ……その筋の……」と、誰もが思うであろうイカつい男が、これまたよく分からないルーレットの斜め前に立っていた。


 地面は白いモヤと雲の中間。男の言う通り、天国の様な場所なのだろう。正義は思う……こんな時は、女神様でないのか……?


「うるせぇ。テメェのイメージなんだよ、俺の姿は。好きな定食屋のオッさんとか、会社で苦手だった上司のミックスみてぇな姿じゃねぇか? それで、俺がこんな姿に見えるんだろうぜ」


「!」


 心を読まれている事に正義がビックリしていると、イカつい男は話を続ける。


「チャッチャと話を進めんぞ? 俺の後ろにあるルーレットを回し、テメェは何かになって他所の世界に転生する。日本人は好きだろ? 異世界転生ってヤツがよぉ……? その機会を俺が貴様にくれてやるぜ!」


「……おお!」


 正義は、イカつい男の言葉をゆっくり飲み込んで興奮した。もうすぐ30の男が、異世界転生に興奮するのはどうかと思ったが、今までのパッとしない人生が劇的に変化する……! 次の人生は冒険者……いや、勇者になってバッタバッタとモンスターを倒し、何処ぞの姫様や見目麗しいエルフなんかと恋仲になって、魔王みたいな存在を───。


「楽しい妄想中に悪ィけどよ、ルーレットをよく見ろよ? 確かに勇者とか英雄に転生できるが、それ以外もゴマンとあるぜ」


 イカつい男に言われて、ルーレットへ目を凝らすと、本当だ……普通の生物はマシな方で、モンスターや菌、ウィルスまである。異世界に行ってまで、他人の体の中で過ごすのか……? しかもルーレットの枠が、何項目あるんだ!? と叫びたくなるくらいに細かい。正義の希望は、絶望に変わる。


「まっ、こればっかりはテメェの運だ。ほらよ……」


 クイズ番組で見る様なボタンを渡された。押すとルーレットが回り、もう1度押すと止まるのだろう。


「自分のタイミングで押せや。けど、後がつかえてるからよ……とっとと、頼むわ」


 イカつい男がサングラスを外した顔は、掛け値なしに怖かった。正義は、正座姿で震えながらボタンを押す。


 トゥルルルルル……ルーレットに高速で光が走る。正義は、気合いの入った願望と欲望と共に、再度ボタンを押した。


「勇者ァァァァァァァッ!」


 トゥ……トゥ……ティーン!


「……あーあ。『ボムチョ草』だな。テメェが行く世界に生えてる雑草だわ。まぁ、頑張れや」


 雑……草……? 異世界に行って、何をするんだ……? 正義の心の声をイカつい男が拾う。


「雑草も立派な生き物だ。楽しく光合成して達者に暮らせや」


 異世界で……雑草……俺の冒険とハーレ──。


「草ァァァァァァァッ!」


「ブッ!?」


 正義の意識は、イカつい男の掛け声とゲンコツで途切れた。




 自我が復活した時、正義は辺り一面に緑を感じていた。視界はないが、自分の同胞が大量に周りにいるのが分かる。何処かの草原なのだろうか……偶に吹く風が心地良い。


 自分に留まる虫と楽しく会話したり、干ばつや寒波で死に掛けたりを何度か経験をした。


 正義が、ボムチョ草になって5年目。


 唐突に死が訪れた。


 野焼きか戦争かは分からない。突然体が燃えた。痛いし、熱いし、怖かった……。



「……ねぇ、起きて?」


 覚えている……。自分が人間から、ボムチョ草になって焼死した事を。優しい声……今度こそ、女神様が出迎えてくれたのだろう。しかも、体勢的に……これは……膝枕だろうか!? 


 正義は、希望を胸に目をそっと開ける。


「お疲れィッ!」


 ……イカつい男だった。


「テメェ……女神に会いたいんならよ、もう少しイメージしろよ? ところでよ、俺の声色は中々のモンだったろ?」


 ついさっきまで、こちとら雑草だったのだ。そんな都合良くイメージ出来る筈がない。それに女神になって貰っても、元はイカつい男だ。ありがたみはない……などと考えていたら、イカつい男はボタンを投げた。


「ったく……良いサービスだったろが。テメェの無礼は忘れてやる。サッサと次を決めろや」


 魂が吹き飛ばされそうなくらい凄まれた。正義……いや、ボムチョ草はボタンを押す。


 トゥルルルルル……。


「(次こそ)勇者ァァァァァァァッ!」


 トゥ……トゥ……ティーン!


「……ちょいマシか。『ペランチョム』……異世界の鳥だな。まぁ、頑張れや」


 確かにマシだけどもッ!? 村人Aにもなれない俺は一体───。


「鳥ィィィィィィィィッ!」


「デッ!?」


 またもや掛け声とゲンコツで、ボムチョ草の意識は途切れた。




 自我はあるが、視界は暗い。産まれたてなのだろう。正義でボムチョ草だった存在の雛は、ピョーピョーとエサを求めて必死に鳴いた。


 目が開き掛けた時、死は訪れた。


 どうやら、天敵に食べられたらしい。



 飛べもしなかった……。ペランチョムが後悔に似た感情に浸っていると、ボタンが投げられた。


「自然の摂理ってヤツだ。次、行こか?」


 イカつい男の眼力が凄い。ペランチョムはボタンを押す。


 トゥルルルルル……。


「(3度目の正直だ……!)勇者ァァァァァァァッ!」


 トゥ……トゥ……ティーン!


「おー。陸海空を制覇だな。『テチョムリョン』……異世界では、中々の魚だぜ」




 テチョムリョン人生は、成魚になる前に食べられた。


 正義であり、ボムチョ草であり、テチョムリョンだった魂は、死ぬ度にイカつい男の前でルーレットを繰り返す。


 4回目……獣型モンスター。5回目……庭園の花。6回目……未知のウィルス。7回目……2足歩行のモンスター。8回目……食虫植物。9回目……ボムチョ草……。


 殆どの人生で、成長しきることなく死んだ。


 2度目の、そこそこ長続きしたボムチョ草人生を終え、10度目のルーレットの前へ……。


 イカつい男はティアドロップのサングラスを外し、真っ直ぐにボムチョ草を見据えて厳かな声で質問する。


「なぁ、まだ自分が何モンだったか覚えてるか?」


「……覚えて……います。自分は、水戸正義。勇者になりたい男です」


「あんだけ、理不尽な目に遭ってもなりてぇか?」


「はい!」 


「なってどうする?」


「人々を助けます!」


「ハーレムは!?」


「……あ、合間で頑張ります……」


「素直じゃねぇか! 行って来い、勇者ァァァァァァァッ!」


「デュッ!?」


 掛け声とゲンコツで、正義は勇者の魂として異世界へ旅立った。


 程なくして、イカつい男の後ろに球体の精神体が近付く。


「交代だ。勇者の試練ごっこは楽しかったか?」


「まぁな。あれだけ転生を繰り返して、自我が消えないヤツは大したタマになるぜ」


「物好きなヤツだ。地上を救う勇者など、ルーレットでランダムに選べば良いものを……」


「へっ! 俺の趣味だ。じゃ、後は頼むわ……」


 数々の理不尽な転生を繰り返し、魂が強靭になった水戸正義は、歴代勇者の中でも群を抜いた活躍を異世界で見せた。その裏に、気まぐれな神がいた事は誰も知らない。

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