幼馴染は手つなぎ金魚

小絲 さなこ

「せっかくユキがお祝いしてくれたのに……ごめんね」


 隣を歩くハルが俯く。

 頭ひとつ分の身長差があるから、俺から見えるのはハルの形の良い頭。

 顔は見えないが、幼馴染だからわかる。これは本気で落ち込んでいる。



 委員会の先輩に告白された。恋愛の好きかどうかはわからないけど、悪い人では無いから付き合ってみることにした────と、いつも行くファミレスでハルから報告されたのは、先週火曜日のことだった。


 なぜ俺にそんなこと言うんだ。

 そう思ったが、あぁそうか、たとえ幼馴染でも彼氏から見たら自分以外の男と二人きりで過ごすなんて嫌だよな、と気づいた。

 それと同時に、気付かなくてもいいことまで気付く。


 なんでこんな時に気がつくんだよ、俺……


 初めての彼氏が出来たお祝いと称してハルから強請られたのは、干し柿をあしらった期間限定のパフェ。


 俺は握りしめた自分の指が冷えていくことを感じながら、向かいでパフェを頬張るハルを眺めることしか出来なかった。




────そして本日、月曜日。

 家を出ようとしたら、玄関の前にハルが立っていた。

 物心つく前からの付き合いだ。顔を見れば悲しいのか嬉しいのか、それくらいはわかってしまう。

 LINEでは伝え難く、学校では話し難いことを俺だけに言いたいのだ、ということも。


「どうした」


 俺が問うと、ハルの瞳が揺れた。


「ユキ……ごめん……」

「……なにが」

「先輩と、別れた」

「は?」



 涙目のハルを見て、自分の部屋に押し込めたくなったが、そんなことをしていたら学校に遅刻してしまう。

 歩きながら話を聞くことにした。



「なんだってそんなことに……実はモラハラDV男だったのか?」

「……違う。私が悪いの」

「喧嘩でもしたのか」

「違う」


 ざくざくざく。

 黒いスニーカーで踏みつけられた霜柱が悲鳴を上げる。


「昨日ね、一緒に初詣行ってきたんだけど……その帰りに、手……繋ぎたいって、言われて……」


 白い息を吐いて、ハルが自分の手を見つめる。


「そのとき……なんか、手、繋ぎたくないって思っちゃったんだよね……」

「それは……えーと、手汗が気になったってやつか?」

「違う。そうじゃなくて……なんか、気持ち悪いなって」


 先輩に同情のような感情を抱きつつ、次の言葉を待つ。


「なんか、だって……嫌だと思ったの。なんでだろ……」

「付き合って一週間も経ってないのに手を繋ぎたいって言われたからじゃねーの」

「違うと思う……なんか、うまく言えないけど……このまま先輩と付き合っていく自分の姿が想像したくないなって。だって、なんか……わかんないけど……触ってほしくない、って思ったの」

「……嫌悪感を、抱いたってことか?」

「そうそれ!」



 ……うわぁ。同情しかねーわ、先輩。



「せっかくユキがお祝いしてくれたのに、ごめんね、こんなことになって」

「いや……」


 俺は湧き上がる感情で頬が緩まないように努めた。


 いや、ほんと、先輩のことを思うと……なぁ。気の毒なんだけど……喜ぶなよ、俺!


 突然、ハルが俺の左手を掴み指を絡めるように触れてきた。


「な、なんだよ」

「ハルとなら、手を繋いでもなんとも思わないのに……なんでだろ」

「なんともって……俺はドキドキしてるけど」


 慌てて右手で口を抑えたが、時すでに遅し。


 俺の手を握りしめたまま、顔全体を真っ赤に染めたハルは口をパクパクとしている。金魚かよ。



 

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