廻る朝、静寂
@ShikyouAila
廻る朝、静寂
スマホのアラームが鳴るより一瞬早く、俺は目を覚ました。
頭はまだ少しぼやけていて、胸の奥が妙にざわついていた。
ふと視線を逸らすと、隅でカーテンが僅かに揺れていた。
隙間からは光が見え隠れする。外は朝。
不思議なことに、音がない。
鳥の声も、車のエンジン音も、いつも聞こえる隣のテレビの音も。
世界が息をひそめているかのような静けさ。
「……なんだ、これ」
ふと小さく呟き体を起こした。途端、アラームが鳴り始めた。
ピピピ、と機械的な音が、部屋の静寂を引き裂くように響く。
時計の針は六時を指したままだった。
昨日も、同じ時間に目が覚めた気がする。
アラームを止めると、急に世界が戻ってきたような気がした。
チチチ、と窓の外で鳥が鳴き、隣の部屋からはニュース番組のキャスターの声が聞こえる。
音があるだけで、安心できるものなんだと、妙に実感する。
さっき感じた静けさは“幻”だったのか、はたまた今が“夢”なのか——判断がつかない。
まだ寝ぼけているな……
洗面台へ向かい、顔を洗って鏡を覗く。
髪は寝癖で乱れ、目の下には薄い隈。見慣れたいつもの俺の顔がそこにあった。
だが鏡の奥で、自分が一瞬“遅れて動いた”気がした。
瞬きのタイミングが、ずれたような。
「……寝不足、か」
欠伸をこぼしながら独り言のように呟き、いつもの安いインスタントコーヒーを淹れる。
ふわっと湯気が上がり、白く揺らめいた。
カーテンを開けると、曇り空。
まだ早い時間なのに、人や車も忙しなく動いていた。
それを見ていると、俺だけがどこか取り残されているような気がした。
スマホを見ると、未読メッセージがひとつ。
見覚えのない相手からの通知。
「昨日は大丈夫だった?」その一言だけ。
昨日、何かあったっけ……
思い出そうとすればするほど、曖昧になっていく。
なんだか、夢で同じものを見たような……
突然、手にしたスマホが震え、思わずスマホを落としそうになる。
着信? 誰からだ?
慌てて画面を確認するが、着信の記録は確認できなかった。
なんだか今日は不思議なことばっかり起こるな……
画面とにらめっこしていると画面端の時間と目が合った。
「やっべ……」
とっくに家を出る時間を過ぎていた。
いつの間にこんなに時間が経った?
考える暇もなく、バタバタと準備を整えて部屋をあとにした。
遠くで赤いランプが点滅していた。
強く発光していたはずの明かりが、いつの間にか霞んでいった。
自然と目が覚めた。アラームが鳴る少し前。
部屋の静寂とは裏腹に、心臓が脈打つ音がやけに大きく響いていた。
キーンとした耳鳴りがしたかと思うと、窓の外から鳥の鳴き声がした。
隣の部屋からはいつものニュースの音が聞こえる。
顔を洗うため洗面所へ行く。
冷たい水が、ボケた頭を現実に引き寄せた。
鏡を覗くと、やけに目が霞んでいて自分の顔がぼやけて見えた。
目頭をつまみながら、キッチンへ向かい、コーヒーを淹れる。
白い湯気越しに見た部屋の中は、まるで違う世界のように感じた。
スマホが鳴るような気がしてスマホを手に取ったが、スマホはいつまでも無音のままだった。
なんで鳴ると思ったんだ?
微かな疑問を感じながらも、用意を済ませて部屋を出た。
カーテンからこぼれる僅かな光に照らされ目が覚めた。
アラームが鳴るまではあと数分ある。
やけに部屋が静かで、自らの呼吸の音でさえ遠く感じる。
ベッドから降りる。歩く音さえもその静寂の中に沈んでいくようだった。
まだ寝ているのか、俺は?
ベッドに振り返ったとき、けたたましくアラームが鳴り響いた。
歯車が噛み合ったように、世界に音が戻った。
外を走る車の音が聞こえ、隣の部屋からはテレビの音が漏れていた。
アラームを止め、スマホの画面を見ると未読メッセージが一つ。
「無理しないでね」の一言。
記憶を辿ろうと頭を働かせるが、思い当たる節は一つも出てこなかった。
ってか、こいつはだれなんだ?
見覚えのない名前に妙な胸騒ぎを覚えながら、コーヒーを啜り、部屋を出た。
ピピピ、とアラームが鳴る音が響いた。
手探りでスマホを探し、停止ボタンを押す。
さっき外に出た気がするんだけど……
時間を確認するが、まだ部屋を出る時間には早かった。
夢でも見ていたのか?
洗面所は既に水が流れた後があり、髪の乱れも整えられていた。
コーヒーを淹れようとお気に入りのカップを探すが見当たらなかった。
仕方なく棚の奥から古いカップを引っ張り出してコーヒーを淹れた。
いつものように早々と飲み干し、流しに向かうと、いつものカップがそこにあった。
カップの底はまだ少し湿っていた。
なにかがおかしい。
胸の奥に引っかかりを感じながらも、慣れた手つきでカップを洗い、部屋をあとにした。
スマホを手に取る。
ボケた目を擦りながら見た画面には、いつもなら既に部屋を出ている時間が表示されていた。
……アラーム鳴ったか?
バタバタと用意を進めるが、明らかに間に合う時間ではない。
急いだところで何か変わる気もしなかった。
そう思った途端、全身から力が抜けた。
椅子に腰掛け、窓の外を眺めると、雲の動きがやけにゆっくりだった。
焦る気持ちも落ち着き始めたとき、机の上でスマホが鳴り響いた。画面には上司の名前。
全力疾走するように心臓が脈打ち、現実が飛び込んでくる。
スマホに向かって必死に謝罪しながら、部屋を飛び出した。
外に出た俺は、通い慣れた道を足早に走り職場へ向かう。
いつもの道、いつもの席、いつもの食事。いつもと変わらない時間が流れていた。
忙しなく一日が過ぎ、また次の一日が始まる。
しかし、この日は急な業務の追加で帰りがいつもより遅くなった。
いつもと違う時間に歩く街は、見慣れた風景とは違って見えた。
いつもは賑やかな街も、いくつか明かりが消え、静寂を作ろうとしていた。
流石に疲れた……
疲労で重くなった足を引きずり、帰路を進む。
昼から何も食べていないはずなのに不思議と空腹は感じなかった。
とりあえず帰ろう……
遠くで信号のランプが点滅している。
今ならまだ間に合うはずだ。
よかった、この信号は一度変わると長い。
渡り切るまであと一歩のところで、世界が反転した。
衝撃にも似た感覚が全身を駆け抜けた。
何が起きたのか考える暇もなく、消えゆく街の光のように沈んでいった。
***
スマホのアラームが鳴るより一瞬早く、目を覚ました。
頭はまだ少しぼやけていて、胸の奥が妙にざわついていた。
ふと視線を逸らすと、隅でカーテンが僅かに揺れていた。
隙間から光が見え隠れする。外は朝。
不思議なことに、音がない。
鳥の声も、車のエンジン音も、いつも聞こえる隣のテレビの音も。
世界が息をひそめているかのような静けさ。
「……なんだ、これ」
ふと小さく呟き体を起こした。途端、アラームが鳴り始めた。
ピピピ、と機械的な音が、部屋の静寂を引き裂くように響く。
時計の針は六時を指したままだった。
アラームを止めると、急に世界が戻ってきたような気がした。
チチチ、と窓の外で鳥が鳴き、隣の部屋からはニュース番組のキャスターの声が聞こえる。
しかし、それらの音には雑音が混じり、何か一枚隔てたかのように不鮮明だった。
まだ寝ぼけているな……
洗面台へ向かい、顔を洗って鏡を覗く。
髪は寝癖で乱れ、目の下には薄い隈。見慣れたいつもの俺の顔がそこにあった。
だが鏡の奥で、自分が一瞬“遅れて動いた”気がした。
瞬きのタイミングが、ずれたような。
「……寝不足、か」
欠伸をこぼしながら独り言のように呟き、いつもの安いインスタントコーヒーを淹れる。
ふわっと湯気が上がり、白く揺らめいた。
カーテンを開けると、曇り空。
まだ早い時間なのに、人や車も忙しなく動いていた。
それを見ていると、俺だけがどこか取り残されているような気がした。
スマホを見ると、見覚えのないメッセージがひとつ。既に既読が付いていた。
「昨日は大丈夫だった?」その一言だけ。
なんだか、前にも同じものを見たような……
突然、手にしたスマホが震え、思わずスマホを落としてしまった。
慌てて画面を確認すると、画面は割れ、電源が入らなかった。
「最悪だ……」
落ち込んだ気分のまま、いつものように準備を整えて部屋をあとにした。
部屋の郵便受けは、あの日からずっと手つかずのままだった。
廻る朝、静寂 @ShikyouAila
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