人魚のおくりもの

青川メノウ

第1話 人魚のおくりもの

認知症の祖母には宝物があった。

それは美しい巻貝の貝殻で、チェストの引き出しに大切にしまっていて、時々思い出したように取り出しては、うっとりと眺めたり、耳に当てたりしていた。

「人魚に貰ったのさ」

と祖母は言ったが、たぶん作り話だろう。

しかし海に近い祖母の村には、古くから人魚伝説があった。

人魚の歌を聞くと良いことがあるというのだ。

だから祖母の話も、あながち嘘ではないかもしれない。

「貝殻から澄んだ人魚の歌声が聞こえるんだ。聞いてみるかい?」

「うん」

私は貝殻を受け取って耳に当てた。

ただ静かな波の音だけが聞こえた。

「美しい歌声だね」

と言って返すと、祖母は満足そうにニッコリした。

ある時、

「貝殻がない!」

と祖母がおろおろして探し始めた。

貝殻はやがて見つかった。

上着のポケットに入っていたのだ。

「良かったね、おばあちゃん」

と私は優しく声を掛けた。

それから数年後、祖母は亡くなった。

最期の時は呼吸が苦しそうで、意識もほとんどなかった。

私はチェストから貝殻を取り出して、そっと祖母の耳に当ててあげた。

すると祖母の顔にうっすらと笑みが浮かんだ。

「ああ、今おばあちゃんは人魚の歌声を聞いているんだろうな」

と私は思った。

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人魚のおくりもの 青川メノウ @kawasemi-river

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