かしこい犬とおばかな犬

@AIokita

かしこい犬とおばかな犬

あるところの領主は知り合いから「とても賢い」という血統の犬を譲り受けました。知り合いの飼っている親犬は確かにとても賢く、命令にもハキハキと従うので、同じ血統の犬を貰い受けた領主も喜びました。


屋敷に帰ると領主はさっそく犬に芸やしつけを仕込もうとあれこれ命令しました。

「さぁ、座って行儀よくしていなさい」

領主はそう言いましたが犬は屋敷の中を歩き回って辺りの匂いを嗅いでいました。

「それなら一緒に狩りに行こう」そう言って領主は犬を連れて森へ出かけました。

「ほら!獲物を取ってくるんだ!」領主は撃ち落としたハトを取ってくるように命じましたが、犬は広い場所で走り回ると満足して帰ってきました。

領主は「ほら、あそこに落ちているハトを咥えて持ってくるんだ。行きなさい」と指をさして犬に伝えました。犬はその場で寝そべって不思議そうな顔をしています。

夜、寝るときになっても犬は元気です。領主は寝室に犬を連れて入り、「足下で見張ってるんだ。怪しい奴が来たら吠えてやれ」と命じましたが、犬はまだ眠くないので部屋の中をドタドタと駆け回り、クッションを咥えて振り回すと、あたりを真綿だらけにしてしまいました。


翌朝、領主は目を覚ますと雪が降ったみたいに真綿で真っ白になった部屋を見て頭が痛くなりました。

「賢いと聞いて貰ってきたが、どうやらこの子は違ったらしい」と頭を抱え、持て余した犬の世話を庭師の男に押しつけました。

犬の世話を任された庭師は、領主から「この犬はあまり賢くないから、そのつもりで世話をするように」と言われていたので、簡単なことしか言いませんでした。

犬が落ち着かないときは「待て!」とだけ言って、何度も待たせました。犬が静かにお座りをすると庭師は「なぁんだ、やればできるじゃないか」と犬を褒めてあげました。

庭師は領主の土地を手入れして、あちこち歩き回るのに犬を連れていきました。庭木の手入れ中に犬が遊んで欲しそうにウロウロすると、仕事の邪魔になるので木の枝を放り投げて「取ってこい」とぶっきらぼうに言いました。

犬は棒切れを咥えたり齧って遊び、ひとり遊びに飽きると庭師のところへ棒を咥えて戻ってきました。庭師は棒を手に持つと再び「取ってこい!」と遠くに放り投げました。仕事の邪魔になるのでなるべく遠くのほうに投げるようになりました。そのほうが犬が戻ってくるのに時間がかかるからです。でも犬は毎日のように何度も「取ってこい」をやるうちに、遠くに投げてもあっという間に持ってくるようになってしまいました。庭師は呆れるやら感心するやら。


庭師の狭い家では犬は邪魔でした。かといって領主さまから預かった大事な犬を外に放り出して、オオカミにでも襲われたらたいへんです。

庭師がいくら「大人しくしろ」と言ってもきかないので、犬が家の中で暴れるたびに小部屋に追いやって、落ち着いたら出してやるようにしていました。そうすると犬はだんだんと家の中では大人しくするようになっていきました。


しばらくして領主は庭師の連れている犬が、彼の言うことを聞いて走ったり座ったり、彼の足元で大人しく寝そべったりしているのを見て驚きました。それは知り合いのところで見た「かしこい犬」とそっくりでした。

領主は「一体どうやってその犬を手懐けたんだね?」と庭師に尋ねましたが、男は「領主さまがこの犬はあまり賢くないってんで難しいことは言わなかったんです」と言いました。

二人はおばかな犬が、どうして賢くなったのか、さっぱりわかりませんでした。それは犬にもわかりませんでした。


おしまい

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