夢ワーカーの最果て

ちびまるフォイ

夢の中は治外法権

「なんだこの資料は! ぜんぜんできてない!!」


「すみません……。なにせ8時間の労働時間のうち、

 うち7時間は会議だったもので」


「1時間あるだろう!!」

「それは法定休憩時間です」


「バカ野郎! ワシの若い頃はしゃにむに働いていた!

 時間が足りないなら残業をすればいいだろ!」


「しかし残業は社長命令で禁止されていて……」


「残業として計上しなければいいだろう!!」


「それをやって労働指導入ったから、

 社長が残業禁止にしたんじゃないですか」


「ああいえばこういう! これだから若いやつは!!

 とにかくこんな書類では営業に出せん!!

 明日までにちゃんと仕上げてこい!!!」


「そんな……」


「できなければお前はクビだ!!」


いったいどうすればいいのか。

キレ散らかす上司に急かされてデスクに戻るもお先真っ暗。


ふと、社内のファイルサーバーを見ると見慣れない設定がある。


「なんだこれ? "夢連携"ってあるけど……?」


設定をいじって夢連携をONにした。

その結果は夜に現れた。


家に帰って布団に入ると一瞬で眠りにつく。

夢の中でたどり着いたのは会社だった。


「夢なのに会社だ……。明晰夢ってやつか?」


自分のデスクには溜まったままの仕事。

夢でやるべきこともないので仕事にせいを出す。


「まったく、俺って労働者の鏡だよ……」


夢に現実の目覚ましの音が鳴り響く。

目を覚まして現実に復帰した。


「はあ、夢の中でも仕事してるなんて……」


会社に出社すると、あれだけ積まれていた仕事は片付いていた。

その光景は夢と一致している。


「あ……あれ? ここにあった仕事は?」


社内のサーバーを確認する。

夢の中でやったことで現実の仕事がなくなっていた。


驚いていると、今日もキレながら上司が詰め寄ってくる。


「おい! あの仕事は終わってるんだろうな!!」


「はい、この通り」


「ム……。貴様、勝手にサービス残業してないだろうな?

 サビ残してたら上司のわしが怒られるんだぞ!!」


「いいえ、現実でサービス残業なんてできません」


「ふんっ。どうだか」


キレる口実がないことがわかると、上司は去っていった。

その後もいくら仕事を探しても夢で処理したぶんが反映されていた。


「この夢連携設定って……。

 夢でも働くことができる機能なのか……!」


それからは欠かさず夢労働をするようになった。

なんなら現実よりも進みが良い。


無意味な会議で時間を取られることもない。

現実のようにお腹が空いたりすることもない。


どんなに働いても本体は寝ているので疲れない。

なのに仕事は片付いている。最高だ。


「ふぁあ~~。よく寝て仕事した!

 今日もオフィスでソリティアでもやるか!」


効率的な夢労働に対し、非効率な現実労働。

すでに仕事の主戦場は夢へと移行していた。


もう現実で出社した結果、すでに仕事はすべて終了。

やることと言えば仕事が終わるまで暇潰すだけ。

これが未来の働き方なんだ。


すると、また上司がのっしのっしと歩いてきた。


「おい、〇〇案件の資料はできてるか?」

「はい。ここに」


「それじゃ▲▲会社へのプレゼン準備は?」

「もちろん終わってます」


「じゃあ、□□コーポレーションへの報告書は?」

「当然できています」


すべての資料を完璧に仕上げて提出した。

ふたたびソリティアに戻ろうとする。


「待て。ちょっと話がある」


「はい? なんでしょう?」


上司に連れられ別室に移動する。

これだけ完璧な仕事をしたのだから褒められるのか。

なにせ他の社員ではかないっこないほどの成果なのだから。


しかし予想に反した言葉が発せられた。



「お前はクビだ」



「えっ!? これだけちゃんと仕事してるのに!?」


「近頃の貴様は毎日会社でマインスイーパーとソリティアばかり。

 こんな社員を会社においておけるわけないだろう」


「仕事はきっちりやってるじゃないですか!?」


「仕事をやる姿勢も仕事なんだよ。努力の過程こそ評価なんだ」


「なんでちゃんと成果出している俺がクビになって、

 トロい他の人が残るんですか! 納得できない!!」


「とにかく貴様のようなサボり社員をおいてはおけない。

 クビは決定事項だ。荷物をまとめてさっさと消えることだ」


「そんな……」


もはや覆りようのない確定事項だった。

自分にできることは異を唱えるよりも、次の就職先の検討だけ。


しばらくして、次の就職先はハローワークだった。

仕事を探す人に、仕事をあてがう人間となった。


とくに最近では夢の労働先の相談も増えている。


「現実の仕事に活かすため、夢で別の仕事やりたいんです」

「嫌な夢ばかり見るので、労働させてもらえませんか?」


「もちろん。夢の労働先はごまんとありますよ」


そんな迷える眠り手の人に、夢での就職先も進めていた。

この国は本当に働き者なんだなと思う。



それからしばらくたったある日。



ハローワークに見慣れた人が訪れた。

かつての上司であった。


「よお……」


「ごぶさたしてます。今日はどういう用件で?」


「チッ。ここに来たってことは就職先探してるに決まってるだろ」


「え? 前の会社は?」


「パワハラしまくっていたことがバレてクビになったんだよ」


「ざま……そうだったんですね」


「今なんか言わなかった?」


「いえいえ。めっそうもない」


「とにかく。パワハラの汚名があるから現実じゃもう働けない。

 どこへ面接にいっても危険人物として落選する」


「そうでしょうね……」


「だからわざわざここへ来てやったんだ。

 ここは夢の中での労働先も紹介してるんだろ?

 現実じゃ食いぶちないが、夢の中ならあるはずだ! 教えろ!!」


「いくら夢とはいえパワハラ問題起こした人材は

 夢の中での就職先もほとんどないんですよ」


「ふざけんな! それでも探すのがお前の仕事だろ!!」


相変わらず自分が命令する立場じゃないとキレはじめた。

そんなきかん坊に紹介できる仕事などないが……。


「ただ、唯一。あなたにもご紹介できる夢の中の仕事があります」


「ふんっ。最初からそれを話せば良いんだ。

 どういう仕事なんだ?」


「ドリーム・スケープゴート、です」


「なんだそれ? でもそれしかないんだろ?」

「はい」


「じゃあそれにする。さっさと求人をよこせ」


「どうぞ。では今夜、夢の中で勤務先に案内しますね」


現実での仕事を終えて、布団に入る。

やがて眠りへと落ちると夢の中でふたたび元上司に会う。


「で、勤務先はどこなんだ?」


「こちらです」


案内した先には誰かの別の夢で構築されている地下室。

光も届かぬ冷たいコンクリートに四方囲まれている。


足元にはノコギリだとか、ペンチだとか。

なにやら物騒なものが使い込んだ形で落ちている。


「な……なんだよここは……一体なにをするんだ……」


「ドリーム・スケープゴートのお仕事ですよ?」


やがて地下室の階段を下りて、夢の主がやってきた。

その目はストレスで血走り攻撃性の塊のようだった。


「だから! そのスケープゴートの仕事は何をするんだよ!

 わしはこれから何をされるんだ!!」


「おや、求人を見たはずでは?」


元上司のことだ資料もこれまで通り読み込んでないのだろう。

これから行われる仕事の内容を教えてあげた。



「この仕事は、ストレス溜まった現代人のために

 ひたすら夢の中でサンドバックになる大事なお仕事です」



言う前に元上司の悲鳴でその言葉はかき消された。

今は夢の中で献身的に誰かのストレス発散をやっている。

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