第5話 力加減
午前中の後半は、体を動かす遊びの時間だった。
広くはないが、託児所の奥には簡単な運動用のスペースがある。
ボールが転がり、子どもたちが追いかける。
ガルド
「よし、投げるぞ」
声は控えめだった。
そのつもりでも、存在感は隠せない。
子ども
「こっち!」
ガルドは頷き、腕を振った。
ボールは、少しだけ速かった。
当たる前に、メイが手を伸ばす。
メイ
「――ストップ」
指先に治癒魔法を灯す必要はなかった。
ボールは床を転がり、壁に当たって止まる。
ガルド
「……すまん」
メイ
「今のは、まだ大丈夫です」
リンが口を挟む。
リン
「“まだ”って言ってるあたりがね」
ガルドは一歩下がった。
ガルド
「次は、わしが転がす」
そう言って、しゃがみ込む。
子どもと同じ高さになり、ゆっくりとボールを押し出した。
子ども
「おそい」
ガルド
「安全だ」
エルナが視線だけを向ける。
エルナ
「適切」
それで十分だった。
少しして、別の子がガルドの腕にぶつかった。
ガルドは、反射で腕を引いた。
速すぎた。
子どもは尻もちをつき、きょとんとした顔をする。
メイ
「大丈夫?」
子ども
「……びっくりした」
泣いてはいない。
メイはしゃがみ、念のため治癒魔法を使う。
赤くなりかけた部分が、すぐに消える。
ガルド
「……やはり、触らない方がいいか」
メイ
「見ているだけでも、十分助かります」
ガルドはしばらく考えてから、壁際に腰を下ろした。
子どもたちは、また走り出す。
リン
「ガルドさん、存在感だけで安全装置だよ」
ガルド
「そうか」
午後は、特に問題も起きなかった。
迎えの時間。
子どもは、何事もなかったように帰っていく。
事故は起きなかった。
起きそうにはなった。
それだけだ。
この場所では、
それも仕事のうちだった。
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