海風にほどける秋(Where the Sea Breeze Unties Autumn)

@tsuyotsuyoman

第1話

海風にほどける秋(Where the Sea Breeze Unties Autumn) 


夕焼けに染まった浜辺を、あなたと歩いた。

すすきの穂が秋風に揺れていた。

潮の香りの中にあなたのコロンがふっと混じり、胸の奥が温かくなる。


どこから流れ着いたのだろうか。

あなたは砂の中から小さな瓶を拾い上げて言った。

「風のボトルって知ってる? 海風を閉じ込めておくと、想いが届くんだって。」

冗談めかして笑ったあなたは、急に真顔になってこう言った。

「来年もこの場所で、一緒に海を見ような。」


夕陽を背に微笑むあなたの顔は、切ないほど眩しかった。

——そして、その約束を最後に、あなたは帰らぬ人となった。


季節は一巡した。

それでも、あなたを忘れられない私は、またここに来てしまった。

あの日と同じように、すすきは風に揺れ、空は静かに燃えている。

海を見渡しながら潮風を大きく吸い込むと、胸の奥が痛んだ。


「あなたは嘘つき……! 一緒に海を見るって約束したじゃない!」

こみ上げてくる嗚咽とともに、涙が堰を切った。

どれほどそこに立ち尽くしていたのだろう。

泣きぬれた私は、心を落ち着かせようと海を眺めた。

と、遠くにひとりの男の人影が見える。

逆光で顔は見えない。けれど、こちらを向いて微笑んでいる気がした。

「あ、あなたなの……?」

滑稽な空想だと分かっていながら、自然と足は人影に向かっていた。


そのとき、急に潮風が強く吹いた。

目をつぶった私の足もとで、何かが転がった。

小さくてきれいな瓶だ。——なんとなく見覚えがある。

それを拾い上げながら、人影を見失うまいと目を凝らしたが、

もう見つけることはできなかった。

「幻覚かしら」とつぶやき、私は急いでばかな妄想をかき消した。


強い風は、いつしか凪いでいた。

ふと、潮風に混じって、ほのかに懐かしい香りが運ばれてきた。

あなたがつけていた、あのコロンの香りだ。


私は、なぜか瓶を強く握りしめていることに気付いた。

栓を開けてみる。と、一枚の紙切れがこぼれ落ちた。

『約束を守ったよ。君ともう一度、この海を見る約束をね。』


胸の奥が高鳴った。

紙を持つ手が震える。

その筆跡は、見慣れたものだった。


夕暮れの浜辺を歩く私の髪を、潮風がやさしくほどいていく。

光を受けたすすきの穂はゆっくりと揺れ、

海と空の境界が、静かに溶けていった。


ここに来れば、あなたに会える・・・。

——Where the Sea Breeze Unties Autumn.


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