積み木の街

鰹節の会

つみき


窓から昼の暖かな陽が射し込み、床を熱している。


特段家を出る予定など無いので、お家で積み木をしようと思った。

棚の奥から重くて硬い袋を引っ張り出して床にぶちまける。

散らばった積み木をかき集め、形と色ごとにそれぞれ別けてまとめてしまう。

 俺は腕まくりをして、取り掛かる。


まずはお城だ。これがないと始まらない。

お城の隣に宮殿、寺院、大きめの積み木をふんだんに使って立ててしまおう。

立てる理由なんてなくて構いやしない、お家で俺は積木する。


宮殿から少し離れた所に波止場を作る。

大きくも小さくもない、ちょうどいい波止場だ。軍艦は通れない。

木造の小さな貿易船が留まるための波止場だ。

近くには小さなお店があって、丁度いい人数の船乗り達がいる。

船乗り達は貿易船に乗り込んで、これから陽射しの照る穏やかな海を渡るのだ。

 俺の為の船も作っとこう。この船は俺のだから、船乗り達は乗ってない。かっこいいガレオン船だ。

ちょっと遠くに浮かべておこう。

灯台を建てたら、街を造りに戻らねば。


波止場の近くには漁師の家だ。

日に焼けた肌をした恰幅のいいおかみが色黒の美人の娘と一緒に、魚を捕る網を縫っている。

もうベテランの漁師の旦那は沖でシイラと戦っていて、その旦那のお父さんも昔は漁師だったから、今日も浜辺に置いた椅子に座って海に反射したまぶしい光を眺めている。


漁師たちの家の近くには酒場があって、お店の中では街の皆がお酒を飲んでいる。

でも、今は昼だからやってない。

酒屋の近くには、今朝とれた魚を売る魚屋が二つ、新鮮な八百屋が三つ、おいしいレモンを売ってる果物屋が一つある。

おいしいレモンは珍しいから、果物屋は一つだけだ。


お店ができたら、後は家だ。

適当に平たい積み木を二、三個積んで一つの家にする。十個も並べれば、お城の周りをぐるっと囲む国が完成した。


沢山の家に囲まれてお城が地味に見えたので、てっぺんに小さい赤い積み木を乗っけた。

 お城には王様が住んでいる。

王様は、そうだな、ちゃんと太ってて茶色いヒゲを自慢にしてるのだ。毎日必ず、風呂上がりにキウイを丸ごと一つ食べるのを楽しみにしている。

たまに奥さんと喧嘩するけど、二人とも優しいからすぐに仲直りをする。


お城の周りの宮殿には貴族達が住んでいて、大抵はトゲトゲのかっこいい襟をしたマントを着て、いつもむつかしい顔をして指を振りかざして喋っている。

 集まって議論ばかりして、怒ってるようにみえるけど、本当に不機嫌なわけじゃない。

そういうのが楽しいからそういうフリをしているだけだ。

みんな派手な物が好きで、本当はキンキラのかんむりをかぶりたいけど、王冠は王様のファッションだから我慢しているのだ。

皆んな良い人ばかりだけど、たまに悪いやつもいる。


 今、お城で国民に演説してる王様をお屋敷から遠眼鏡で見てる貴族も、悪いやつだ。

悪いやつだから勿論、その貴族は出世が大好きで、いつも誰かを罠にかけようとしている。

そいつは船になんて乗らないし、海も見ない。酒も飲まないし、太ってもないし、フルーツも食べないし、かっこいい襟のマントも着ないのだ。

 でも、金色の冠は欲しい。

だけどファッションとしてじゃない。

冠をつければ、皆んなが言う事を聞くからだ。


街は長い間あったかくて平和だったが、そんな日にも終りが来る。

風呂上がりの王様がキウイを喉に詰まらせて死んでしまったのだ。


みんなが悲しんで涙を流す間に、貴族の悪いやつはお城から王冠を盗んで、自分の頭に着けてしまった。

 

 そして悪い貴族はこう言った。


「戦争だ!」


 本当は、もっと難しい言葉で色んな正しそうなことを言ったけど、国民のみんなは分からなかった。

この街に武器なんてないし、そもそも戦う相手もいないから、みんなポカンと口を開けるだけでした。

悪い貴族はイライラしながらも、とうとう自分の頭の上の王冠を指さして皆に見せてから叫びました。


「戦争だ!」


 金ピカの王冠を見せられてそんな事を言われたものだから、皆んな大慌てで戦争の準備を始めました。

船乗りはもちろん、漁師のおやじも八百屋も····あのおいしいレモンを売っている果物屋でさえも、小さな靴と銃を持って兵隊になりました。


街の通りを行進する兵隊達を見て、悪い貴族はいよいよ嬉しくなりました。

あんまり嬉しかったものだから、空を飛ぶ戦闘機と大きな軍艦まで作らせてしまいました。

あの丁度いい大きさの波止場は、戦艦を泊めるために丁度いい大きさではなくなって、漁師のおじいさんは煙を吐き出す大きな戦艦が邪魔で海が見えなくなってしまいました。


悪い貴族は大得意で開戦を宣言しましたが、どこにも敵がいなかったので、お城の前に集めた軍隊を半分にわけて、自分より左の方に立つ軍隊を敵ということにしてしまいました。

なんで左側かというと、悪い貴族の顔の左側には大きいほくろがあって、悪い貴族はそれが嫌で嫌でたまらないからです。


という訳で、とうとう戦争が始まりました。

みんなやる気はなかったけど、飛行機が爆弾を落として軍艦が大砲を撃つもんだから、だんだん頑張るしかなくなってしまいました。

敵にされた左側の兵士達は、最初は物資の不利に苦しんでいましたが、戦いが進む事に盛り返して、最後にはとうとう右側の軍隊をお城まで追い詰めてしまいました。


追い詰められた悪い貴族は、残った数少ない右側軍に守られながら、お城の窓から顔を出して下の様子を見ていました。

戦いは大体終わっていて、左側の軍の勝利は覆らないようでした。

 いよいよ左側の兵士達がお城の中まで攻めてきて、悪い貴族はお城の階段を走って上の方へと逃げ出した。

左側軍は追ってくる。

ついに悪い貴族は、とんがったお城の赤い屋根の上で左側の軍隊に追い詰められました。


「待て!わしは国王であるぞ!」


悪い貴族は王冠を指さして怒鳴った。


もう長いこと王様のフリをしていたので、その様子はなかなか立派に見えました。

しかし不運にも、その時突然吹いた風のせいで王冠は貴族の頭から滑り落ちて、お城のてっぺんから宙へと投げ出されてしまいました。


悪い貴族は驚いて、とっさに手を伸ばして王冠を追いかけました。

そして、屋根の上から真っ逆さまに足を滑らせてしまったのです。

悪い貴族は悲鳴を上げながら落ちていきましたが、地面に激突する前にどこからか大きな鷹が現れて、鋭い爪で貴族を掴んで飛んで行ってしまいました。


「隊長、王冠を拾いに行きますか?」


兵隊の一人が、左側軍の隊長に聞きました。

聞いた兵隊は元々右側の軍隊でしたが、負けそうなので左側になったのでした。

⋯というのも、戦争が始まってしばらく経った頃には右側軍の八割が、そして今では全員そっくり左側軍に入ってしまったのです。


「王冠なんていらないさ」


隊長は静かに言った。


「でも、王様が居なくなってしまいます」


兵隊は慌てて言った。

でも、隊長は賢い人だった。

お城のてっぺんから、国の皆に聞こえるように大声で叫んだ。


「気づいたんだ、王冠をつけてるから王様なんじゃない。みんなが大好きな人が王様なんだ」


隊長の言っていることは街の皆には難しすぎました。

でも、聞いていて何となく嬉しかったので、みんな歓声をあげました。


「なら、次の王様は隊長です。みんな隊長の事が大好きです」


戦争が終わるだけじゃなく、新しい王様も就任して、街の皆は大喜びでした。

 そうして戦争は終わり、波止場はまた元の丁度いい大きさに戻されて、漁師は海に出て、おじいさんは海を眺めて、みんなは街の酒場で笑っているようになりました。


 でも前と違うのは、あのおいしいレモンを売る果物屋の店主が別の人に変わっている所です。

⋯前の店主は、今では王様になってしまいましたからね。

それと、他の国なんてどこにも無いと気付いた貿易船の船乗り達が、みんなやる気を無くしてしまったことです。 



めでたしめでたし。


さて、ここまで考えて、俺はすっかり飽きてしまった。


そしてそのまま、波止場も、お城も宮殿も、ガレオン船も、ぜんぶ壊してしまった。


がらんと音を立てて街が崩れて、船乗りも漁師も貴族も、何もかもが消え失せた。


また午後の光が床を熱しだした。


俺は積み木をごちゃごちゃに混ぜた後、元の袋にしまった。

でも、なぜだか少しだけもったいない気持ちがしたので、お城の屋根にした赤い小さな積み木だけは袋に入れずに、しばらくの間握っていた。



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