世界最弱の殺し屋、異世界では無双……する?

言遣 事

満ち足りた人生でした。嘘です

 僕が初めて人を殺したのは、11歳の頃だった。そしてそれは、最後の殺人でもあった。

 

 かと言って、僕が、例えば。確固たる理性によって殺人衝動を抑えているとか、そういうことじゃない。

 むしろ、その逆。僕は、積極的に殺しをしている。いや、出来てはいないんだけれど。


「摩訶不思議」


 いや、原因は明白だ。


 僕が、決定的に弱いから。

 どれだけ奇襲を突いたところで返り討ちにあってしまうし、どんな武器を使ってみたって失敗するし、何をしても、しようとしても、逃げられるか追われるか通報される。


「しかし、流石に、金欠って話はあるんだよね……」


 そんなことでは殺し屋としてまともに成り立つわけも無く。

 収入はほぼ零なので、仕方なくバイトをして日銭を稼いでいる。


 そのせいで、同僚。つまり、殺し屋仲間からは、《最弱の殺人鬼》などと無様な呼び名を付けられている。

 ただまあ、かと言って仕事はゼロというわけでも無い。

 たまに、普通の殺し屋じゃ受けてくれないような低報酬の仕事を持ってくる客もいたりする。

 

 そして、例に漏れず今回もそういう仕事だった。ある女の殺害。高身で、筋肉質の、女。


「殺せる気がしないんだけれど」


 勝負は時の運とは言うが、流石に限度があると思う。


 今現在は尾行中。ギリギリ認識可能な距離感を保ちながらつけているけれど、しかし。この距離感でも気配を察知されておかしく無いのが非常に面白いところだ。(どこが)


 彼女の名前は、我々の業界では非常に普遍的に知られている。人切 白。快楽殺人者にして無敗の女。生まれてこのかた負けたことが無いのではないかという顔付きと実力をした、女。


 通称、《紅髪》。彼女の赤髪が、返り血で染まったように見えるから、だそう。

 うん、勝てない。


 その紅髪が、曲がり角に入る。それを見て、僕はざっと十秒程度数えた後、曲がり角に入った。入れた、と、思った。


 つまり、思った、だけ。


「よー! 《黒髪》」


「……いつの間に」


「いやぁなあっ? なんか視線がすんなーって思ってたんだけどよぉ、ちょっと後ろを振り向いてみたら、あんただと分かったからさ、泳がそーかなと」


「…………」


 どんだけ距離が開いていたと思ってるんだ。本当に。


「それで? 何の用なわけ?」


 にやにやと、嘲笑うように、かと思えば純真無垢な少女のように、微笑む、《紅髪》、人切 白。


「殺しに来たんですよ」


 僕は、そう言った。


「へえぇ……、あたしを?」


 紅髪は、そう返した。


「そーかそーか。つまるところ、そーいうこったな?」


「ええ、まあ。」


「なら、あたしは殺すしか無いわけだ。あんたを」


 今度は悲しそうな表情を浮かべる紅髪。困ったことに、僕にはそれが嘘にしか見えなかった。


「いやー悲しーな!! あんたを殺さないといけないだなんて、これはあたしは心を病んで自殺しちゃうかも知れんなぁ!」


「…………嘘は辞めてくださいよ。凄い嬉しそうじゃないですか。嘘つきは、僕だけで十分です」


「あー? そーかもな。――――――――ところで、」


 背後に立ち尽くしていた姿を見ていたはずが、〇.二秒の隙間を埋め尽くすように、そこには空気があるだけだった。

 前を向く。ナイフを持った、人切──白。


「お前さん、輪廻転生って信じてる?」


 一突き。


「ぃ……や」


「だよなぁ、……でも。あるんだよ」


 二突き。


「……は、……ぃ?」


「だから、いっぺん体験してみる?」


 三。

 四。

 五。

 六。

 七。

 八。

 九。

 ……じゅう……?



 ◇◇◇


「………………」


 清々しい気分で朝を迎えたかと僕は思ったが、それも思っただけだったらしい。だって、どう考えても家の天井じゃ、ない。言うならば、教会?


「ああ、起きたのね」


 見ると、いや、見なくても分かる。なにやら白白とした服(僕の価値観的には服とは言い難いが)を着ている、少女が、僕の顔を、覗き込んでいた。


「ぐー」


「え、うそ。寝ちゃったわけ!? ちょっとちょっと! 待つのだって大変なんだからねっ!?」


「冗談だよ」


 嘘とも言う。


「ところで、一つ聞いてもいいかな」


「僕って、死んだの?」


「……そうね。一応は」


 その少女は黄色のツインテを揺らしながら、さも当然のように、言った。


 いや、当然だけれど。


「死因は刺殺……えっとぉー……え? あんたあの紅髪に喧嘩売ったの?」


 手元に掲げた報告書らしきなにかしらを、訝しげに見つめながら、問いかけてきた。


「……まあね。そうなるかな」

 

「へえーバカなのね」


 そんな結論を出されて僕は何も思わない程に平和主義者ではない。事もなかったので、僕はそれをよしとすることにした。

 いや、平和主義者ではないけど。


 見ると、報告書らしきなにかはもうどうでもいいのか、その辺に投げ捨てられていた。


「あのさ、もしかして僕はこれから、地獄行きにでもなるのかな」


「是非ともそうしたいところではあるけど、違うわね」


「違うんだ」


「ええ、残念だけど」


「じゃあ、なら」


 本当に。


「輪廻転生でも、するのかな」

 

「半分正解で、半分不正解と言ったところかしら」


「というと?」


「あんたは生き返るわ。けれど、それは元の世界じゃない」


「世界を作る根底から捻じ曲がっている、世界。」


「あっ、言っておくけど、何でとか聞かれたって何にも答えないからね」


「それは、知らないから?」


「いや、知ってるからよ」


「ふうん…………」


 まあ、何でもいいけれど。だが、今この時僕にはどうしても質問しなければならないことがある。


「記憶は、そのままなのか?」


「ええ」


 短絡的にして簡素的な一言。だけれど、僕にはそれで十分だった。


「……うん」


 最悪な気分だ。殺された上にこんな仕打ちはあんまりだと言いたくなる。


「……。それじゃ……」


 その言葉を皮切りに彼女はよく分からない音を発し始めた。いや、声だったのかも知れない。どちらにしても、とても喉から発せられている音とは思えなかった。


 そんなおもしろ人間(人間なのか?)の一発芸を視聴していると、僕の足元が怪しげな光に包まれる。


「行ってらっしゃい」


「…………出来れば、大人しくしてくれるとありがたいわね。今回は」


「ちなみに、君の名前は?」


「なに、ナンパ?」


「ちげえよ」


 本心からの言葉だった。


「ま、きっとすぐに分かるわよ」


「それじゃ、頑張んなさいね。人切さん?」


 そんなこんなで、僕の意識は明転して行った。

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