小話と予感
聖女リリアナの完璧な微笑みと、エレンの隠そうともしない剥き出しの独占欲。
その中心で、目覚めたばかりのエルフレッドだけが、置いてけぼりのまま困惑していた。
「……朝から何の騒ぎだ」
エルフレッドが呆れたように声を出すと、二人は弾かれたように彼を振り返った。
「あ、すみません先輩! お腹空いてませんか? すぐに何か食べやすいもの、私がギルドの厨房から盗ん……じゃなくて、貰ってきますから!」
「エレンさん、神殿の食事の方が体には良いですよ。エルフレッド様、今朝は私が特別に聖域の果実を絞ったジュースをご用意しました。こちらの方が、今の貴方の胃には……」
「あーもう、リリアナさん! そういう『お上品』なのは後回しにしてください。先輩はもっと、こう……ガツンとしたものが必要なんですよ!」
エレンが身を乗り出すと、リリアナはふふっ、と余裕の笑みを崩さずに受けて立つ。
「ガツン、ですか? 昨夜まで死線を彷徨っていた方に、油物を食べさせようと? それは介護ではなく、もはや暗殺の類ではありませんか?」
「暗殺って……! 私がそんなことするわけないでしょ! 先輩のことは、私の方がずっと昔から知ってるんです!」
「昔から、ですか。時間は関係ありませんわ。今の彼の『魂の傷』を癒せるのは、私たちが捧げる祈りと、この神殿の静寂だけ。……ねえ、エルフレッド様?」
リリアナがしなだれかかるようにして顔を近づけると、エレンがその間に割り込むようにして、エルフレッドの手を再び握りしめた。
「先輩、騙されないでください! この人、先輩が寝てる間にどんどん外堀埋めてるんですから! 私なんて昨日、変な貴族に捕まって来られなかったのに、その隙に……!」
「……その『貴族』の話を詳しく聞かせてくれませんか?」
リリアナが、少しだけ真面目な顔をして口を挟んだ。
「えっ……? 」
エレンは疑問に満ちた表情をする。しかし、リリアナの視線は鋭かった。
「あなたを無理やり呼び出したのは、どちらの貴族ですか?。……この王都で、現役の冒険者を強引に拘束できる方なんて、そうはいないはずですし」
その指摘に、エレンは少し言葉を詰まらせた。
「……それは……。なんか、上の方の人だって言ってましたけど。名前なんて興味ないから覚えてませんよ。ただ、妙に『外交』とか『国の将来』とか、そんな難しい話ばっかりしてて」
その言葉を聞いた瞬間、リリアナの眉が微かに動いた。
「外交……? 今、この時期にですか?」
「そうです。なんか、『王国に英雄は二人もいらない』とか、わけのわからないことをボソボソ言ってて。とにかく気持ち悪かったんです。あ、でも大丈夫ですよ! 私、そいつの屋敷の壺、三つくらい割って帰ってきましたから!」
「……あなたねぇ、」
リリアナはため息をついたが、その表情は険しい。
(外交に国の将来……なにかあるかもな。)
部屋に流れる空気が、一瞬だけ重くなる。
それを察したリリアナが、優しくエルフレッドの肩に手を置いた。
「エルフレッド様、今は余計なことを考えてはいけません。まずは貴方のお体を治すこと。それが最優先です。……エレンさん、貴方も彼を混乱させるような話は控えていただけますか?」
「私がいつ混乱させたって言うんですか! 事実を言っただけでしょ!」
「それが彼に負担をかけていると言っているのです」
「……あーもう、本当にリリアナさんとは話が合わない! 先輩、どう思います!? 私が間違ってますか!?」
二人に詰め寄られ、エルフレッドは天井を仰いだ。
「……二人とも、少し黙れ。それと、その……さっきから俺を物みたいに扱うのはやめろ。俺はまだ、自分の足で立てるつもりだ」
エルフレッドがそう言って、包帯の巻かれた体を無理に動かそうとすると、二人が同時に叫んだ。
「「ダメです!!」」
その息の合った制止に、エルフレッドは苦笑いするしかなかった。
「……はぁ。お前ら、本当に仲が良いのか悪いのか……。おい、エレン」
「はい! なんですか、先輩!」
「その、しつこい貴族の名前……後で思い出しておけ。……それと、リリアナ」
「はい、エルフレッド様」
「昨日の夜、ここに来た『客』のことを知っているか?」
その問いに、リリアナの表情がわずかに凍りついた。
「……客、ですか? 私はずっとドアの前におりましたが……そのような方は、一人も」
エルフレッドは枕元の漆黒の花を盗み見た。
(リリアナですら気づかなかったのか。……あの女、一体何者だ)
「……いや、夢だったのかもしれん。忘れてくれ」
「……先輩、やっぱり少しおかしいですよ。変な夢見るくらい疲れてるんです。ほら、今日は私がずっと横についててあげますから!」
「あら、エレンさん。午後はギルドの定例会があるとお聞きしましたが?」
「あ、あれは……サボります! 先輩の看病より大事な仕事なんて、この世に存在しません!」
「困った人ですね……。エルフレッド様、彼女に無理をさせないためにも、私がお側で清らかな聖歌を聞かせて差し上げますわ」
「聖歌なんて余計眠くなるだけです! 私が最近のギルドの面白い噂話、全部聞かせてあげますからね、先輩!」
再び始まった、一歩も引かない女たちの攻防。
エルフレッドは、残された左手で少しだけ痛む頭を押さえながら、窓の外を見つめた。
嵐が、すぐそこまで来ている。
そんな予感がしてならなかった。
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