第22話 英雄の望み(急いで書いたので書き直す可能性『大』)

シグレがひとしきり泣きじゃくり、床に落とした包みを抱え直してようやく呼吸を整えた頃。


部屋を支配していた慟哭の余韻は、冷厳な『現実』という名の静寂に取って代わられていた。


 エルフレッドは、自分の体の異変を静かに、けれど冷静に観察していた。


 視界をわずかに動かすだけで、天井のフレスコ画が歪み、世界がぐるぐると回るような猛烈な眩暈に襲われる。


指先一本を動かそうとするだけで、全身の筋肉が悲鳴を上げ、泥沼の中で重い鉄塊を持ち上げるような労力が必要だった。


一週間、ただ横たわっていただけの肉体は、想像以上に彼の期待裏切っていた。


「……リハビリ……を、したい」


 掠れた声が、再び部屋に響いた。


 その言葉を聞いた瞬間、寄り添っていたシグレと、少し離れた場所にいたリリアナの表情が同時に凍りついた。


「……正気か、エルフレッド」


 シグレが、まだ赤い目を大きく見開いて彼を凝視する。


その声には、先ほどまでの涙とは打って変わった、拒絶の色が混じっていた。


「お前はさっき目が覚めたばかりなんだぞ? 自分がどれだけ衰弱しているか分かっていないのか。まずは横になって、体力を回復させるのが先決だ。リハビリなんてやるとしてももっと先……数日、数週間、いや、数ヶ月先の話だろう」


「そうです、エルフレッド様」


 リリアナも、いつになく強い、断固とした口調で言葉を重ねた。


彼女の瞳には、慈愛と、それを上回るほどの

『静止』の意志が宿っている。


「今、無理に動けば、せっかく傷口を繋ぎ止めたお体がまだ傷ついてしまいます。一週間、私がどれほどの魔力を注いで、あなたの壊れかけた細胞を一つずつ繋いできたか……。それを無下にするつもりですか? 今は、ただ私に身を委ねて、眠っていてください。それが一番の『治療』でありやることです」


 二人からの猛反対。


それは当然の反応だった。


王国で、聖盾と呼ばれた男が、今は声さえまともに出せないほどに弱り切っている。この状態で動こうなど、彼女たちからすれば自殺行為に等しい。


 だが、エルフレッドは重い瞼を持ち上げ、二人を交互に見据えた。


「……動かなければ……このまま、心が動けなくなる気がするんだ。……英雄は……止まったら、終わりだ。錆び付いて、動かなくなってからでは遅い」


「錆び付いてもいい! 私が、騎士団が守ると言っているんだ!」


 シグレが声を荒らげる。彼女はエルフレッドの肩を掴み、無理やり寝かせようとした。


「いいか、エルフレッド。お前はもう『男』として十分……いや十分以上に尽くした。女王陛下だって、これ以上の無理は望まれないはずだ。お前はただ、ここで大人しく保護されていればいい。リハビリなんて、そんな痛々しい真似、私が見ていられないんだよ!」


「私も同意見です。リハビリという言葉は聞こえがいいですが、今のあなたにとっては、ただの自傷行為でしかありません」


 リリアナが、シグレの反対側に回り込み、冷たい手をエルフレッドの額に当てた。


「熱もまだ引ききっていない。脈も乱れている。この状態で動く許可など、聖女として、そしてあなたの主治医として、絶対に出せません。シグレ、彼を押さえてください。眠りに誘う魔法をかけます。」


「ああ、分かった。……済まないな、エルフレッド。これもお前の身を案じてのことだ」


 シグレの強靭な腕が、抗う力のないエルフレッドの体をベッドに縫い止める。リリアナの手のひらが淡い光を放ち、強制的な眠りへと彼を誘おうとした。


 だが、エルフレッドは死に物狂いで首を横に振った。


「……シグレ。お前は……動けないまま、誰かに守られるだけの生に……耐えられるのか?」


その問いに、シグレの手が、目に見えて震えた。


 戦士として、騎士団長として、彼女はその問いの重さを誰よりも理解していた。


戦場において、自分の意志で動けない肉体は死と同義だ。


そして、たとえ戦場を退いたとしても、自らの足で立てないという屈辱が、どれほど魂を削るか。


「……リリアナ。頼む。……俺を、俺のままで……いさせてくれ。……ただ生かされているだけの『モノ』には……なりたくないんだ」


 エルフレッドは、必死に体に意識を向けた。

だが、感覚のない右腕は、まるで見知らぬ他人の肉体のように沈黙し、体自体、筋力がかなり落ち、まともに動かない。

その断絶こそが、彼を何よりも焦らせていた。


 リリアナは放とうとしていた魔法の光を、ゆっくりと消した。


彼女はエルフレッドの、消え入りそうな、けれど消えることのない不屈の眼差しを見て、胸の奥が締め付けられるのを感じた。


「……本当に、意地悪ですね。そんな目をされたら、拒めないじゃないですか」

ため息をつきながら下を向く


「甘い、甘いぞ!リリアナ! こいつは今にも壊れそうなんだぞ!止めないと、あとからでは遅いんだぞ!」


「分かっています、シグレ。でも、今の彼を無理やり眠らせても、明日の朝にはまた同じことを言うでしょう。……そして、私たちの目を盗んで、一人で無理をして、取り返しのつかないことになる。それが一番怖いと思いませんか?」


 シグレはぐっと言葉に詰まった。エルフレッドの頑固さは、自分が一番よく知っている。


「……はあ。本当にお前は、救いようのないヘボ男だ。……そこまで言うなら、付き合ってやる」


 シグレは深く、長く、吐き出すような溜息をつき、肩の力を抜いた。


「シグレ……私から言っておいてなんですけど、大丈夫なんですか?」


「大丈夫だ。ただしエルフレッド。条件がある」


 シグレは再びエルフレッドに向き直り、鋭い眼差しで彼を射抜いた。


「リハビリは、私の、そしてリリアナの監視下で行うこと。一歩でも、一度でも無理をしたと私たちが判断したら、その瞬間に中止。即座に、この部屋に魔法の結界を張ってでも閉じ込めてやる。リハビリの内容も、リリアナの診断と指示を絶対に仰いで、それに従え。いいな!」


「……ああ。……分かった。ありがとう、二人とも」


 エルフレッドの唇に、微かな、本当に微かな安堵が浮かんだ。


「……はあ。……ただし、エルフレッド様。一日に一時間……いえ、三十分程度だけですよ。それ以外の時間は、私の言うことに素直に従うと約束してください」


「……善処する」


「『はい』と言ってください」


「……はい、」


 リリアナの有無を言わさぬ微笑みに、エルフレッドは降参するように頷いた。


 部屋の空気は、張り詰めた対立から、奇妙な結束へと変わりつつあった。


二人の女の、心配と執着、そしてエルフレッドの誇りに対する敬意。それらが入り混じった、新しい戦いの始まり。


「まずは寝返りをうつことからだな。」

とシグレは言う


それは回復ではない。


失われたものを抱えたまま、生き直すための戦いだった。


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後々のこととか考えて変えるかもしれません!


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