チャット相手は異世界の女の子、転移失敗で俺のPCの中に?

約谷信太

第1話 プロローグ ~未来の一コマ~

 いきなりだが、俺のパソコンには人が住んでいる。




 正確に言えば、パソコンにインストールしてある【わくわく☆無人島ライフ】というスローライフゲームの中だが。


 ある事情で異世界から俺のパソコン内に入り込んだ彼女達四人が、そこを拠点としていくつかのゲームの攻略を行っている。


 誤解のないように言っておくと、俺の妄想が生み出した所謂二次元の嫁ではない。

 更に言うなら心霊現象でもない。

 いや、ある意味自分のパソコンに人が住みだしたなんていうのは、一種の心霊現象かもしれないが。


 あと俺の頭がおかしくなったという可能性も無くは無いが、そんなことはないと思う。

 ただこんなこと誰にも相談できないから、あくまでも俺の主観でしかないけども。

 取り敢えず今のところ、そんなにひどい実害はないから良しとしよう。



 俺は机の上にあるモニターの電源を入れた。


 画面に彼女達の拠点である、無人島にある小屋の一室、リビングの様子が映る。

 丁度今は誰もいないようだった。

 別室にいるか、外へ出かけているのだろう。


 ゲーム内での俺の視点は、ゲームのデフォルトで上から広範囲を見下ろすパターンと、VRゲームの中に実際に入り込んでいるような現実の様な視点の二種類から選べる。

 因みに今の俺の視点は後者だ。


 ゲームをやったことがある人は分かると思うが、広範囲を見下ろすパターンだと家の中の部屋が屋根を透過するようにほとんど丸見えになってしまい、彼女達のプライバシーが無くなるため基本的に後者に設定してるからだ。

 でないとモニターの電源を入れた瞬間、着替えだったり風呂だったり、下手したらもっと最悪のタイミングを見てしまうかもしれない。

 

 彼女達は全員美人揃いなため、見たくないかと問われたら見たいとしか言えないが、付き合いは長いヤツで一年以上になる。

 これでもお互いにある程度の信頼関係は結んでいるため、今更そんなことで彼女達の信用を失うことはしたくない。

 もし何かの間違いで見てしまったとしても、そんなに気にしない面子ではありそうだけど。


 因みにVR視点の場合、ゲーム内での俺は水晶を通して周りを見ていることになる。

 占い師が使っている球体の水晶を思い浮かべると分かりやすいと思う。


 金や銀色に輝く土台に乗った水晶は、元々は彼女達の住んでいた世界にあった代物で、彼女達がゲームの中へ入り込んだ時に元の世界から一緒にPC内へ入り込んだモノだ。

 本来は長距離の通信に使う道具で、水晶を通じて音声と映像を届ける役割を持っていた。

 なのでモニターの電源を入れるとそれに連動し、俺の机に取り付けてあるWebカメラの映像が水晶へと送られる。

 簡単に言えばモニターの電源を入れると、俺の姿がゲーム内のアイテムである水晶へと映るわけだ。

 これでパソコンの前に俺が居るかどうかが、彼女達にも判断できるようになっている。


 さらにこの水晶、ゲームの中では俺が操作して空中を自由に動かすことが出来る。


 無人島内のゲームコマンドも通常のゲームの様に使うことが出来るため、彼女達に関係なく俺も自由に無人島のゲームを遊ぶことが出来る。

 かといって彼女達の私室のドアを勝手に開けるのはマズいため、リビングをうろつくか小屋の外に出るか、もしくは何か資材を使ってアイテムを作るぐらいだけど。

 基本的には彼女達が自分たちで無人島の開拓をしているため、普段はその手伝いぐらいしかやってないけども。


 そんなことを考えているとガチャリと一室のドアが開き、中から黒いローブを肩に羽織った、ショートカットの青髪の女性が出てきた。


「あれ、章介さん来てたんだ?」


 空中に浮かんでいる水晶に映る俺の姿を見つけた魔法使いのような格好の女性は、やや釣り目気味の緑色の目を驚いたように軽く見開いた。


 彼女はとある王国の魔法研究所の室長でもあり、彼女達がパソコン内に入り込む原因を作った人物でもある。

 ただそれは仕方のない出来事だったので、彼女が『原因』ではあるが彼女の『せい』ではないため、俺が文句を言うことはない。


「ああ、ついさっきな。ていうかお前だけか?他の皆は?」


「私以外の三人なら外へ行ってるよ。昼食の食材を採って来るって言ってたから、もうすぐ戻ってくると思うけど」


「そうか…ちょっと来るタイミングが悪かったかな…」


 少し彼女達に話があったんだが、全員揃っているときの方がいいからな。少し待つか。

 彼女が言うには時間もそんなにかからなそうだし。



 と、視界の中で不自然な動作が目に入る。



 彼女が手に持っていた四角い板状のものを、さりげなく背後に隠したように見えたからだ。


 あれはおそらくタブレットだ。


 少し前、ゲーム内でアイテムのタブレットが手に入ったと目の前の彼女から聞いた覚えがある。

 手に持っていたということは、ついさっきまでタブレットを使っていたんだろうけど、何で今隠した?


「なあ、お前今タブレットを隠そうと――――」



「ただいま戻りました」



 何となく、今までの付き合いからイヤな予感がした俺は、彼女に問おうと口を開いた。

 しかしそのタイミングで玄関のドアがガチャリと開き、二人目の住人が帰ってきた。


 そちらへと目を向けると、腰ほどの長さのウェーブのかかった栗色の髪をポニーテールに纏めた女性が、釣竿を肩に掛けながら立っていた。

 食材を獲りに釣りをしに行っていたのは一目瞭然だ。



『おかえり』



 俺と魔法使いの彼女の声がハモる。


 髪の色と同じ、大きくぱっちりとした栗色の目を水晶へと向けた彼女は俺の存在に気付いた。


「あ、章介さんこんにちは。いらっしゃっていたのですね」


「こんにちは、少し前にね。釣りに行ってたの?どう、釣れた?」


 俺の言葉に彼女は笑みを強く浮かべると、大きくも小さくもない胸を軽く張り、釣竿と同じく肩に掛けていたクーラーバックを床に置いて蓋を開けた。


「ええ、勿論です。私にかかれば魚の4匹や5匹、ちょちょいのちょいです」


 クーラーバックの中には2~30cmぐらいの大きさの魚が5匹ほど入っていた。鯛も見える。

 自慢げに言うだけあり、釣果は良かったようだ。


 島のあそこは波が荒いとか、逆にあそこは穏やかだけど魚は小さいとか釣竿片手に楽しそうに語る彼女は、驚くことにこれでもとある王国の王女様だ。

 今の姿からは王女というのは想像しにくいが、快活さの中にも気品と言うか淑やかさのようなものがある。


「――――という感じなのです。…あ、申し訳ありません。私ばかり話しをしてしまって。そう言えば先程まで何の話をされていたのですか?」


 王女様に話を振られ一瞬何のことか考えてしまったが『そう言えば』と思い、魔法使いの方へと視線を向ければ、彼女は『やば、逃げ忘れた』というような表情をしていた。


 それを見て確信する。



 絶対なんかやらかしている、と。



「…なあ、おい。お前――――」




「ただいま戻りましたぁ」




 タイミングが悪いのか、再びガチャリという音で俺の質問が遮られた。

 三人目の帰宅だ。




『おかえり(なさい)』




 今度は三人の声がハモった。


 再び振り返ると、銀髪を三つ編みにし片方の肩から胸元に垂らしたメイドが立っていた。

 眼鏡をかけ、右側に泣き黒子のあるたれ目ぎみで糸目の青い瞳の女性だ。

 手には籠に入った野菜を持っている。裏の畑に収穫に行っていたんだろう。


「あらぁ章介様。いらっしゃいませぇ」


 メイド服の彼女は片手を頬に当てながら、ほんわりとした口調で微笑を浮かべている。


「こんにちは。野菜の収穫も順調そうですね」


「ええ、最近は段々と収穫できる種類も増えてきましたしぃ、料理のレパートリーもある程度自由に作れるようになりましたぁ」


 『これも章介様のおかげですねぇ』と言いながら、メイド服の彼女は視線を動かす。

 正確に言えば、魔法使いと王女の二人へと向いていた。

 その視線を受けた二人は、体をビクッと跳ねさせる。


 因みに俺はメイドの彼女に『おかえり』の返事をしながら、魔法使いの彼女が出てきた部屋の扉の前へと移動している。

 会話中に彼女を部屋へと逃がさないためだ。


 メイドの彼女は二人をしばらく眺めていたが、やがて軽くため息を吐いた。


「お二人共ぉ、あまり細かく注意はしたくありませんけどぉ。…もう少し格好に気を付けてはいかがでしょうかぁ?」


 その言葉に二人はそっと目を逸らした。

 自覚はあるのだろう。


 俺もさっきからツッコミはしなかったが、少し気にはなっていた。


 最初に魔法使いのことを『ローブを羽織った』と説明していたが、魔法使い要素はそのローブだけで、その下の服装がアレだった。

 その下に着ているのは上下ともにジャージで、しかも洒落ているヤツではなくダサい芋ジャージだ。

 上着のチャックは全開で、中に着ている子供向け特撮、【仮面サイダー】のTシャツが丸見えだ。

 下もジャージの裾を折りたたんで脛まで捲っているため、パッと見、ひと昔前の田舎のヤンキーのような服装になっている。

 そしてその上からローブを羽織っていた。正直ダサい。

 ローブがない方がまだマシに見えるぐらいだ。


 次に王女様。

 一般的な王女様に想像するドレス姿には程遠く、お嬢様風の服装でもなかった。

 上は白地のTシャツで『あいあむ♡ぷりんせす』と胸元に大きく書かれている。所謂ネタTシャツというものだ。

 そして下は短パン、裸足にスポーツサンダルという恰好。

 肩に担いだ釣竿と相まって、田舎の男子小学生そのものだ。

 どこからどう見ても王女様のパーツは見当たらない。

 しかも今は十一月、よくその恰好で釣りに出掛けられたなと思う。

 風の子ですら風邪をひきかねない姿をしている。


「自室で着ている分には構いませんからぁ、せめて部屋から出てくるときはもう少しまともな恰好をしていただけませんかぁ?あと季節感も考慮していただければとぉ」


「…いや、この格好、楽だから、つい…」


「…いえ、この服装、動きやすくて、つい…」


 目を逸らしながら、落ち込んだ風に言い訳をする二人。


 しかし、よくよく聞いてみると謝罪はしていないし、やめるとも言っていない。

 相変わらず図太い神経をしている。

 絶対またやるぞ、こいつら。


 その様子に再び軽い溜息を吐くメイドさん。


 ただこのメイドも普通ではない。

 今の溜息は諦めの溜息ではなく、次はただではすみませんよの合図だ。

 この人普段はおっとり系だけど、怒らせると命乞いをしたくなるほどに怖いからな。

 屈強な人物が穴と言う穴から、あらゆる液体をぶちまけながら土下座するレベルだ。

 よくそんな人を何度も怒らせられるものだ。

 お前らパンツを濡らしたこともあるというのに。


「…はぁ、申し訳ありません章介様。王城から離れた生活を続けているものでぇ、少々気が緩んでいるようなのですぅ」


「いえ、別に俺は気にしてませんよ。部屋着なんてそんなもんですし」


「そう言っていただけると助かりますぅ。…ただぁ、ここの生活に慣れた後に王城に帰った時のことを考えると少々不安でぇ…」


「…それは…まあ…」


 たしかにそれはマズそうだ。


 実際にはどんなものかは分からないが、漫画などで見る限りでは、下手に隙を見せたら五月蠅そうな奴らがいそうな感じはする。


 改めて二人を見るが、…まあこれはないな。


 それに比べてさすがメイドさんの恰好はキチンとしている。


 ふくらはぎを隠す程度のロングスカートに長袖のメイド服。


 白いヘッドドレスにエプロンの、クラシックスタイルの紺色のメイド服が良く似合っている。

 それとは別にメイド服とエプロンを押し上げる胸部のパーツがえらいことになっているが。

 気を付けないと無意識に視線がそこへ誘導されてしまう。

 ゲームで言うなら常に男性の視線に対して【挑発】のスキルが使われているかのようだ。


「それでぇ…」


「…は、はいっ!?なんでしょうか!?」


 メイドさんの言葉にビクリと裏返りかけた声で返事をしてしまう。


 …あぶない、無意識に視線がソコへと行っていた。

 思わずおかしな返事をしてしまうところだった。

 魔法使いと王女の二人が怪訝そうな顔でこちらを見ている。


 水晶越しだったからそんなに露骨な視線にはなっていなかったとは思うが、頬に手を当てながら微笑を浮かべているメイドさんの表情を見ると背中にイヤな汗をかいてくる。バレてそうな気がしてならない。


「私が入ってきたときにぃ、何のお話をしていたのでしょうかぁ?」


 その言葉に魔法使いへ視線を動かす。


 目を逸らされた。


 しかし部屋へのドアは俺に塞がれている。

 さらに王女とメイドの視線も彼女へと向く。

 逃げ場はない。


「何度も遮られたけど、結局お前は何を隠して――――」




「…………………」【ただいまー( ´∀`)】




 そしてガチャリと三度ドアが開く。


 俺は天を仰いだ。


 まあそうなるんじゃないかとは思っていた。

 二度あることは三度ある。



『おかえり(なさい)(ぃ)』



 挨拶の四重奏。


 振り返った先にいたのは想像通り、このゲームに住んでいる最後の四人目。


 肩甲骨まである黒いストレートの髪に、ハイライトのない黒い目をした半眼の無表情の女性。

 さながら日本幽霊のような見た目をしている。

 とても着物が似合いそうだ。胸も無いしな。

 俺は今まで、彼女の表情筋が仕事をしたところを一度たりとも見たことがない。

 更に言うなら声を聞いたことすらない。

 しかし先程挨拶をしていた。不思議な感じではあったが。


 彼女は表情筋と声帯がストライキを起こしているが、何故か彼女の目を見ると言いたいことが顔文字付きで分かるという不思議な人物だ。

 『目は口程に物を言う』を体現している人物である。

 しかもかなり陽気な性格をしている。

 表情との温度差で風邪を引きそうだ。


「…………………」【あれー?章介くんじゃん。こんにちはー( ´∀`)】


「ああ、はい。こんにちは。あなたも食材の調達に行ってたんですか?」


「…………………」【そうだよー。立派なイノシシが獲れたよ、ほら( ´∀`)】


 最後に彼女が帰ってきてから開いたままになっていたドアから彼女が体をズラすと、その背後の地面にはイノシシが横たわっているのが見えた。かなりの大物だ。


「あらあらぁ、立派なイノシシですねぇ。血抜きは済ませてありますかぁ?」


「…………………」【ばっちりだよ。すぐに解体できるよー( ´∀`)】


 そう言いながら腰に差してある無骨な片手剣を手で軽く叩く。

 イノシシもその剣で仕留めたようだ。

 そしてその剣の通り、彼女は王国騎士団親衛隊で、王女付きの護衛を務める一流の騎士でもある。


 まあ今の恰好は厚手のパーカーにジーパン、ごついスニーカーというラフな格好だが。

 見た目だけならクールな顔と相まって男性よりも女性にモテそうな雰囲気がある。

 ただしこれを言うと顔文字で泣き出してしまうが。軽いトラウマがあるらしい。


「…………………」【…で?そっちは皆揃って何してたの?(´・ω・`)】


 その言葉で三度視線が魔法使いへと向く。


 毎度毎度横やりが入ってグダグダになってしまっているが、最初から俺が聞きたいのは魔法使いのことだ。

 正確に言えば彼女が持っているタブレットだが。


 皆の視線が彼女へと集中する。


 全員がここに揃った以上、もうこれ以上邪魔は入らないだろう。

 ようやく話が先に進む。


「で、お前。ちょっとそのタブレット見せてくれ」


 俺の言葉に今度は皆の視線が彼女の持つタブレットへと注がれる。


「…いやー別にー?特に何もないけどー?………っていう言い訳は通じる?」


「逆に聞くが通じると思うか?」


「もしかしたらワンチャンあるかもしれないじゃん?それにこういうのを、さりげなく見逃したりすると私の好感度が上がったりするかもよ?」


「ここで見逃すとお前の好感度よりも俺の不安が増すんだよ」


 水晶越しにジーっと見合う。


 そのまましばらく見つめ合っていたが、やがて魔法使いが俺へと問いかけてきた。


「…えーっと…本当に後悔しない?ここで見逃せば結果は変わらなくても、章介さんのダメージは最小限で済むかもよ?」


「…俺がダメージを受ける時点で碌なものじゃないだろ…。いいから見せろ。話はそれからだ」


「…いやまあ私が悪いのは確かなんだけど、一応私は止めたからね?」


 そう言いながら後ろに隠していたタブレットを取り出し、見えるようにと画面を皆の方へと向けた。

 それを見てタブレットの近くへと寄って来る皆。

 全員興味があるようだった。


 まあ目の前であんなやり取りをしていたんじゃ、俺だって興味を持つだろうしな。


 全員が傍に寄ってきたのを確認した後、魔法使いは『じゃあいくからね?』とタブレットの電源ボタンを押した。


 するとそこに映っていたのは――――。






「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉいっ!!!!!!!!!???」






 俺は全力で叫んでいた。

 近所迷惑などと言ってられない。


 なぜなら――――。


 そこに映っていたのは俺がパソコンの奥深くに隠していた夜のお宝映像だったからだ。


「俺のお宝映像、どっから引っ張り出してきたぁああああ!!!?」


 驚きと怒りや羞恥心など様々な感情を混ぜながら、この惨事を起こした馬鹿をモニター越しに怒鳴る。


「今の私達ってパソコン内のデータみたいなものじゃん?そのせいかタブレットを通して、パソコン内のデータを少しは見ることが出来たんだよね。ただ勝手の分からないものを弄るのは危ないし章介さんにも悪いから、何かないかな程度で見てまわってたんだけど…」


「……………」


「パソコンの奥の方から、大量の【イヤーン】な映像が出てきたからしばらく一人で見てたんだけど、これは是非皆にも残りを見せなきゃと…」


「ふざっけんなぁぁぁああああ!!!!!???」


 再び絶叫した。


 何てことしやがる。


 お前が見付けたのは仕方がない。

 最初からそれを見付ける気がなかった以上、それに関しては俺が悪かったかもしれない。

 だが何故そこで皆に見せようとする!?


 そっとしとけよ!

 お前が思う以上に男は繊細なんだぞ!?

 と言うか、お前と比べたら世の大抵の人間は繊細だからな!?

 お前の物差しで測るな!

 お前の物差しは元からぶっ壊れてるからな!?

 それで測れるのはお前か王女ぐらいだぞ!


 絶叫した後、心の中で魔法使いに向けて罵詈雑言を吐く。


 そしてハッと気付いた。

 あまりの衝撃に体が固まっていたがこうしている場合じゃない。ヤツの持っているタブレットの映像を止めなければ。


 魔法使いの顔に固定していた視線を慌ててタブレットへと落とす。


「わ、わ、わああああああ!!?ええ嘘?こんな映像どこにあったんですか!?こんなのがあるならもっと早くに私に教えてくださいよ!?」


 そこには両手でタブレットを掴んでかぶりつき、めっちゃテンションを上げている王女がいた。


「ちょ、ちょぉぉぉいいっ!!?何そんなに興味深々で見てるんだよっ!!?」


「え?…はっ!?い、いえ違いますよ?わ、私は全然このような破廉恥なものに興味はありませんよ?続きはどうだとか、他の作品はないのかしらとか、一切考えていませんからね!?」


「説得力の欠片もない!!!」


 アワアワと言い訳をしながらも、両手はタブレットを掴んだまま王女は離さない。

 これで興味がないという言い訳は苦しすぎる。

 そして更に俺に追撃をかけるように横から声がかかった。


「章介様も、もうそういう年頃なんですねぇ」


「いや俺もう今年で25なんですけど!?そういう年頃はとっくに過ぎてますけど!!?」


 メイド服の彼女は頬に片手を当てながら、生暖かい視線を向けて微笑んでいた。

 その目は『大丈夫、分かってますよ』と言っているようで、ぶっちゃけ冷たい目で見られるよりも居たたまれない。

 もし俺が思春期だったら、部屋に閉じこもって二度と出てこないレベルだ。

 俺は頭をかかえる。胸が痛い。


 そんな状態でも何とか力を振り絞ってタブレットを止めようと顔を上げると、さっきから大人しい最後の一人の顔がチラリと視界の隅に映った。


「…………………」【………(゜□゜;)】


 絶句していた。


 …極めて普通の反応だ。


 本来ならこの反応でもキツイものがあるが、三人のナナメをいく反応を見た後だと逆に落ち着くものがある。




 人のコレクションを片っ端から見た後、皆にも見せようとするヤツ。


 かぶりついて滅茶苦茶興奮しているヤツ。


 生暖かい目で『分かってますよ』と肯定してくるヤツ。




 それらと比べれば、絶句している反応はかわいいものだ。

 ただ一人でも自分の思った通りの反応をしてくれると少し助かる気持ちもある。

 この後、まともに顔を見て会話が出来るかは別問題になるが。

 とくに彼女の場合、目を合わせないと会話にならないし。


 少しの間硬直していた騎士の彼女だったがゆっくりと再起動すると、こちらへと視線を向け親指を立てた。


「…………………」【やるじゃん(〃▽〃)】


「なにがだよ!」


 前言撤回、彼女も普通ではなかった。


「いい加減にしろ!!」


 俺はタブレットを、マウスでクリックして操作し電源を切る。


「あああああ!!?章介さん、まだいいところ…ではなく!これから山場…でもなくって!ええと…取り敢えず一度見始めた以上、最後まで見る義務があるのではないでしょうか!?勿論興味本位ではありませんけども!!」


「却下だ却下!!あんたも落ち着け!!こんなもの興味津々で見てると碌な大人にならないからな!!?」


「いや章介さん、それブーメラン。ていうか私達全員二十歳超えてるからすでに大人だし」


「やかましい!!」


 真顔でツッコんでくる魔法使いに一喝いれると、俺はパソコン奥深くに隠しておいたフォルダを開く。


 本当はこういう事故が起こる前に、ヤバいブツを外付けのHDDにでも移動しておきたかった。

 パソコン内に住んでいるコイツにとって、データ移動の作業は隣の家の引っ越し作業のような感じらしいから、きっとバレただろうけど。

 彼女らがパソコンの中に居付いたのが突発的だったから、事前に対応できなかったのがマズかった。


 かなり分かり辛く奥に仕舞いこんでいたから、移動するよりバレないかもと祈っていたが駄目だったようだ。

 俺は肩を落とし、心の中で涙を流しながら差し込んだ外付ハードディスクにお宝映像を移動させていく。

 こんなことならバレるのを承知で移動させていた方が傷は浅く済んだ。


「あ、ちょっと待ってって!まだ観てないヤツが30本ぐらいあるんだよ!」


「半分近く観てるじゃねえか!なんでそんなに観たがるんだよ!!?」


 魔法使いが文句を言うが、負けじと俺も言い返す。


 こいつはもうちょっと恥ずかしがれよ。なんで平気なんだ。

 こっちはもう羞恥心で顔が真っ赤だぞ。


 ブーブーと喧しい声をスルーしながら、データ移動の終わった外付けHDDのケーブルを引っこ抜き元のデータは消しておく。

 さすがのアイツも物理的に繋がっていないデータはどうしようもないはずだ。

 DVDだったなら問題なかったはずだが、ダウンロードで作品を買ったことが今回仇となってしまった。


 とりあえずこれでこれ以上の惨事は起こるまい。

 ある程度バレるの覚悟で最初からこうしておけばよかった、本当に。


 ひと息ついていると、いくつも視線が俺へと向いているのに気付いた。


 …なんでオマエら全員不満気なんだ


「次はもっと過激なものをお願いします」


 なんで王女様は曇りのない目でそんなリクエストしてくるんだ?勘弁してくれ。


 頭をかかえつつ、念のためお宝映像の移動忘れがないかマウスを弄っていると、見覚えのないフォルダを見つけた。


「あ、ヤバ」



 …今、魔法使いのヤツはヤバいと言ったか?


 ヤツに視線を向けると、シレッと目を逸らしやがった。


「…えーと、章介さん。データは全部消し終わったんでしょ?じゃあ、もう大丈夫だよ、ね?」


 コイツ頭すごく良いくせに誤魔化すのは下手だよな。何かあると言っているようなものだろ。


 ヤツの言葉を信じられるはずもなく、速、フォルダを開く。

 するとそこには何故か、今消去したはずのお宝コレクションがあった。


「…………………は?」


 思わず思考がフリーズし声がもれる。

 錆びついたような緩慢な動きで視線を動かし魔法使いへ問いかける。


「…おい、これは何だ?今俺はちゃんと移動させた後消したよな?もしかしなくても、お前何かしただろ?」


 そう言うと、元々そこまで誤魔化すつもりはなかったのか、ため息をつきながら、


「…あー…今さっきデータを移動させてる最中、興味深いタイトルだけでもと思ってコピーしといたんだよ。章介さんがいないときにでも、改めて皆で鑑賞しようかなと」


「全然気付かなかったんだけど!!?ていうか人のパソコンデータ、勝手にいじらないでくれる!!?」


 目の前でコピーされてるのに一切気付かなかったのが怖すぎる。

 コイツ、実は悪質なPCウイルスの類だろ。

 アンチウイルスソフト起動したら引っかかるんじゃないか?


 少し不満気な魔法使いを一応注視しながら、コピーされていたファイルを消していく。


 そして今度こそ完全に消えたのを確認していると、残念そうな雰囲気を醸し出す四人が視界に映った。

 さながら遊園地の予定がキャンセルになった子供のようだ。


 だが悪いが、俺は自分の性癖を見られて喜ぶほど変態ではない。諦めろ。

 パソコンに撮り溜めてあるアニメや特撮だったらいくらでも観てくれていいから。


 そんなことを考えていると俺に声がかかった。


「そう言えば章介さん、なんか私達に用事があったんじゃないの?皆が戻ってくるのを待っていたようだったけど」


 その魔法使いの言葉で俺が元々何の用があったのかを思い出した。

 こいつらのタイミングの悪さと、ろくでもない行為のせいですっかり頭から抜け落ちていた。


「そうだよ、こんなアホなことしに来たんじゃなかったんだ」


 俺の言葉に、一度食事の準備で散りかけた皆が再び集まってくる。


「何か用があったんですか?」


「ああ、そうだよ。元々皆に用があったんだ。…次のゲームの攻略情報が纏まった」


 皆の纏う雰囲気が変わる。

 さっきまでの緩んでいた空気が引き締まったのを感じた。


「予想攻略時間は最短ノーミスで一時間ちょっと。平均して三~四時間ってところだ。勿論失敗すればするほど攻略時間は伸びるけどな」


 そう言いながら皆を見回すが、全員の口元は笑みの形をしていた。

 騎士の彼女だけは絵文字で笑っていたが。


 緊張してはいないが、決して油断もしていない。

 コンディションはバッチリのようだ。


「じゃあ昼食をとったら説明を聞いた後、攻略に向かおうか」


「そうですね。上手くいけば夕飯までには戻ってこれそうですしね」


「では早速昼食の準備に取り掛かりましょうかぁ」


「…………………」【じゃあ私はイノシシの解体をしてくるよ( ´∀`)】


 昼食の準備に取り掛かかりに移動していく彼女達。

 俺はそんな彼女達の姿を眺める。


 この後彼女達は何度目かになる、別のゲームへ移動しての攻略に入る。


 すでに何本もゲームの攻略をしているが、何度やっても俺は慣れることはない。

 何故なら普通のゲームならゲームオーバーになってもコンテニューすることができるからだ。

 しかし、実際にゲームに入り込んでの彼女達は、下手をすると一度のゲームオーバーがイコール死に繋がりかねない場合がある。

 だが彼女達が元の世界へと戻るためには、俺のパソコンに入っている何本かのゲームをクリアする必要がある。

 それを俺はモニターから画面越しに見ていることしかできない。

 俺に出来ることは、精々そのゲームの攻略情報を徹底的に調べることと、画面越しに攻略のアドバイスをすることぐらいだ。

 安全圏から見ていることしかできないことがもどかしくなる。

 だがそんな状況にあっても、彼女達は決して悲観することなく笑っている。

 本当に強い女性達だと思う。


 そんなことを考えながら彼女達の背中を眺めていると、不意に魔法使いの彼女が振り向いた。

 彼女はこちらに顔を向け『ニッ』と笑う。


「大丈夫だって、章介さんは私達のために最大限出来ることをやってくれてるよ。章介さんがいなかったら私達全員あの時に死んでるし、十分助けになってる。だからあとは私達を信じていて」


 その言葉を聞いて俺の心が少しだけ軽くなる。

 こういうヤツだから、さっきのようなことがあっても結局許してしまうんだよな。


 それに何だかんだ、初めて会ってから一年以上過ぎているし、彼女達のことも信頼している自分がいる。

 きっと彼女達ならどんな困難でも乗り越えてしまうのだろうと。


 だから俺は、俺に出来ることをやるだけだ。


 そういう風に考え、もう一度改めて気合を入れ直す。


「あ、そうそう」


「どうした?」


 魔法使いの彼女が何かを思い出したように声を上げた。

 何があったのかと聞き返す。


「さっきのお宝映像見て思ったんだけど…。章介さんって脚フェチ?」


「お前、ぶっとばすぞ」



 やはりいつか、一度は分からせてやる必要はあるようだ。




――――――――――――――――――


001話は読切。

002話からが正式な連載になります。


〜030話までがPM9:00頃連日更新。

031話からが週一〜二の更新になります。

よろしくお願いします。


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