共通ルート 七
早いもので入部から二ヶ月が経過した。
高校生活にもすっかり慣れ、部活の先輩たちとの交流も盛んになってきた今日この頃。
いつものように部活に顔を出すと、何やら部長が黒板に資料を貼り付けていた。
「手伝いましょうか?」
「鳴海か。ありがとう、ではこれを順番に貼っていってくれるか」
そう言って部長が渡してきたのは、どうやら大会の資料のようだ。部長の指示に従い、黒板に磁石で貼り付けていく。
「これ、AWG(アビカワールドグランプリ)の資料ですよね。うちってこれに出るんですか?」
「ああ、それについては全員揃ってから説明しよう。ところで、久遠さんたちは?」
「あいつらなら掃除当番っす。すぐ来ると思いますよ」
話しながら準備を進めていると、部室には段々と部員が集まってきた。
白栞たちも合流し、全員が揃った頃には、黒板は資料で埋め尽くされていた。
「さて、毎年恒例のことだが、一年生には馴染みがないだろうから説明していくぞ」
黒板の前に立つ部長と、着席している俺たち部員。まるで授業中のような風景だ。
「六月も始まったばかりだが、各大会のエントリーが始まる。我々もアビカ部である以上、大会の参加を一つの目標としている。もちろん、参加は自由だし、希望すれば出られるというものでもないが、目標として目指してもらえればと思う」
毎年アビカの大会の多くは夏と冬に開催される。ということは確かに、そろそろエントリーの時期なのか。あまりこういった大きな大会には関心を持っていなかったから、特に意識しないまま部活動に参加していた。
「我が部では、大きく分けて三つのグループに別れる。まず一つはAWGへの参加だ。これは個人戦となるが、部内での練習やデッキリストの検証、共有などを行って日本代表を目指してもらう」
AWGは、その名の通り世界一を目指す大会だ。
年齢層毎にリーグ分けされていて、国内大会から始まり、全国大会まで進む。そこで一定以上の戦績のプレイヤーが日本代表となり、世界の代表たちと戦うのだ。
ここで活躍したプレイヤーの多くが、その後プロとして活躍している。
ちなみにプロリーグはまた別にあったりするが、AWGはプロもアマチュアも参加するため、プロリーグとはまた違った面白さがある。
「次に、アビカ甲子園への参加だ。四人組のチームを作って日本一を目指すチーム戦で、個人戦とはまた違う難しさや楽しさがある。学生の内しか参加できない他、プロは出られないからな。今のうちに出ておきたい者も多いだろう。興味があるなら今のうちにチームメイトを集めておくように」
アビカ甲子園は、同じ学校に通っている学生だけで四人組のチームを作り、そのうち三人が試合に出るという形式だ。
毎年夏の終わりに行われる決勝トーナメントは、共に戦ってきた学生たちの熱い友情が見られるとお茶の間でも人気だったりする。
「最後に、実力を磨きたい者やライトに遊びたい者、残念ながら大会に出られなかった者は日々の部活の中で実力を磨いたり、より楽しくアビカに向き合ったり、選手の応援に回る。言うまでもないが、大会参加する選手が偉いというようなことは断じてない。この選択をする者もまた、等しく一プレイヤーであることは、ここにいる全員が認識しておいてほしい」
その後は各大会の説明が資料を用いつつ簡易的に行われ、自由時間になった。
俺たちは部室の隅で机を向かい合わせて集まる。
「で、結翔はどうする?私とアビカ甲子園目指そ?」
「俺は今、自由意志を問われているのか?それとも奪われようとしているのか?」
「白栞をアビカ甲子園に連れて行って?」
「やかましいわ」
というか、白栞と組んだら俺が連れて行ってもらう側な気がする。言ってて悲しくなるが。
「大会も色々あるんだね。ボクは正直、その領域に達してないと思うけど……」
「いや、桂木なら充分やれると思うぜ。エントリーはもうすぐ始まるけど、予選開始まではどの大会もまだ少しは時間はあるしな。その間に練習すれば、大会に出ても楽しめるレベルにはなってると思う」
千夏の言う通り、桂木さんなら参加者として楽しめるレベルには充分手が届きそうだ。
本人は大会で勝つというよりも、沢山の人と対戦して楽しむというモチベーションが高いようだが。
「とはいえ、無理に大会を目指すこともねーよ。やりたいようにやればいい」
「そうだね。ちょっと考えてみるよ。ところで千夏ちゃんはもう決まってるの?」
「アタシはAWGかな。アビカ甲子園も悪くはないが……」
チラリと白栞を見る千夏。まだ決めかねてるようにも見えるし、思う所があるようにも見えた。
「ま、何にせよ大会には出るよ。腕試しにはちょうど良いし、強いやつとやれるチャンスだからな」
千夏の闘争心は燃えているようだった。こいつも、何か抱えているものを吹っ切るいい機会なのかもしれない。
結局、部活の時間内には決まらなかった。家に帰っても考えが纏まらないため、気分転換に最寄りのショップへ足を運んだ。
ショーケースに飾られているカードを眺めながら、方針を考えていると、一枚のカードが目についた。
「ほ、〈滅ぼし〉の初版ハイレア十一万円!?高すぎだろ。誰が買うんだこれ」
到底学生の身分では手が出せない。そもそも通常版でも効果は変わらないので、よほどの拘りがある人じゃなければデッキのレートを上げたりはしないのだが、社会人になると好きなカードやデッキのレアリティを上げる人もそれなりにいる。
ちなみに、レアリティを上げる行為はデッキを光らせるなんて言われている。
このカードも、いつかデッキを光らせたい人が買っていく日が来るのかな……などと考えていると、スタッフが歩いてきた。
「恐れ入ります。こちらのショーケースを開けさせていただきます」
「あ、すんません」
横に逸れると、スタッフが鍵でショーケースの鍵を解錠していく。鍵は三つ付いており、厳重な作りだ。
このショーケースの中のカードはいずれも高額なものが並んでいるため、当然ではあるのだが。そもそもこのケースが開く所なんてほぼ見ないので、珍しいものを見た気持ちになった。
「この初版の〈滅ぼし〉をお願いします」
「うぇ!?」
マジかよ。こんな高額カードをポンと買うやつがいるのか。
驚きのあまりつい声を上げてしまった。客の方を見ると、そこにいたのは――
「失礼、もしかしてあなたも購入予定でしたか?申し訳ありません」
――極光常盤のエース、水城セリアだった。
レジへ向かう水城に目を向けると、極光常盤の制服を着た四人組が目に入った。
「水城さん、アビカ甲子園まであまり時間がありません。次は自分の試合を見てもらえますか」
「分かったわ。では、今回はお互いの手札をオープンした状態で試合を進めて。気になったところは一度止めさせてもらうから、それまでは通常通りに試合を進行して」
案の定、あいつらはアビカ甲子園に出るみたいだ。去年の王者だし、当然と言えば当然なのだろうが。
ショップバトルでの借りを返すなら、アビカ甲子園を目指すことになりそうだ。
外に出ると、辺りは暗くなりつつあった。明日も迫る中で、答えを出さなければならない。
AWGに参加して世界を目指すのか。
アビカ甲子園に出て、チームメンバーと苦楽を共に戦うのか。
もしくは、大会には参加せずに学生生活を謳歌するのか。
俺は――
▶AWGに出る
・アビカ甲子園に参加する
・来年に向けて実力を磨く
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