空からのお祝い
天霜 莉都
最後のプレゼント
喜び、悲しみ、苦悩、ありとあらゆる感情に心揺さぶられながら生きていく毎日。
人は生きていく為に理由を求め、それを失った時に絶望する。
ビルの屋上で安全柵を乗り越え、今にも飛び降りそうな男が1人、スマートフォンの画面を眺めている。
「あぁ、2人のいないこの世界で生きていく事は、苦痛でしかない。俺もそっちに行っていいかな?」
スマートフォンに写し出されているのは、家族写真。
満面の笑みを浮かべるこの男と、その妻と娘の3人が写ってる。
この男は不幸にも、数週間前に交通事故で妻と娘を亡くし、生きる希望を失ってしまっていた。
そして、今日はこの男の誕生日。
祝ってくれる家族を失った事もあり、自らの誕生日が絶望感を加速させている。
『ぼく、こう言う場面って好きじゃないんだよね。』
男の隣に腰掛け、下の様子を見ている白いパーカー青年。
『ンな事、オレの知った事か。』
男を挟んで、反対側に腰掛けている黒いマスクを着けているガラの悪い青年。
『えっと、時間的にそろそろだけど、どっちに転ぶかな?』
男には、この2人の青年は見えていないし声も届いていない。
『知るか!!オレもお前もやる事をやるだけだろうか。黙って見てろ。』
男のスマートフォンに、メッセージの通知が表示される。
「!?」
メッセージの送り主は、亡き妻からだった。
「な、なんで?」
男がメッセージを開くと、そこにはURLが記載されていた。
男は少し迷いながらも、URLをタップする。
すると、見た事もない動画サイトに飛ばされた。
男は騙されたのだと思い、スマートフォンの画面をスワイプして消そうとする。
しかし、スワイプしようとした男の指が止まった。
映し出されている映像には、亡き妻と娘が映っていた。
「何だこれ?」
『あなた、お誕生日おめでとう。そして、一緒にお祝い出来なくてごめんなさい。』
「え」
男のスマートフォンに映し出されている映像が、生前に撮られた物でない事に男は気付いた。
『私とむーちゃんが事故にあったあの日、実はあなたに内緒で誕生日プレゼントを見に行っていたんです。』
「気が早すぎだろ……。」
『今、気が早すぎって思ったでしょ。でも、あの日じゃなきゃ駄目だったんです。だってあの日は、あなたの大好きなキャラクターの限定グッズの販売日でしたから。私とむーちゃんで力を合わせて勝ち取った、あなたに贈る最高のプレゼントでしたから。まさか、その場での抽選とは思ってなかったから、外れたらどうしようって思ったんですけど、2回抽選して当たったからよかったって思って。その日の内に持って帰っても良かったんだけど、あなたの誕生日に届くように配送お願いしたんだけど届いたかな?』
「荷物……?」
『限定グッズの特別ラッピングで、ちょうどいい感じにプレゼント感も出てるからいいと思っておねがいしたの。あ、もしかして、受け取ってない?それなら、明日再配送してもらってちゃんと受け取ってね。私とむーちゃんからの、最後のプレゼントだから。私は、あなたの笑っている顔が大好きだよ。私は……、あなたと一緒に生きていたかった。むーちゃんと3人で色んな所に行って、おいしいもの食べたり楽しく遊びたかった。そして、あなたを1人にしちゃってごめんね。あなたには、私とむーちゃんが生きられなかった分、生きて。あなたが精一杯生きて、シワシワのおじいちゃんになっても、私はここであなたが来るのを待ってる。』
「勝手すぎるだろ……。」
『私は知ってるよ、あなたはここで命を投げ出さない人だって。だって、私が好きになったのはそう言うあなただからだよ。あなたが精一杯生きた話、楽しみに待ってるから。』
男の亡き妻は娘を抱き、笑顔で手を振っている所で動画は終わった。
「ほんと……、勝手すぎだろ。」
男はそう言うと、いつの間に流れていた涙を手で拭い、安全柵軽々と飛び越えてビルの中に戻っていった。
『あらら、思いとどまっちゃった。』
白いパーカー青年は少し残念そうに男が去っていった方を見ている。
『魂狩れなくて、残念だったな。こっちは、この後報告書を書かねぇといけねから、さっさと帰るわ。』
黒いマスクを着けているガラの悪い青年は、白いパーカー青年を軽く睨みつけて、その場から去った。
『死神相手に、天使と言うものはあそこまで悪態をつけるもんだね。にしても、死後に誕生日の祝いのメッセージ撮るって天界は何処まで脳みそハッピーなんだか?』
白いパーカーの死神の青年は黒い靄になりビルから姿を消すのであった。
自殺を思いとどまった男は、次の日再配送で妻と娘が選んでくれたプレゼントを受け取ったと言う。
「随分、待たせてしまったね。」
「普通、再婚とかしない?あなたって意外と一途だったのね。」
「別にいいだろ、そんな事。」
「それじゃ、むーちゃんと一緒にパパの人生と言う長い旅路の話を聞かせてもらおうかな?」
「つまらなくても、文句は言ってくれるなよ。」
「むーちゃん、パパのどんな話が聞けるか楽しみだね。」
「うん。」
「まずは、そうだな……。」
空からのお祝い 天霜 莉都 @Ritsu-Tensou
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます