セトギワフレンズ

蚤寝晏起

プロローグ

 座り慣れた知らないベッドに沈み込む。


「なーぎちゃん」


 落ち着いた甘い声が耳元で囁いた。


 稚児に話しかけるような蕩けた調子。首元に回されたまま離れない細腕と無防備に預けられた上体。ラベンダーにも似た芳香に鼻腔を殴られ、瞬間、酩酊。


「だいすきだよ」


 そんな言葉、今までどれだけの人にうそぶいてきたのだろう。


 下肢へと伸びるすべやかな指先で、何人の女を泣かせてきたのだろう。


 星の数ほど知らないことがある。けれど、さんざめく恒星に触れることが出来ないように、私がそれを知る日などきっと来ない。


 どれだけ手を伸ばそうと、それで掴めるものなどただの一つもありやしない。


 分かっている。分かっているはずなのに。


「……わたしも、すき」


 ままならない呂律は、どうしてこうも虚しく回ってしまうのだろう。


 形だけ模倣した粗悪品、味のない角砂糖。


 優秀な芸術家は模倣し、偉大な芸術家は盗むのだとピカソは言った。ならばこの空転するオウムたちの声も、いつしか本物になれるのか。


 ただのセフレでも、真実の恋人になれるのか――なんて、笑えない冗句め。


 白い肌の上を蹂躙する歩兵。甘美な悲鳴と共に、こんな夜だって更けていく。




 お前みたいなの、絶対好きになんかならない。なってやるもんか、アバズレめ。


 温度のない熱に浮かされた理性が、苦し紛れにいなないた。

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