白馬の悪役令嬢

山田ジギタリス

第1話

「おいっ! 大丈夫か?」

「殿下、お逃げください、私は捨て置いて……」

 

 私はこの国の王太子だった男。今は一兵士として前線で戦っている。

もう目前と言ってもよい距離で敵の指揮官が馬上から悠然とこちらを見ている。もはやこれまでか。


 なんでこんな事になったのか。それは半年前の夜会でのことだ。私は婚約者を断罪し婚約を破棄した。その時からだ。婚約者は令嬢ながら馬も操り剣や弓も嗜む。私たちはそのまま二人で国を治めるだろと思っていた。しかし、私が彼女を裏切り敵の差し向けた女の色仕掛けにはまり国を滅ぼしてしまった。それが死に戻る前。

 

 今度こそはと思っていたがすでに私は女の色仕掛けに引っ掛かったあとだった。だが前回の記憶がある。婚約破棄こそしたが、婚約者をそのまま領地に送り返し父君には詫びの手紙を送った。私は弟に王太子座を譲り友人たちと望んで前線に出た。しかし敵の罠にはまりこのざまだ。

 

 元婚約者は無事だろうか。例えここが破られても彼女の実家が……いや都合のよいことは考えまい。


 敵の目線が私からそれた。

 

「何者か?」


 敵の指揮官が問いただしたが、その答えは彼の首に刺さった矢だった。


 「閣下、閣下!引けい引けい、閣下を、閣下をお助けするのだ」


 副将らしき男が必死に司令官を抱きかかえ撤退を始める。そこに数十人の白馬に乗った騎士たちが追撃する。敵兵たちは混乱し逃げ惑う。

 

「ご無事でよかった、ああ、彼らはまだ助かる。聖女様お願いします」

「はーい、では、ちょっとやっちゃいますね」

 白く眩しい光が溢れ私の傷が直っていく。そばで倒れていた友人たちの顔色も戻っていく。


「ここでもたもたしてる時間はありませんね、さっさと戻りましょう。殿下お手を」

「きっ君は」

「やですわ、婚約者のこと忘れないでくださいまし、さぁ行きますよ」

 

 白銀の甲冑を着た女性の後ろで白馬にまだかる。この馬は知っている、元婚約者の愛馬だ。

 

「なぜ、ここに?」

「死に戻ったのは殿下だけではありませんよ。私は殿下よりずーっと前に戻れたのです。そして聖女様を助けてそれからいろいろ準備して。でもまさか殿下が前線に行かれるなんて」

「すまない、少しでも敵を食い止めたくて」

「そういう方ですよね。こうやって一緒に馬に乗ってると幼い頃を思い出しますわね」

「ああそうだな」


 幼い頃、二人で同じ馬に乗り草原を駆け回った思い出。


 「もう、一人で行かないでくださいね」

「すまなかった、約束する、ずっと君と一緒だ」


 その後、敵は新たな指揮官を立てて再度攻めてきたが、猛将と呼ばれた武将を失った痛手は大きく、膠着状態に陥ったあと、和睦を申し入れてきた。 

 前線で先頭に立ち戦った王子を廃嫡するのは国民が納得せず、私は王太子に返り咲き、また再び婚約者となった令嬢と結婚、二人で助け合い国を治めた。


時々二人は王宮を抜け出す。そんな時は決まって二人で野山を馬で駆け回っていた。

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白馬の悪役令嬢 山田ジギタリス @x6910bm

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