モブキャラ上がりの限界勇者、魔王城に閉じこもる

別槻やよい

プロローグ~なんとテンプレな新しき魔王か~


 いにしえの時代に邪神の亡骸を葬ったが故に、未来永劫呪われることとなった土地。

 世界の果て、人外魔境にそびえ立つ魔王の居城。

 そんな恐ろしい場所で、今、新たな魔王が誕生しようとしていた。


「魔族も、魔獣も、こんなに集まっているだなんて……。これじゃあ城門に辿り着くことすらできないんじゃ。」


「へ、諦めんならとっとと帰りやがれ。オレは行くぞ。魔王城であいつが待ってんだからな!」


 不安げな女魔法使いの前に、屈強な戦士が進み出る。

 彼の隣に並ぶように、聖女と聖騎士も勇敢なる一歩を踏み出した。


「諦めるだなんて、そんなことできるはずありません!あの方は私が、私たちが必ず連れ戻すんです!」


「聖女様のおっしゃる通り。私も、彼が新たなる魔王となったなど到底信じられん。きっと卑劣な手段でかどわかされ、幽閉でもされているのだろう。」


 気配を殺し敵陣偵察を行っていた女暗殺者と、岩の上で望遠鏡を覗いていた狩人が仲間の元へ戻ってくる。

 彼らもまた、聖騎士の言葉に静かに頷いた。


「人類を絶望させるため……ですね……。ほんと……悪趣味で、最低です……。」


「ちゃんとメシ食えてるかな? 会えたらオイラ特製の肉団子をたらふくご馳走してやんないと!」


 彼らは互いに顔を見合せ、力強く頷き合った。

 円になるように集まって、それぞれの右手を重ねる。

 それをかつて率先して行っていた少年は、この魔王城で自分たちの訪れを待っているのだ。


「絶対に、私たちの"勇者様"を取り戻しましょう!」


「「おぉ!」」


 元勇者パーティの気合いが入った掛け声が大地を揺らす。

 それは、魔王城を護るように取り囲んでいる魔族や魔獣すら乗り越えて、きっと"勇者様"の元まで辿り着けるという希望が感じられた。

 

 ――玉座の間で膝を抱える勇者には、随分とはた迷惑な話であったが。

 


「……いやだ、嫌だ。……ぼくはもう勇者なんてしたくない。できない!」

「世界は平和になったんだから、もう放っておいてよ……!」


 

 ……彼は既に勇者ではなかった。

 かつての仲間たちが来ることがなければ、新たな魔王になる気力もなかった。

 

 彼はひたすら頑張った末に心身ともに疲れきってしまった、ただの人間の男の子だった。



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