コンプレックス・ラヴ
リバー
第一話
大学3年生の秋。早い学生はもう就活を終え、残りのキャンパスライフを満喫しようと遊びの計画を立てる。旅行、キャンプ、サークル活動。アルバイトに精を出す学生もいるだろう。2か月後のクリスマスに合わせて恋人をつくる者もいるだろう。
そんな季節だが、もちろん例外もいる。輝かしいキャンパスライフとは程遠く、サークルにも属しておらず、友達もいない。恋人なんて夢のまた夢。高森美晴とはそんな女だ。
高森美晴という女は、182センチと女性の平均をゆうに超え、並みの男性でも見上げる長身であり、中学時代はその身長のせいでいじめられていた。そのため身長を隠すため背を丸めている。
顔は一見すると整って見えるのだが、連日ゲームや恋愛ドラマを夜遅くまで見ているため、目の隈がひどい。人と目を合わすことが苦手で、前髪を伸ばして顔を隠している。
名前負けをしている自覚もある。性格も根暗で、思い込みが激しく社交性もない。
そんなコンプレックスだらけの女、高森美晴も恋をした。
通学バスを降り、講義に向かう。教室に入ると、友達同士で座っている学生。ノートパソコンを開きながら何かを打ち込んでいる意識高い系の学生。誰の目があるかもわからないのにイチャつく学生カップル。極めつけは男女分け隔てなく集団で座っている陽キャども。
高森美晴はそんな環境から自分の最善の席を一瞬にして見分けないといけない。さながら味方のパスコースを見極めるポイントガードのように。
席のベストポジションは教授側から見て目立たなく、悪目立ちしている学生の近くに座らないことだ。
カップルと陽キャ集団は論外であり、意識高い系は自ら率先して教授に話しかけるから質が悪い。
狙うは同じく一人で講義を受けている学生の二つ隣の席。これだと一人で講義を受けている感が薄まり、尚且つ隣に人が座っているというプレッシャーがほぼない。またできるだけ後方の席が好ましい。なぜなら高森美晴は182センチもある高身長だ。座高もそれなりに高い。後ろに人がいたら「こいつ邪魔だな」とか思われてそうで死ねる。そのため、やや後方の端の席が理想。
教室を見渡すと、友達同士はまばらに座っており、端はほぼ埋まっている。意識高い系は一番前の席。カップルはなぜか真ん中よりの席に座っている。問題なのは陽キャ集団だ。こいつらはなぜか窓側の奥で端の席を陣取っている。そこは陰キャのスウィートスポットでもありながら、陽キャどもが隠れてスマホを触ったり、喋ったり、寝たりするには絶好の位置にある。何しに学校に来てるんだこいつら。
端の席は埋まっていて、真ん中にはカップルがいる。この講義は一人で受けている学生がほぼいないと思わせるほどぼっちがいない。
この間2秒。高森美晴の出した答えは、前から二列目。意識高い系の左斜め後ろの席を選択した。座りたかったのは真ん中の席の端。そこがベストポジションのように見えたが、近くにカップルがいて講義を受ける余裕がない。殺意が沸いてしまう。
意識高い系の近くに座れば、教授の目も自ずとこちらに向くかもしれないが、逆に意識高い系の近くに座ることによって私の存在を教授の意識から回避できるんじゃないかと考えた。こちら側の席で、教授と意識高い系が講義について質疑応答を繰り返していれば、講義の時間が終わるか、逆サイドの席にも目が行くのではと考えた。浅慮かもしれないが、多分人間って心理的にそうなってるんじゃないか。知らんけど。
始業のチャイムが鳴る。高森美晴にとっては始まりでもあり、終わりでもある。本当にこの席でよかったのかなと不安になる。気が気じゃない。こんな事で一喜一してる自分が心底嫌になる。小学生の時はこんなんじゃなかったけどな。活発だったし、友達もいた記憶がある。ただ身長が他の女の子より高い女の子。どこでこんな根暗になったんだろう。
まぁでもそれはそれ。これはこれ。今はこの講義を乗り切る他ない。実は単位がギリギリである。なんとか私の盾になってくれよと意識高い系に念を送る。しかし、そんな本人にとっては重大な悩みが、彼を見て一瞬で消える。
教授が教室に入ってくる。
「授業を始めます。まずは出席確認…」
ガラガラっと教室に入り込んできた一人の学生。
「あぶねー。ぎりぎりか」
「間に合ってないよ君。次からもっと早く来なさい」
「うーす」
彼と目が合う。彼は私の隣の席に座る。
この講義は君も受けてたんだね。
彼の名前は樋口恭弥。私の気になる人。
そう。高森美晴は身の丈に合わない恋をしている。
つづく
コンプレックス・ラヴ リバー @fu_0888
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