第7話 絶望
大和号暦一六五〇年頃。宇宙船は扶桑号を経由して、山城号へと移り変わっていた。
山城号にもなると、宇宙船の大きさは大和号の五%ほどの大きさになっており、内部の人口も十万人を切っていた。
それもそうだろう。フラクタル計画による宇宙船の新造は、マトリョーシカと同じなのだ。前の宇宙船より小さい宇宙船を建造せざるを得ず、しかし逆に大きな宇宙船を建造しようものなら物資不足で乗客が命を落とす。結果として、宇宙船は小さくなる一方である。
もはや人々に生きる活力などなく、ただ滅亡を静かに待つのみだった。
しかし、高天原共和国の行政府は地球外惑星移住を諦めてはいなかった。人々に希望を持ってもらうため、地球出発時の先祖との約束を果たすため。行政府と全省庁は力を合わせて、外宇宙に視線を向けていた。
外宇宙観測所では、休むことなくありとあらゆる方向の宇宙を注視する。今一番近い恒星はシリウスと推定される星だが、すでに後方に流れてしまっている。ならばと前方にある恒星に望遠鏡を向けるが、向かう先には虚空のみ存在していた。
日が経つにつれて、地球外惑星移住という計画が絶望的なものであることを、嫌というほど理解させられる。
「佐武首相、いかがしますか……?」
高天原共和国の長である佐武首相が、意志決定をすることになった。いや、「なってしまった」というべきか。
佐武首相は少し悩んだあと、決断を下した。
「第八次フラクタル計画を実施する」
その発言にどよめきが起きた。
「首相、確かに次期計画を実施出来るだけの物資は存在します。しかし、何も今から計画を実施しなくてもいいではありませんか」
「いや、これは希望を紡ぐための計画推進だ。次の宇宙船を建造し、子孫に希望を残すためである」
そういった佐武首相は、ゆっくりと目を伏せる。
「……というのは建前に過ぎない。実情は、問題を子孫にまで先送りしているだけだ。まさに、地球で起きた諸問題を子孫に丸投げした歴史のようにな……」
その言葉で、誰もが押し黙ってしまった。それは、簡潔的にある事実を述べているからである。
『我々に未来はない』
進むも地獄、退くも地獄という現状で、打てる手はない。
「どこに行くにしても地獄なら、前に進むのが一番有効な手だとは思わないだろうか?」
佐武首相はそのように問いかける。閣僚たちは反対しなかった。
これにより、第八次フラクタル計画が実行に移される。しかし、慢性的な物資不足に加えて、圧倒的な人手不足と士気がない。当初計画していた建造期間は十五年だったが、どんどん後ろ倒しになっていくほかなかったし、宇宙船自体も小さくせざるを得なかった。
それでも行政府は、未来に希望があるような偽のスローガンを掲げ、必死になって人々を景気づける。それでも限界はあったものの、ほんの一粒の砂ほどの希望に賭ける思いは、誰しもが持っていた。
こうして二十五年という期間を費やし、次期宇宙船「金剛号」は完成した。
完成と同時に、病床に伏す佐武首相は人々に対してある提案をする。
『諸君らには選択肢がある。未来に希望を託して金剛号に搭乗するか。自分たちの世代で歴史を終わらせるために山城号に残るか』
人々は困惑する。
『先祖代々、我々は宇宙を旅してきた。それは未来を掴み取るためだ。しかし、それにも限界はある。今我々は、その限界に到達しつつあるのだ。持続可能な環境を整え、それを維持するのにありとあらゆるリソースをつぎ込んでも、結局は無謀だった。だがこの先、もしかしたら人間が居住出来る惑星に到達することが出来るかもしれない。その一縷の望みに賭けて、更なる旅に進もうという覚悟があるなら、金剛号に乗ってほしい』
佐武首相による、ブレイクスルー・イミグレーション計画の失敗宣言だった。人々は分かり切っていたことに、溜息をつく。
だが、どんな場所にでも例外は存在する。金剛号に意気揚々と乗り込む人々がいるのだ。
「俺たちが希望になれるのなら、人柱にでもなってやるよ。先祖がしてきたのと同じようにな」
しかしながら、金剛号に乗り込んだ乗客はわずか九千人程度となった。未来に希望を残すには少なすぎた。しかし、行政府は山城号に残る乗客を見捨てるほかないのだ。
大和号暦一六八五年十一月十八日。高天原共和国は葦原県と黄泉県に分裂し、葦原県を金剛号に、黄泉県を山城号に振り分けた。行政府は葦原県に置かれ、実質的に高天原共和国は金剛号のみを統治することになる。
『これで良かったのだろうか?』
誰もが葛藤の念に駆られる中、金剛号は無情にも深宇宙を進んでいく。
地球号の後継者 紫 和春 @purple45
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