雪の日の花嫁〜中央島の少女〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

雪の日の花嫁


 白い装いにさらに真っ白な綿帽子を被り、雪道を俯きながら歩いていく。俯いているのは足元を気にしているせいで、決して気分が沈んでいるからではない。


 隣を歩くのは黒い装いに黒いコートを羽織った相手。後ろから赤い傘をさすのは二人を取り持った仲人なこうどである。


 その後ろには近しい親族——。


 皆、それぞれに淑やかな装いでぞろぞろと後に続く。道ゆく人は軽い祝辞をのべ、知らぬ相手でも祝福するのが慣わしだ。


 こんなにも冷え込む日でも寒さなんて感じないほど、この一団は寿ことほぐことに忙しい——。




 中央島の神社に初詣をした帰り道、四人は賑々しい一団とすれ違った。


「あれはなんだ?」


 カガリが珍しそうに目を向ける。今年はカガリも他の三人に境内のそばまで連れてこられたのである。


 もちろんカガリは火の女神なので水の神を参詣することはなかったが、初詣の気分だけでもと、共に連れてこられたのだ。


 そのカガリが寒いので目線だけで聞いてきた。それを見たシキが軽く微笑んで教える。


「花嫁行列ね。今日は日が良いから結婚式を挙げるのよ」


「ほう。なかなかに美しい」


 雪道を進む白い花嫁と黒い花婿。それにかけられる大きな赤い塗笠の色合いが、カガリの目には新鮮であるらしい。


「ステキよね」


 ——軽い言葉でそう言いながら、心のうちでは「いつかあんなふうに花嫁になりたい」と願ってしまう。


 シキはそんな心の声がバレてしまうのではないかとどぎまぎするが、流石さすがにカガリでもそんなことはできない。


 それなのに誰かにこの気持ちがバレているのではないかと心配になり、妙に明るく話をふる。


「カガリはさぁ、け、結婚の話とかってあったの?」


 シキはなかうわの空である。


 後ろからついてくる男子二人にはあまり聞かれたくない気もするが、反対にカミタカに聞かせて反応を見たい気もする。


 ——いや、ダメ。なんか焦ってるみたいじゃない?


 シキが質問を変えようとした時、今度はカガリが返事をした。


「もちろんだとも! 降るような縁談があったぞ!」


「……えっ?」


 カガリの台詞に、シキの意識は引き戻される。


「ほんとに?」


「……降るような、は言い過ぎたか」


「んー?」


 急に語尾が怪しくなるカガリ。シキは怪訝な表情で彼女の顔を覗き込む。女神はマフラーを巻き直して誤魔化した。


「……縁談の話は、一つだったかな」


「カガリ?」


「いや、わたしに言い寄る男はいたんだぞ。妾の方が断っただけでな!」


「わかったわかった」


「むしろ妾の方が追いかけたこともあってな」


「えー?」


「……逃げられたが」


「ちょっと」


わたしもああいう、ままごとめいたことはしてみたかった」


「……」


 再び目線で花嫁道中を見やりながら、カガリはマフラーに顔をうずめた。しかしその視線は柔らかく、眩しそうに先頭の二人を見つめている。


 冗談めかしていながらも、カガリの話には叶わなかった恋の名残が感じられて、シキは鼻の奥がツンとした。


 ——こんなに強くて美しくて優しい女神様でも、叶わない恋があったの?





「どうした、シキ?」


「なんでもない」


 話が途切れたシキの顔を覗き込むようにして、カガリが尋ねた。シキは雪の中に通り過ぎて行く行列を見送りながら答えた。


「綺麗な行列に見惚みとれてただけよ」


「そうか。——なあ、シキ。帰ったら温かい紅茶が飲みたい」


「ええ、もちろんいいわよ! 新年にぴったりの、とっておきのヤツを淹れてあげる」


 少女は微笑み、女神も目を細くする。


 少女は胸の内に秘めた想いを抱いて、女神は過ぎ去った恋の残滓ざんしを抱えて、雪の道を歩いて行く。


 すれ違った賑々しい行列は人々から祝福の声に包まれて二人の視界から消えて行く。


 その足跡を消すように、また新しい雪が降って来た。





 雪の日の花嫁〜中央島の少女〜 了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の日の花嫁〜中央島の少女〜 青樹春夜(あおきはるや:旧halhal- @halhal-02

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画