故人からの年賀状
七乃はふと
呪いという名のおもい
やあ、久しぶり。君は覚えてないかも知れないな。
なんせ最後に話したのは二十年以上も前だからね。
だから、覚えていないことを責めるつもりはないから安心してくれ。ただ、このメッセージだけは最後まで読んでほしい。そしたら削除して構わない。
僕は遥か上から見下ろしているかも知れないけれど、君の行為に決して口出ししない事を誓うよ。
君との出会いは、高校一年の頃だったね。僕の席が君の後ろで、お互い独りぼっちだった僕達は自然と話すようになっていったね。
まあ、お互いの趣味がマイナー過ぎて、周りからは浮いていたけれど、そんな雑音がどうでも良くなるくらい僕は君と過ごす時間を楽しんでいたんだよ。
どうだい、思い出して来たかな。
高校三年間、僕達は同じクラス。くじ引きで席替えしても必ず前後になってしまう。ある時、先生がもう一度くじ引きをやり直した時があったね。その時も僕達の席順は変わらなかった。
それを見た生徒達からカップルと言われても僕は何とも思わなかった。
君はどうだったんだろう。
昼休みはお互いの読んだ小説を褒めあったね。君はホラー、僕はファンタジーを。
お互い熱く語り合って気づいたら、昼休みがとっくに終わっていた事も数えきれないほどあったね。
そうだ。その時に交換したホラー小説、まだうちの本棚に閉まっているよ。
いつか家に来る時があったら、僕の蔵書と共に君の家に連れて行ってくれるとありがたい。
僕の周りで、小説を愛する者はいないから。
そしてここからは君は知らない話だ。
喧嘩した理由を覚えているかな、僕が勧めたファンタジーアニメの感想を話している時だったね。
僕がオススメした作品を君は手酷くこき下ろした。
僕は君と話さなくなった。でも、それは君に怒りを抱いたからではない。
酷い状態になってしまったアニメを、原作からかけ離れた蛇足なシナリオを、ただ好きだからと受け入れてしまった僕自身に憤りを感じていたんだ。
だから君と話さなくなったのは、嫌いになったからじゃない。
不甲斐ない僕は君と話す資格が無くなっただけ。これだけは覚えていてほしい。
高校卒業後、僕は就職して、恋人も出来た。そして結婚し子供も生まれた。
でも何も満たされなかった。
妻の笑顔も子供の成長も、僕には何も響かなかった。
そんな時ふと本屋に寄ったんだ。以前読んでいたホラーやファンタジーのタイトルを眺めていて、君が語っていた夢を思い出したんだ。
小説家になると。
高校の頃、恥ずかしそうに教えてくれた作家名を閉店時間まで探したけれども、名前はなかった。
再び君と話してみたいと思ったものの、君の情報は高校生で止まっている。
探す当てもなく、仕事も育児も放棄して、給料の全てを小説に注ぎ込んだ。
気づけば妻と子供はいなくなり、僕は電気の消えたマンションに取り残されていた。
家族との別れには何の感情も抱かず、僕はバイトを転々としながら、小説を読み続けた。
だけど、満たされない。もしかして共通の趣味を語る友人を作ればと、声をかけてみたが、僕の周りは携帯に夢中で、話が全く合わなくなってしまった。
その間も心の隙間が大きくなり、とめどなく溢れ落ちる水を補充するために小説を読み漁るも、今度は自分が楽しいと思えるファンタジーに出会えなくなってしまった。
髪の毛が抜けるほど掻きむしって考えた末、僕は目の前にタブレットを置いた。
君と同じように、書き始めてみたんだ。自分だけの物語を。神々の戦争、呪いあう魔法使い、そして人と共に生きる竜との物語を書き続けた。
そして自分史上最高傑作を閃いて描いていた時だった。
四十手前でバイトもサボり、食事も摂らず、風呂も入らず、排泄も我慢して、キーボードを叩いて画面に文字を刻み続けていると……。
真っ赤に染まったんだ。
目の前の画面がバケツの水をかけられたように真っ赤っか。出どころは、僕からだった。
息をするたび、喉から口にかけて登ってくる血を吐き出しながら、キーボードの上に倒れた。赤く汚れた物語をそのままにはできないと、手近なもので拭き取ろうとしたところで、意識は途絶えた。
目覚めると病院にいたよ。全く覚えていないが、自分で救急車を呼んだらしい。
医者に告げられたのは末期の癌だった。よくドラマで聞く余命半年のおまけ付きで。
このメッセージはベッドの上で描いている。ここまで原稿用紙四枚分。それだけ書くのに丸一日掛かった。息も絶え絶え。指の痙攣は止まらない。
それでも君に伝えたい。小説を書いている君に、呪いを。
書き続けろ。歴史に刻みつけろ。死ぬ寸前まで手を休めるな。
これが僕の最期の物語だ。僕の無念を君に、今も描いているであろう君に託すよ。
迷惑かい? でも描けない立場から言わせれば、それは贅沢な迷惑だよ。
なんてね。棘のある言葉を使ってしまってすまない。八つ当たりになってしまったね。
本当の僕の望みはコレを君の物語に組み込んでほしい。僕が生きた証を紙でも電子でも何でもいい。誰かの目に見えるところに刻みつけてくれ。
ここまで呼んでくれてありがとう。僕からは以上。この年賀状が君のところに届くことを切に祈るよ。
もし届いたら、僕の墓に来てくれ。墓石の中でもずっと独りぼっちなんて耐えられないからね。
故人からの年賀状 七乃はふと @hahuto
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