2126年の世界。
ケンジは効率的な方法で教育を受けています。
亡くなった母の声のAIが脳内で語りかけて、様々な教育が施行されるのです。
本日教える科目は、歴史。
題材は滅びた国、日本。
主題は〝独裁者〟
論理的に整理された〝独裁者生成プロセス〟をケンジは学びます。
独裁者が発生する理由はシステムのバグだと説明されます。
人には元来、独裁に陥る要素がある。
悪い指導者が独裁者となるのではなく、人間が生存の権利をすべて他者に委任するから発生するのが独裁者だと説きます。
それは容易く頻繁に起きる現象だとも説かれます。
最も快適な状態は考えなくて済む状態ですから。
本作の、この箇所まで読まれた読者は気づくことでしょう
未来社会での歴史の講義が、ケンジとこの物語を読む読者までをも照らし始めたことに。
本作の読者は、物語の示す事柄に接して、現代の日本や他の国々の状況をも想起されるのではないでしょうか?
正しいと思われる物語の成り行きと考察は、現代の世界の強権的指導者たちの台頭と覇権主義国家の活動を思い起こさせるのではないでしょうか?
読む者にいまの暮らしの周囲を見回させる。
巧みな構成と語りかけだと思います。
そして物語は、読む者を不安にさせたままで、背筋の寒くなる結末を迎えます。
それは寓意であり、風刺でもある終幕です。
本作を読み終えたあなたはきっと思い出すことでしょう。
この物語は本当にただの絵空事なのかと。