ラーメンの街 ー猫探偵事務所 猫野ぶちおシリーズー

@ohiroenpachi8096

ラーメンの街 -猫探偵事務j所 猫野ぶちお-

ラーメンの街 猫探偵事務所 猫野ぶちお



プロローグ


「今年の冬は、一段と冷えるな。こういうときにはコタツに潜り込んで丸くなるのが一番だ」


「それはそうだけど、せっかくお仕事がない日なんだから、どこかに行きましょうよ」


「どこ行く?」


「こういう寒いときには、温かいものを食べに行きましょ!」


「そうだな。そしたら、あそこの煮干しラーメンにしょうか!!」


「賛成!」




「というわけで、オレたちは煮干しラーメンに行くからよろしく頼む」


「ずるーい。自分たちだけ!」


「みいちゃん達にはお仕事あるでしょ。励みなさい」


「だってメーテルだってお仕事あるでしょうに」


「わたし、今日はお休みいただいています。行ってきまーす♪」


「おい、メタボ。コーラはダイエットコーラにしとけよ。あとは頼むぞ。なんかあったら連絡しろ」

メタボは白熊特製チーズバーガーセットのポテトをオリジナルコーラでむさぼっている。




第1話


金沢の西エリアは特に国道沿いにはラーメン屋が多い。「ラーメン街」と呼ばれている。このあたりに来れば、ラーメンに困ることはない。今日のぶちお達のお目当ては「元祖煮干し家」だ。ふたりともここのラーメンが大好きだ。食べない日が続くと禁断症状が出てしまう。

特にその匂いがたまらなく、駐車場に車を止めてドアを開けたその時のあの匂いにやられる。というよりも、店の近くで信号待ちをしているときに、もう匂っているくらいだ。


「やっぱ、この煮干しの匂いがたまらんね。この匂いだけでもお金を支払ってもいい!」


「あ・・・満たされるわね。はやく席につきたい」


ぶちおたちは、まだ列に並んでいる最中だ。



カウンター席でもよかったが、運よくテーブル席に座れた。


「特製煮干しラーメン2つね」


すばやいオーダーだった。


「お待ちどうさま。はい、特製煮干しラーメン2つ」

着丼も早かった。


丼からの煮干しの匂いが一段と鼻を顔も身体も、そして脳さえも刺激する。店内に充満する匂いと合わさって、全身が煮干しの匂いに包まれて至極幸福な時間を味わっている、ふたりである。


「うわー♪いつもどおりね」


「よし、食べようか」


割りばしを割って準備OKで、まずレンゲでスープをすくおうとしたとき、後ろに座ってラーメンを食べていた若い3人組のうちの1人が苦しんでいる。

「なんだ、これ・・・・・吐きそう」



「メーテル、食べるな!箸を置け!」


「はい?」


「ラーメンに何かが入っているかもしれない」



店に救急車がやってきて、その客を乗せていった。


しかし不思議なのは、おそらく薬物であろうものの混入経路だ。いったいどこで入れられたか。3人組のうちあの人物だけが体調を崩したということは、スープや麺、具のどれかに入れられた可能性は低い。ラーメンを作っている最中に入れるのは、つくっている店員も難しいはずだ。他の店員の目がある。

ということは、各テーブルにある、追い煮干しの粉や紅ショウガ、高菜などのトッピングということか。


はくさん市警の鑑識が到着したところ、見かけない顔の若い女性がいた。


「先日からはくさん市警察に配属されました、雪氷冴子と申します。猫探偵事務所の猫野ぶちおさんですね。ご活躍はお聞きしています。ご迷惑をお掛けすることがないようにいたしますので、よろしくお願いいたします」


「はっはい・・・」

となりでメーテルが笑っている。笑っているときか。




第2話


雪氷冴子が鑑識結果の報告にやってきた。


「猫野さん、卓上の追い煮干しに毒物が入れられていました。ただ混入された量は極少量で症状もほとんど出ないとの結果です」


なんだこのおねぇちゃんは、警察官でない探偵のオレに鑑識結果をべらべらと。


「おい、ぶちお。依頼だ。この事件で県警、市警を合同で捜査してほしいということだ。おまえらは独自に動いてもかまわん。事件が事件である以上市民ひいては県民を不安におとしめるわけにはいかん。そこでぶちおの力も是非とも借りたいそうだ。今回はワシはこちらで捜査を手伝わせてもらう。分かったな」


「了解しました!」



「あの、こちらの女性鑑識官は?」


「おう、紹介が遅れたな。新人鑑識官の雪氷冴子だ。ま、鍛えてやってくれ。鑑識結果はすべておまえに報告するように言ってある」



弱いと言え毒物なので、メーテルを帰した。



被害者である「若井隼人」の容態は、体のほうには影響はないが、精神的なダメージがかなりあるとのことだった。


「なんでオレなんですか。わけわかんないですよ!」



「警部、無差別ですね、これは」


「あぁ、そうだな」


圓八警部は考えこんでいる。


「これで終わりならいいがな。元祖煮干し家の聞き込みに行くか」



まず大将に話を聞いた。かなり動揺しているようだ。

「いや、店員はそんなこしませんよ。だいたいその仕事を毎朝するのは、決まっている従業員1人だけで、他の者がしていると目立ちます」


「なにか、客とトラブルがあったとか?」


「まったく心あたりがありません。困りますよ。なんでうちが狙われるですか?それよりも今後がどうなるのか心配です。イメージダウン必死です。客足も遠のくでしょうし」


店のチーフが話に加わってきた。

「今日の事件前の店内の様子はどうでした。怪しい人物がいたとか」


「変わったことはなかったような。いつもどおりです」


「今日、あのテーブルの準備をした店員は誰ですか」


二十歳前くらいの女性アルバイトがやって来た。

「わたしですけどぉ、変わった点はぁ・・・なかったと思います。追い煮干しもいつものものでした」


「追い煮干しは毎朝、専用の器に入れるのですね?」


「はい、毎朝入れてぇます」


「店員さんから見て、怪しい人物に心当たりはありませんか」


「いえ、ただ今日は開店前の列に常連さんが2人お見えになってぇいて、話をされているのを見ましたぁ」


「そうですか。みなさん、ご協力ありがとうございます。またお話を伺うことがあると思います。よろしくお願いします」



「ぶちお、いったいどのタイミングで、毒物が混入されたと思う?」


「店員には無理だということは、客ですね。毒を摂取したのは、食べている最中です。食べ始めではなくて、追い煮干しやにんにくなどをラーメンに入れることが多いタイミング、それは食べ始めた中盤ですが、味変っていう呼び方です、その直後だと思います」


「その味変のときに毒は入れられるのか?」


「味変する前にはとっくに混入されていたと思います。その客があの席に座ったのは、開店から3組目だそうです。前2組の中の誰かがにんにくを入れる真似をして毒入りの追い煮干しを、混入させたと考えるのが妥当かと思います。たまたま3組目の客が食べてしまったというだけで、2組までの誰かが、または3組目の他の客、それとも4組目以降の客がにんにくが入ったラーメンを食べたかもしれません。ロシアンルーレットみたいな」



「今日はお疲れさまでした。圓八警部」


「最近、偉くなってよ(笑)聞き込みすることが、ほとんどなくなってしまってな。今日は勉強になったぜ。ぶちお、すっかり一人前になっちまったな(笑)あのまま、おまえが警察に残っていたらどうなっていただろうな。ま、そんなタラレバの話はよしておこう。またな」




第3話


「このニュース、瞬く間に県内外に広がりましたね。混入された毒物は、毒性が極めて低い「ホトトギス2号」であって、誰かのいたずら、愉快犯との見方が大方の考えですね。きっとマスコミもその当りを意識して報道しているんでしょうか」


メタボはマックZセットのポテトをほいほいと口に入れながら、解説した。


「愉快犯か・・・それで済むなら時間とともに忘れ去ってくれるでしょうね」




第4話


この事件発生から2か月後の3月になって第2の犯行が起きた。


「まったくもう、せっかく忘れたと思っていたところを思い出させて・・・」

鑑識の雪氷冴子が、さぞ迷惑そうに言い垂らしている。


「おい、そんなこと言うもんじゃない。皆、そう思っているんだ。冗談くらいにしとけ」


「はい!気を付けます!猫野先輩」


「先輩って調子狂うな。オレは警察の人間じゃない。部外者だ」


「はい!ぶちおさん」


・・・・・・・・・(笑)



今回の標的は「らーめん丘長家」だった。


メタボの解説では、

「丘長家ですか。また人気店ですか。いわゆる家系ですね。醤油豚骨スープです。うまいですよ。一度食べたら癖になるひとが多いです。ラーメン会でいまでは一大ジャンルです」



捜査の一環だ食べないといけないな♪


「そうか、じゃあ、捜査の前に実際に家系というやつを食べるとするか」


「え!?万が一ですけど、これにもホトトギス2号が入っているかもしれませんよ」



たしかにうまかった。豚骨醤油スープってのは強烈なインパクトがあり、舌に訴えかける味だ。そして麺もそのスープに負けずに存在感がある。トッピングされたほうれん草がまたよい感じだ。たしかに豚骨醤油ラーメンというのは、メタボの言うとおりに中毒性がある。


雪氷によると、毒物は「ホトトギス2号」で元祖煮干し屋の時と同じだった。


その他のことも、ほぼ同じ証言が得られた。


にんにくの管理は煮干し家の追い煮干しとおなじで当日の朝に器に入れること。にんにくを管理する店員が決まっているので、他の店員がホトトギス2号をにんにくに混入させることはできない。にんにくを取り換えするときに異常な匂いなどは感じなかったことで、卓上のにんにくにホトトギス2号は、取り換え時には混入されていなかったことを確認できた。


被害者は、B級グルメブロガー「片目速男」。2人で食べている途中。味変しようとにんにくを投入したあとに苦味の後、気持ちが悪くなり吐き気がした。症状は若井隼人とおなじで極軽い中毒で済んだ。


以上である。




第5話


次の第3の犯行は、立て続けに起こった。


店名は「麵屋カツ」。人気店で塩ラーメンである。供述は第1、第2犯行とほぼ同じだった。入れられた毒物は第1、第2の犯行と同じホトトギス2号で犯人がホトトギス2号をラーメンに入れるタイミングは、前2件と同じで、にんにくを入れるふりをしてホトトギス2号を入れたと考えられる。今度の被害者はラーメン好きのサラリーマンで、恨みをかうようなことは身に覚えは全くないと言っている。



「警部、さすがに今回は、1度目のときよりも世間は騒ぎはじめましたね。ラーメン屋無差別毒物混入事件というのは、いささか長いタイトルかと思いますけど」


「なんせ衝撃的だからな。身近な食べ物が標的だ。ほんのわずかといっても毒物がラーメンに入れられている。しかも無差別に狙われており、つぎはどこが狙われるのか分からない」


「どのラーメン屋も卓上のにんにくや追い煮干し等は置かなくなりました。にんにく達も偉い迷惑です」


「犯行声明はまだか?」


「まだです、いったい何が目的なんでしょう」


「被害にあった店ならずともラーメン店会全体に被害がおよぶでしょう。ラーメン会全体で客足が遠のいています」


「その辺りが目的か?」


「ラーメン会全体に恨みですか」





そんな中、ついに犯行声明が捜査本部宛てにメールで送られてきた。


「世間の皆様、ラーメン好きの皆様、そして県内のラーメン店の皆様。しいては食品業界の皆様おつかれさまでございます。私のことは「ミスターパニック、いや「ミスパ」」と呼んでください。これからますます県内のラーメン店はずたずたになってゆきます。いったいどれほどの店が生き残れるでしょうか?見ものですです。私を止められるものならば止めてください。きょうはこれまでです。またお会いしましょう」


このメールに返信はできなかった。



「結局、一番重要な要求には触れませんでしたね。やったのはラーメン会への挑発でした」


「そうだな・・・この犯行声明からすると、犯行目的は県内ラーメン会への恨みを晴らすことになるか?」


「でも今後はにんにく類は店では提供しないし、店員や他の客の目もあるので、犯行は難しくなってます」


「有名ラーメンブロガーという者に話を聞いてみるか?」


「おまかせあれ♪」

メタボは楽しそうだったので、興味本位でいられては困るので今回はオレひとりで話を聞きに行った。



県内のラーメンブロガーでも1番人気である「おひろ」というブロガーと、メタボがコンタクトを取ってくれた。年間200杯は食べるそうだ。それでも年間500杯や700、800食べる猛者もいるらしい。200杯なぞはまだまだらしい・・・・・


「今回の一連の事件は、県内ラーメン会への挑戦ですね。目的はラーメン店を潰すことや、大打撃を与えることかと思います。この乱立状態のなかで本物はどれか!を問うているんじゃないですかね」


「県内にはラーメン店が多すぎると?」


「全国的に見ても多すぎます。とくに金沢市西部の国道沿いなんかは飽和状態です。開店しては潰れてゆきます、それを繰り返しています。あの辺りは特に厳しいですよ」


「ラーメンの魅力ってどこにあるんですか」


「それぞれに個性があり、それぞれに中毒性があることですかね。飽きるまで食べても、しばらくしたらまた食べたくなる、そういう虜にさせるモノが確かにあります。だからラーメンは人気があると思いますよ」


「最後にですね。言わせていただきたいのはですね・・・そういう中毒性のあるラーメンに毒を盛るなんて、えぐい犯行だと思いますね。これは真面目に言ってるんですよ!許せません!!」


ラーメンはひとを熱く語らせる対象になることもわかった。




愉快犯かそれとも確信犯か?それともどちらも混ざっているのか。


単独犯か、それとも複数犯か?





第6話


4月になり、事件は長期に及ぶようになった。あれほどテレビを賑わせたこのニュースもすっかり下火になり、人々の関心は薄れていった。


しかし、県内のラーメン店は軒並み大打撃を受け閉店が相次いでいた。あの国道沿いでさえも、一部の人気店のみが生き残っている状態で、ラーメン会の活気の無さを表わしている。




第7話


「ぶちおさん!大ニュースです。あのラーメン事件が動きました」


「で?」


「標的を大手外食チェーンに変えました」



「石川県警、はくさん市警のみなさん。そして、特別ゲストの猫探偵殿。ラーメン屋いじめはもうやめた。これ以上いじめても面白くない、もう安心してラーメン屋にいけるぞ、よかったな。つぎはいわゆる外食店だ。無差別に毒を盛る。今回もどれだけの店が生き残れるかが楽しみだ。大手チェーンが多いからな、体力には自信があるだろうから、いじめ甲斐がある」


「おいおい。どういうことだ。ラーメンに飽き足らず外食チェーンか?大きくでたな」


「しかしラーメンに毒を盛ったこと。そして今度は外食チェーンに毒を盛ろうとしていることへの要求がまだです」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



奴は、宣言通りに外食チェーンに狙いを定めた。まずファミレスのソソソが狙われた。ハンバーグが自慢のリーゾナブルな店だ。家族連れが多くて店内が賑やかなので客やホールスッタフの注意もバラついている。ホトトギス2号を料理に混入させることは、ラーメン屋よりもやさしいだろう。


店長の宮木によると、

「まさかこの店舗で起きるとは驚いています。ラーメン店の騒ぎあってから、卓上のモノはすべて撤去しました。スタッフの研修もいたしました。それなのに。上からなんと言われるか考えると」


店長は、客のことよりも自分のことを心配していた。



「ぶちおさん、やはりホトトギス2号が検出されましたよ」


「サンキュー。雪氷」


「雪氷なんて冷たい呼び方しないでください。冴子でお願いします♪」


「あぁ、わかったよ」


「ホントにわかりましたか?じゃぁ、呼んでみてください♪」


「・・・わかったよ。・・・冴子・・ちゃん?」


「完璧です!」




第8話


今回の被害者は、家族連れで訪れていた「小曽木たろう(39)」2人の子供の父親である。症状はこれまでと同じで料理を食べていると苦みがして、そのあとに吐き気がしたとのことで、一応救急車で病院に運ばれた。


今度は、いつどのタイミングでどこで毒を盛ったのか?


家族がオーダーしたのは、ハンバーグAセット×2、Cセット×1、ラザニア×1、お子様セット×1、サラダバー×2、ドリンクバー×4、だった。


この家族の席は店の奥のほうで、人目にはつきにくかったと言える。「いつどの、タイミングで」の答えは、家族全員が席を外したとき、たとえばドリンクバーに行ったとき、たとえばトイレに家族全員で行ったときなど、小さな子供連れなので十分に考えられる。


毒が入っていたモノは、タバスコだった。誰かがホトトギス2号が入れられたタバスコを持参し、料理にふりかけた。では、つぎは「誰が」だ。店内にはタバスコを含み卓上のモノはない。スッタフも気を配っている。誰が毒の入ったタバスコを、家族とは無関係な人物が振りかけることができるか。単純に店内にいた他の家族づれがタバスコを予め持参して、その家族が全員が席を外した時にその家族のふりをしてタバスコを大人が座っていた席にかけて去った。ターゲットは奥の席にいた大人をターゲットにしていた。ファミレスならば広いので奥の席には注意が行き届かない。というのが妥当なのだろう。店内に設置されたカメラで何かわかるかだ。




第9話


はくさん署の巡査がホトトギス2号の入手先を捜査したが、ホトトギス2号は毒性が特に弱いため、身分証明書は必要がなくても誰もが入手できるということだった。



次は、喫茶店がんだが狙われた。チェーンのリーゾナブルな喫茶店でぶちおも一息つきたいときには利用している。肩肘はらずに居られるところがよい。


ホトトギス2号が盛られていたのは卓上の砂糖で、これは瓶の残りが少なくなると補充するということだった。喫茶店だ。誰もが砂糖の瓶を手に取っていても不思議はないし、入れるタイミングもそうだ。


冴子が報告した。

「過去の被害にあった店からは出た指紋は、がんだの砂糖入れからは出ませんでした」


「わかった!」



メタボが不思議そうな顔をしている。

「これは、他のものと比べて比較的容易にできますね。ただ・・」


冴子がやって来た。

「でも重大な相違点があります。それは盛られていた毒物のことです。今回使われたのはウグイス4号でした。これまでは、ホトトギス2号でした。ということは、模倣犯でしょうか?ちなみにウグイス4号も特に毒性が弱い薬なので容易に身分証明書がなくとも入手できます」


「模倣犯の可能性が高い・・か」


その日の捜査会議でも喫茶がんだの案件は模倣犯であると判断された。

だが、いちおう店内のカメラは分析するこにとなった。

このがんだの件は、カメラでの分析と目撃情報が決めてとなり容疑者が逮捕された。


その他、定食屋、牛丼店、カレー店などでも、模倣犯が弱い毒物を入れたとして容疑者が逮捕された。



ラーメン店×3、ファミレス×1が現在までの被害会社である。防犯カメラはラーメン店には、3軒ともに設置していなかった。ファミレスには防犯カメラはあったが、それらしき人物は映っていなかった。撮影された時間帯に問題の席が空席になったとき、近づく者はいなかった。レジのほうのカメラはやはり家族連れが多くて見分けがつかなかった。またレジ付近にもカメラがあったが、いかんせん家族連れが多いので見分けがつかず、これも冴子へまわしたが時間がかかるそうだ。




第10話


今度は、回転しま寿司がターゲットとなった。回転寿司業界2位の勢いのある社であるが、この事件は深刻なダメージを与えた。ホトトギス2号は、卓上にあったガリと粉のお茶に混入されてあったのだが、魚に塗ってあったとの噂が広まり、客は激減した。激安価格で回復をはかったが、もともと薄利多売ということも手伝って、再び上昇することはなく県内の店舗は撤退した。店内には防犯カメラがあるが、あらかじめ下見をしていたんだろう。死角になり問題のガリとお茶の粉があった席は全く映っていなかった。レジのカメラにはそれらしき人物がいたが、有効な情報にはならなかった。


冴子に頼んでおいたファミレスのレジのカメラの件だが、とくべつ変わった者はいなかったそうだ。



圓八がにがにがしく言う。

「しま寿司が持ちこたえられなかったか」


メタボもまた悔しそうに言う。

「いまは6月、宣言から5か月。これから影響がしだいに大きくなってゆくでしょうね・・」


「それにしても、こんなことしておいて要求を出さないのはなぜでしょう?」


「わからん」


「わかりません」



ラーメン店に比べて、体力があるはずの県内外食チェーン店が次第に危なくなってきた。相手の見えない持久戦となっとなり、どの店も自分がつぎのターゲットにならないように祈りながら営業をしている。押川県は経済に活気がなくなり、不景気に陥った。




第11話


「こうまわりが不景気だと客足も鈍いよ。ぶちおくん、さぁ。早く解決してよ」


「マスター、これでも休み返上で頑張ってるんだけどね。どうも奴の尻尾が見えない・・・だいたいこんな大きなことをしといてさ、要求がない。冗談でした(愉快犯)ではすまんよ。これは」


「休み返上って言っても、ここにいるじゃない、暇探偵くん」


「出勤前の充電だよ。みいちゃん」


「あ、ステーキのギフトが今月末で県内全店舗閉店2ヵ月だって」


「その2ヵ月はお給料はでるのかしら?」


「出たり、出なかったり、会社による」




第12話


もう何か月たったんだ?奴が煮干しラーメンをターゲットにしてから。あれが1月で、いまが7月か。もう充分、目的を達したのでは?人々を恐怖におとしめるという目的ならば。だから要求がない。これならば納得できる・・・?いや、腑に落ちない。こういう犯行をする奴は何から何まで計画的に動くと決まっている。ゴールはまだ先だ。きっとタイミングを計っているに違いない。


もうそそろ動く。




第13話


その日がついにやってきた。インターネットの音声のみの配信だった。音声は加工してあった。


「県内の飲食店の皆さん、長い間諸君を不安におとしめていたことに対して謝罪する。そして要求がある。この要求が受け入れなければ、今後も君たちへの攻撃を続けることになる。捕まえられるならば、捕まえたまえ。要求は以下のとおり。現在10,000近くの飲食店が県内にある。それらの一店舗につき一口5,000円を募金せよ。募金箱はネットの中に用意してある。この金はある活動のために使われる。わたしのことは、今後「足長おじさん」とでも呼んでほしいくらいだ。なお、こちらが設定した額に届かないときには、君たちへの攻撃を続けることになる。善意ある皆さん、募金をお願いする。およそ半分の店舗が5,000円を寄付してくれれば、25,000,000万円だ。募金してくれた飲食店は、これからの攻撃の対象から外すことを約束する。残念ながら、募金していただけなかった飲食店は、永久にわたしの攻撃の対象となる。いつまでも怯えて営業すればよい。さ、心ある皆さん。5,000円で安心を買いましょう。わたしが保証します。模倣犯が現れたときは、わたしが怒りの鉄拳を食らわすことを約束する。以上だ」



「なんだ?それは」


「なにかの冗談か」


「5,000円で安心を買う?」


「誰が払うかよ。そんなの」


「詐欺だろ?」


「怒りの鉄拳って?」



「うちは絶対に払わないよ、ぶちおくん」


「ありがとう。白熊ちゃん。必ず足長おじさんを捕まえてみせるよ」


「でも、ある活動に使うってなにかしら?慈善活動とか」


「メーテル、慈善活動をするひとは、他人に迷惑をかけるような手段をとらないよ。どうしても緊急避難的にお金が必要ならばそういうこともあり得るかもしれないが、それも認められないね」


「じゃあ、わたしが誘拐されたとして、身代金を払うために緊急避難としてどこかからお金を盗むことはしないと言い切れる?本質的にはそういうことだと思う」


「認めないが、どんなことをしてでもキミを助ける・・・・・」


「緊急避難という言葉は、それだけ重い言葉です」

インテリのメタボがしんみりと言う。

そして、静かに言った。


「もしかして、彼も追い込んでいるのではなくて、追い込まれているのかもしれない・・・・・」



翌日、あの配信されたチャンネルから、昨日の募金額が発表された。


そこには、「昨日までの募金額145,000円です」と書かれてあった。


少ないなというのが、オレの感想だ。まだどのような事態が待っているのかわからないのだ。


彼の計算通りなのか?



その日、毒物混入事件が起きた。今回のターゲットは、刺身屋という居酒屋だった。毒物はホトトギス2号。それが入れられていたのは枝豆だった。この店の評判は落ちてゆき、客は遠のくだろう。店に信用がなくなるのだ。そして、またやられるのではないかと不安にさせられるだろう。


「昨日までの募金額750,000円」と昨日の事件の効果があったのか、跳ね上がっている。地元新聞、ニュースなどがこぞって伝えていることも要因だろうな。それにしても巧いことやるな。ここまで見越していたのか。これからも効果的にホトトギス2号を混入してゆくつもりか。





「昨日までの「募金額は1,250,000円」になり、居酒屋への混入が影響したと思われる」とニュースが言っている。


その後、募金額は順調に増えてきている。そしてその間もラーメン屋には、客離れが進んでいる。




第14話


「メタボ、いつまでも募金額を眺めているだけじゃあ、なにも解決せんぞ。オレ達の仕事をしよう」


「うい」


「奴が誰なのかを突きとめるぞ。それから複数犯か単独犯かもだ、とくにこっちだ。これがわからないと捜査の仕方を間違えてしまう」


「と、言っても手がかりが・・・」


「奴の特徴を言ってみろ」



「追い詰めている(我々を)。または何かに追い詰められている」


「とにかくお金がほしい」


「ラーメンに詳しい」


「飲食店にも詳しい」


「毒物、肥料に知識がある」





第15話


「おひろさん、あのときは貴重なお話を聞かせてくださいまして」


「いえいえ、あれは総論で各論(各ラーメン店の論評)は、話できなかったので物足りなかったんですよ(笑)」


「少しだけお話させてください。一連の事件で、対象になったお店になにか共通点はないでしょうか?」


「どれも人気のジャンルで、狙われたのは煮干し、家系、塩でしょう?最近の人気ジャンルでは、これらと豚骨、つけ麺ですが、それらが対象になっていません。それが少し不思議に思います」


「あなたの一番好きなのはどのラーメン屋ですか?」


「んーー難しいですね。しいて上げるとすれば剣の「ひるがお」ですかね。昔ながらのあっさりした醤油ラーメンで何年通っても、まだ飽きません。きっと死ぬまで食べ続けるでしょう。わたしにとってそういう貴重な場所です」


さすがに人気のラーメンブロガーだ、ずっと通う店があるのか。



「お店とトラブルになったと聞く、ブロガーは?」


「んーやっぱり、客側、店側どちらも真剣ですから多かれ少なかれ誰でもあると思います。このわたしでさえ、ある店で半年間くらい出禁になったことがありますよ(笑)」


「では、客としてみた場合、店員などの接客態度がよくないと思っている店はどこですか。秘密にしておきますので正直にお答えください」


「んーーー強いてあげれば、麵屋カツですかね。あそこは、、、開店して間もないので仕方な、、、、、いのですが、店主、店員とも、、、接客態度がなってませんね。あれではせっかくのラーメンが台無しになり、、ます。すみません、最近めまいがよくするので・・・」



「最後に、尊敬できるラーメンブロガーはいますか?」


「そうですね。豚骨嫌いくんですね。彼にはポリシーがあります」




第16話


「らー好きさん。きょうは貴重なお時間をありがとうございます。少しお話を伺いたいのですが」


「はい。どうぞ」


「あなたは年間300杯くらいラーメンを食べているそうですが、どこが一番ですか?」


「そうですね。年間で一番食べている回数が多いのは、太郎次郎です。ここはボリュームがあってチャーシューは塊です。麺は太麺でわしわし言わせて食べてますよ。もやしとキャベツで見た目はてんこ盛りです。食べきった後は達成感を味わえますね」


「そういうラーメンは県内には多いのです?」


「そうですね、一時の勢いはなくなりましたが、根強い人気は一定数ありますね」


「店側となにかトラブルになったブロガーの話は聞いたことがありますか?秘密にしておくので正直にお答えください」


「こういうことをしていると、たくさん聞きます。自分も気をつけないといけませんが、いろいろ聞こえてくるのは、たろうくんでしょう。彼はまだ若いから世間知らずで許可もなく、強引に取材をするので店側とトラブルが多いと聞きます。いまもいくつかの店に出禁になっているそうです」


「これも秘密にしておきますが、接客など態度が悪いと思っている店はありますか?」


「そうですね。丘長家ですかね。まあ、家系なんで仕方ないところもありますが・・・もともと家系店というのはああいう店が多いんですが。すこし上からですね(笑)。ラーメン店に限らずそういうところはありますね。わたしはそのような飲食店はNGですね。記事にしません。皆さん、そうすべきでしょう」


「飲食店・・あなたにはラーメン店以外のジャンルについてのブログをもっているのですか?」


「あぁ、そうです。2つあるとたまに間違えてUPしちゃうことがあります(笑)」


「どんなジャンルの料理ですか?」


「そっちのほうは、決めずに幅広く広く浅くやってます。ブログ名は、「美味いもの好き好き」なんで見てみてください」


「そのことは、ブロガー仲間は知っています?」


「べつに隠すことはありませんが、一部のブロガーさんは知っています」


「最後にあなたに尊敬するラーメンブロガーはいますか?」


「おひろさんですね。うんちくはすごいし。マナーも文句なしで店舗の評判もいい。もし県にラーメン協会というのがあって、会長職があるとすれば彼に間違いがない」




第17話


ー豚骨嫌いー


「取材してくれるのは構わんけど、オレからだとバレないように頼むね」


「もちろんです」


「オレは名前のとおり、とんこつ嫌いのブロガーだよ。あっさり専門だ。年間の食べる数は150軒ほどで、あちこちところ構わずに行くことはしない。気に入った店に何度も通う」


「そうおっしゃるあなたはどこの店が一番ですか?」


「塩釜だな」


「店側とトラブルになったとか噂のあるブロガーを知っていますか?」


「美人ちゃん?彼女もラーメンに対して熱いから、つい行き過ぎることがあるって本人が言ってましたよ。でも基本、マナーがいいと聞きます」


「最後に、あなたの尊敬するラーメンブロガーはいますか?」


「いないと言いたいけども、おひろさんでしょう。彼に総合力でかなうブロガーはいません」




第18話


ラーメン美人の職場へ来たが、待たされてなかなか現れないが、エアコンが行き届いていて快適だ。


「社長、こちらです」


「おまたせしました。らーめん美人です」


40歳前後の女性が現れたので呆気に取られてしまった。


「社長さんでしたか・・・」


「ぶしつけですが、どのような関係のお仕事を?」


「食品の流通関係です。生産者と消費者をつなぐ仕事です。たとえば原材料に調達や加工、販売、情報提供、品質・鮮度管理などをしてます。まあ、なんでも屋?」


「まずあなたの好きなラーメン屋はどこですか?」


「そうね、たくさんあるけど、福福堂かしら。とんこつのお店ですべてが丁寧で気品があります。あまりにも好きすぎて、取材が行き過ぎてしまってしばらく出禁になりました(笑)」


「あなたから聞いたと言いませんが。最近店側とトラブルになったとか、マナーが悪くて有名なブロガーはいますか?」


「あまりそういうことは、すぐに忘れるようにしていますけど」


「最後に、あなたが尊敬するラーメンブロガーがいたら教えてください」


「やはり、おひろさんです。彼以外に思いつきません」




第19話


「味玉さん、年間400杯食べるそうですけど、飽きませんか?」


「飽きません。なにがあっても1日1杯食べることにしてます。習慣でなく「業」です」


「あなたの好きなラーメン屋は?」


「虚空。つけ麺専門のラーメン店」


「つけ麺の魅力はどういったところですか?」


「あの独特な腰のある麺を極上のスープにつけて食べる。麺の味がよくわかるね」


「ほかに趣味はありますか?」


「熱帯植物を少し。あれは手がかからないし、見栄えもするし楽しい」


「あなたから聞いたとはいいません。最近店とトラブルになったとか、マナーが悪くて有名なブロガーはいないですか?」


「僕の知っている限りいないな。でもそういう人は最近多いみたいね」


「最後に、あなたが尊敬するラーメンブロガーはいますか?」


「それは、おひろさん。1におひろさん、2におひろさん、3におひろさんですよ(笑)とくにあの経験値は素晴らしい」




第20話


年間700杯も食べるという麵吉くんのところへ汗を流しながらやって来た。


「どうも、麺吉です。仕事は見ての通り製麺所をやっています。いやぁ、ここ何年間はラーメンの麺の仕事が多くてね、おかげさまで大忙しですわ」


「年間700杯も食べるとお聞きしましたが、そういう時間はあるのですか」


「それは・・・時間はつくるものですよ。待っててもやってこない。それがわたしのモットーです(笑)ま、実際は貧乏暇なしですけどね(笑)」


「あなたの好きなラーメン屋は?」


「ありきたりかもしれませんが、丘長家でしょう。あの家系独特のパンチのあるスープ。腰のある中太麺。強烈な匂い。緊張感のある店の雰囲気」僕の理想を体現しています。


「最近、トラブルがあったとか、マナーが悪いといったブロガーはいますか?あなたから聞いたとは言いません」


しばらく考えて。

「そうですね、そういうことはあまり聞きません。みなさん、自分の影響力をわかっていると思いますよ。態度、マナーには気を使っていらっしゃる」


「最後になりなす。尊敬するブロガーはいますか?」


即答した。

「おひろさんしかないでしょう。完璧な方です」




第21話


「こうして全員のコメントをみると、おひろさんは「聖人君子」のようですね。他のブロガーからの尊敬は厚いし、経験も豊富で、まさに県内におけるミスターラーメンと呼ぶべき存在ですよ」

「それからわかったことは、味玉さんが熱帯植物にくわしいこと。これは肥料や毒物に詳しいということになります。ラーメン以外の飲食店の知識があるのは、らー好きさんか。年間一番多く食べているのは麺吉くんです。食品業界全体に詳しいのは、社長のラーメン美人さん。そしてこだわりが強い豚骨嫌い。第1被害者、元祖煮干し屋の被害者若井隼人は、ラーメン好きでいろんなブログガーの記事にコメントを書き込んでいる。第2被害店、丘長家の被害者の片目速男はラーメンブログを持っている」




第22話


飲食店毒物混入事件が発生して半年が経ったが、その攻撃はやみそうもない。つぎからつぎへと新たなターゲットをみつけてはホトトギス2号を混入してゆく、だれにも見つかることはない。見つからないという自信はどこから来るのだろうか。いまだ単独犯なのか複数犯なのかわからない。


先週はスーパーで牛乳パックに混入された。会計済みの牛乳をトイレに持ち込みホトトギス2号を、おそらく注射器で混入してもう一度売り場へもどって棚に戻したと思われる。これは相当のダメージをスーパーのみならず、食品業界へ及んだ。ターゲットにされたみ店だけでなくあらゆるスーパーで客が減ってしまった。牛乳だけではなく他の製品にまで混入されていたとしたらと思うと、怖くておちおち買い物へも行けなくなるのだ。模倣犯とみられる犯行もあり、容疑者が逮捕されたこともあるが、食品業界への不安は払しょくされていない。この事態を受けて、県警は沽券に関わる史上最悪の事件とした。

もう何もかも乳製品は不安で買えなくなっていった。牛乳、乳飲料、ヨーグルトなどこれらの食品のみならず、影響が及ぶはずのない食品、菓子までが店頭から消えた。防犯カメラは視野が広くて、特定の人物をクローズアップするものではなかったので、役にはたたなっかた。


事態は動いた。まず大手スーパーがミスパへ1店舗あたり1,000,000円を募金した。県内5店舗であるから、合計5,000,000円の募金である。


募金の総合計は15,250,500となった。これが契機となりこぞって県内の食品業界は募金することに走った。「安全を買う」という意識である。募金額はそれぞれであるが、これで安心を買えば損失はこれ以上は食いとめられると考えた。それこそが、ミスパの策略にはまっているということになる。


これで募金の総額は5,500,000円となった。


「もう雪だるま式ですね・・・止まることを知らない。募金した店には「当店は募金済です」と張り紙がされています」


「なんにでも終わりは来るさ」




第23話


奴の目的は何でしょう?単なるお金集めじゃあるまいしね。そういえば、ある活動に使うと言ってました。足長おじさんと呼べと。


ぶちおさん?


「ぶちおさん!」


「すまん。考え事をしていた」


「なにを?」


「この犯行は、主犯はおひろで間違いはないだろう。主犯格はおひろ。毒物に詳しい味玉、そして、ラーメン以外の飲食店に詳しいらー好き。あとは食料業界の仕事をしているラーメン美人ということになるな、わりと簡単な図だ。あとは豚骨嫌い、製麺所経営の麺ち吉、だが動機が分からない」


「おひろさん、圓八警部に言ってしょっぴいてもらいましよう!一網打尽ですよ」


「しかし、証拠がない。動機もわからない。それでは話にならん」


「じゃあ、その証拠と動機をみつけに行きましょう」


「そうだな」




第24話


「主犯格と思しきおひろさんですね。彼は年間200杯を食べるそうなので、だいたい3日に2日はラーメンを食べていますね。皆に尊敬されているブロガーです。入店するときは大声で迎えられて、出てゆくときは店員が出入口まで来て見送ってくれています。すごいですね。VIPじゃないですか。でもなんでそんな彼が自分の愛するラーメンを追い込んで汚すことをするんです?」


「わからんな。彼のことを深く調べよう」


「うい」


翌日からふたりでおひろをつけることにした。仕事は公立高校で教師をしている。毎日残業を2時間近くして帰宅。ラーメン屋に行くときはそのまま店に行っており、その後に新店舗の情報を得るためにその場所と工事の進ちょく具合を見てまわっている。たまに他のラーメンブローガーがやってきて挨拶を交して、しばらく立ち話をすることもある。情報交換でもしているのだろう。その中に見覚えのある若者がいた。一連の事件の最初に被害者である、若井隼人だ。彼とは特別親しいように感じる。談笑する時間も長かった。

ラーメン屋にはひとりで行くことが多いが、店に他のブロガーが既にいることが多くて楽しそうだ。それでも、他の客の迷惑にならないように話は早々に切り上げ店を出ていく。そのまま喫茶店に行くこともある。ある日、ラーメンの後にブロガーのラー好きと向かったのは、「喫茶がんだ」だった。「がんだ」は、ホトトギス2号を砂糖に混入されたところだ。

ラーメンに行かないときは、仕事をそこそこに切り上げてどこかへ行っているが、どこへ行っているのかは満員電車と乗り換えのために後を追えなかった。

家族構成は、妻との2人暮らしである。




第25話


らー好きは、ラーメンだけでなく他の飲食店にも詳しい。「美味しいもの好き好き」という名のブログもやっている。人気はラーメンにはかなわないが、そこそこあるそうだ。

彼は食品卸会社で営業をしており、チェーン店や個人営業の店も隈なくサンプルと見本をもち歩いている。

相当な汗をかいているだろう。オーバーな表現だが、塩分もそれなりに必要だな。年間700杯も食べるのも必要なのではと思ったりするが(笑)、700杯となると、1日2軒を食べなければいけない。となれば、1日の食事3食すべてがラーメンということもあるだろう。オレには想像できない世界だ。間違いなく早死にする。素朴な疑問だが、独身?なんと家族がいた・・・・・・。妻と子がひとり。いったいどんな生活をしているのだろうか、謎だ。彼はおひろと一緒にラーメン屋に入ることが、よくある。普段から仲がいいのだろうか。ラーメンのあとは、やはり「がんだ」へ行く。




第26話


いよいよ本格的な夏に突入した。飲食店はどこも冷たいものを提供して勢いを取り戻そうとしてはいるが、今年は期待するようにはいかなかった。ミスパによる食品業界への攻撃は続いており、安心を買うという目的の一口5,000円の募金額はますます膨れていく。募金の総額は25,000,000円を超えた。一口5,000円で25,000,000円では、単純に5,000口の振込があったということだ。県内の飲食店の数は約10,000件と言われているので、約半数になっている。これが彼にとって目標をすでに達成したのか、あるいはまだまだ物足りないのかは、誰にもわからない。




第27話


慌てた様子で、メタボがオレのところは早歩きして来た。


「ぶちおさん!」


「なんだ?」


「例のあの人たちが暑気払いするようです」


「どこで知った」


「おひろ氏のブログの中のコメントの中にそれに関するコメントがありましたよ。その他のブロガーもその記事にコメントを入れてました。盛り上がってます」


「で、どこでやるんだ?」


「それは、わかりません!」


「それが大事だろ」


「すみません」


「二次会はがんだだろうな。あそこ夜は軽いバーになるからな」


「そうですね。あ、あそこは狭いところだから、誰かを潜入させとけばいいので?話声は聞こえるでしょう」


「だれを」


「それは・・・、オレとぶちおさん」


「何いってんだ。オレとおまえは顔が割れている」


「じゃあ、圓八警部」


「圓八警部は目立ちすぎる」


「じゃあ・・・・・・思い浮かびません!」


「オレが良い案を教えよう」


「誰か他に適当な人がいますか?」


「ひとりは、おまえだ」


「は?だってさっきダメだって」


「そのもさもさの髪をすっきりしてこい。それで十分だ」


「もうひとりは・・・・・?」


「鑑識課の冴子ちゃんだ」


「えーーーー強烈!!」


「仕事だ。頑張れ!それに彼女に任せておけば、それでいい。彼女は仕切り屋だ」




第28話


7月21日(金)午後9時20分頃、らー好きらラーメンブロガー達が喫茶がんだのドアを開けると、店内の冷気がいくらか外へ出て行った。予約をしておいたようで、彼らはすんなりと席に座った。二次会ということで、みな軽めのアルコールや烏龍茶をオーダーしている。早速、ラーメン談義がはじまった。


「そういえば、あのカラオケの隣に塩の店ができるそうですね」


「なんか、京都から進出の店だそうです」


「塩か・・・はやりのジャンルですねぇ」


「ラーメン全オール日本が八日市あたりに復活したそうじゃないか」


「わたし、食べてきたわよ」


「どう?」


「昔ほどインパクトはなかったわ。やさしいスープになってた」


「あの騒ぎで、このあたりのラーメン屋もかなり減ったもんだな」


「本物だけが生き残るっていうか、それでも大手チェーンはまだ頑張っているし、何が何だか・・・」


「マスター、ビールもう1本お願い」


「こっちはアイスコーヒー」


「はいよ。みんななんか今日は威勢よくないじゃない」


「あのこのことで、みんなナーバスになってるんだよ」



「それで、あのこはどうなの」

話を切り出したのは、ラーメン美人だった。


「なかなか忙しくて病院には行けていない、病院からは相変わらずだと言われているそうだ」

と、らー好きが悔しそうに答えた。



「もう長くはないのね」


「まだまだこれからなのにな・・・」


「どうなの、あとどれくらい大丈夫そうなの」


「あと半年かくらい・・・と聞いている」


「もう時間がないじゃないか。ブロガー活動も少し控えるべきだ」


「そうだな。でも気を紛らわせてくれるだろ・・・」


「そんなこと言っているときでないだろう」


「ごはんは?」             


「まだ食べられるらしい」        


「本当に医者はそう言ったのか?」    


「あぁ」                


「最後までそばにいてほしいです・・・・・」     






「メタボくん、これで決まりなんじゃないの?」


「えぇ、そのようですね」


「でも、あの子って誰の事よ?」


「誰かのお子さんとか」


「誰の?」


「それは会話からすると、らー好きさんじゃないかな」


「もうちょっと、話を聞きましょう」




第29話


捜査本部では落ち着かないので、4人は猫探偵事務所階下の喫茶白熊で休憩しながら、メタボと冴子の話を聞いていた。


「らー好きのお子さんのように話が聞こえたと皆思うかと」

メタボが話を聞いた感想を言った。


「いいえ。お子さんと考えるのは、すこし安直かと。奥さんとも考えられますよ」

冴子がズバッと切った。


「ただ、らー好きは年間300杯ラーメンを食べるし、もう一つブログもやっている。そういう状況で仕事もして、そんな心配ごと抱えてそんなに、ラーメンを食べるのか」


「ふつうやらない」

圓八が結論づけた。


「じゃあ、あの会話は何だったんでしょうか?どう考えても、質問に対して答えていたのは、彼でした」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「肝心のおひろは何をしてた?」


「体調がすぐれず2次会には来ないで帰りました」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「よ「よし、オレが、おひろの後をつけて確かめる」


「今回は、1人で行く」


「らー好きの方は警部とメタボでお願いします」


「了解した」「うい」




第30話



◇らー好き本人の行動


7:15出社

8:30会社到着

9:00外回り

12:00昼食

14:30喫茶店で休憩

17:10帰社

19:00退社

20:00帰宅


翌日は仕事を早めに切り上げて、ブログの記事にするのか「ラーメンでくの坊」に寄った。



◇妻の行動


7:30夫の出社を家の外まで見送る 

9:00買い物(スーパーとドラッグストア)

12:00家で昼食

19:30子帰宅

20:40夫帰宅


病院に行くなどしていないし、極普通の主婦に見える。更に翌日は午前中はランニングをして、午後からは習字教室に行っているし、その後数日間は通院している気配すらない。健康に問題のある人物に到底思えない。



◇子の行動


7:15登校

9:15体育の授業(校庭でみなと同じメニューをこなす)

12:20給食(残さず食べたのかは不明)

15:30下校

16:00塾

19:30帰宅


子にも健康上の問題はないと見受けられる。


翌日も、その翌日もおなじだった。



僕の結論は、妻も子も健康に問題はないということだ。いったい「あの子」とは誰のことか?


もんもんとして数日を過ごしながら観察してみると、「ほら、ケン散歩に行こう。たまには外に出よう。家のなかに閉じ込まってばっかりじゃ、病気もよくならないって、散歩するのも気持ちいいって!だから行こうよ」


と、らー好きの息子が外に出て言っているが、そのケンと呼ばれる犬は頑として玄関から出ようもしないようだ。覇気がないように見受けられる。鳴きもしない。






「あれ!?」




「犬」




「あの子・・・・・」



「全部犬のこと?」



先日のがんだでの会話を思い出す。




「なあ、がんだの会話は、全部犬の事か?」


「すみません・・・・・」








第31話



その日の夕、喫茶白熊にぶちお、圓八警部、メタボ、。冴子が居た。


「犬か・・一杯食わされたのか、偶然なのか・・・」





「おい、冴子ちゃん。捜査に協力してくれるのはいいが、ここまで来ても大丈夫なのか?自分の仕事があるだろう?」


「え、だって。どこでも好きなところへ行って勉強して来いと言われているので、こうして好きなところへ来ました!」


「は?要するに、まだ鑑識の仕事の邪魔になるからどっか行って来いということか?」


「そうとも言われましたが・・・」





第32話


暑つさもピークが過ぎた頃、第1の被害店ザ煮干しラーメンはかつての勢いをとり戻せないでいた。一連の事件の最初の被害店という印象の強さがなかなか払しょくできずにおり、じわりじわりとダーメージが蓄積されつつある。募金するかしないかで店内で議論になったが、結論が出ないままだ。とても多額な金額は現状では出せない。もちろん最初に毒を盛られた店としてのミスパに負けたくはないという、プライドがある。それでも、募金することでミスパからなんらかの安全保障がされれば、今後も経営は続けられるだろうという考えを持っているスッタフも少なからずいる。



「いつぞやは、ご協力ありがとうございました。正式な挨拶がまだでしたね、猫探偵事務所目田保です。こちらは、市警の圓八警部です」



迷惑そうな顔を見せて、店長は、

「はぁ・・探偵だったのですか。失礼ですが、探偵さんにこういうことをする権限があるのですか?」


「今回、わたくしどもは県警とはくさん市警より特別に権限を頂いております。これが、捜査依頼協力書です」


これで、正直に答えてくれるだろう。



「毒を盛られた客の若井隼人ですが、3人組で来店したと聞いております。他の2人ですけども、この写真にその人物はいますか?」


「見覚えがありません」


チーフが「私もそうです」と視線をゆらゆらさせて答えた。


「じつはこの3人は同じ時期にここでアルバイトしていたと、あるラーメンブロガーから聞きましたが」


「いや、それは・・・」


「この3人組が犯人であると疑っているのでしょう?」


「あの3人がここでアルバイトをしていたのは、今ではわたしとチーフしか知らないはずです。そんな昔ことでラーメンに毒を入れるなんて想像できない」


「そんな昔のこと?なにがあってのです?」


「じつはこのスープのレシピは当時社員だったあの3人がつくったのです。それをわたしが正当に買い取ったんです。それなら3人組の誰が犯人ですか?」


「3人共です。彼ら3人の自作自演です」




「でも俺たちが払ってもらったのは、約束の半年分だけだった。あいつは踏み倒したんだ。さぞ自分が作ったレシピのような顔をして。そのうち俺たちは店を難癖付けられて、辞めさせられたんだ。それが本当の話だよ。5年前のことだ」


「それでミスパを名乗り食品業界を恨みに思って脅したのか?」


「それは知らない。オレたちは関わっていない。ホントだ」




第33話


その翌日も、4人は白熊で涼んでいた。とりあえず第1事件の元祖煮干し屋の件は解決したが、トカゲの尻尾をぶつ切りにしただけで本筋にある胴体(謎)はなにも解決していないように思っている。


さすがのメタボも、この涼しい部屋のなかでは汗も出ないので、さも快適なのだろう。オレには少し寒く思う。冴子にいたってはロングTシャツだ。「この部屋少し寒すぎません?」


「次は第2の事件です。被害店舗はらーめん丘長家でした。被害者は、ラーメンブロガー片目速男で知人ひとりと2名で来店中に被害にあいました。片目たちは店主に確認したところ、元祖煮干し屋に勤務していたなんてなかったとのこと。そして、この丘長伊家とは全くの無関係とのことで、お互いに追いスープに毒を混入させる言われはない。まったくの心外であるとの1点張りですね」


圓八警部がこのいささか冷たすぎる空気が漂うのなかでも扇子を仰いでいる。

「・・・そうか。第1と第2の件は無関係なようだな」


冴子が腕をさすりながら、

「でも、こうやって全ての事件を追っても時間が足りませんと思いますけど」


「そのとおりだな。ところで、県警、市警はどう見ているんだ?」


圓八警部が報告する。

「それがだ。やつらは人員の多さにものを言わせ人海戦術で、一つ一つ洗っているそうだ。元祖煮干し屋のことは報告しておいた」


「そうですか。あちらには広くあたってもらって、情報をやり取りできればいいんですけどねっ!」



「ワシらのこれからの捜査方針は、第2の丘長家、第3のカツ屋ともこれ以上の情報は得られないと判断する。よって捜査対象からは外す。いいな?」




第34話


この3日間彼は自宅と職場である高校への往復の繰り返しだった。学期初めで忙しいのだろう、残業が21:30までになることもある。


この日は、忙しいのは一段落ついたのか定時に学校を出てきた。そして、いつもの駅とは違う方向へと歩き、いつもとは違う路線の電車に乗った。2駅15分で改札を出て速足で進んでゆく、そこへ1人の男が彼の横についた。何も話さない。挨拶さえしない。



乗り換えて四つ目の駅で2人は、別の路線にまた乗り換えた。電車待ちのとき、今度は2人、男と女が彼と1人目の男の後ろについた。何も話さない。挨拶さえもしない。だが、彼の周りにいる3人からは親しみの情が溢れているように感じる。


彼らが電車を降りて歩いているているとき、また2人の男が彼の周りについて歩き出した。何も話さない。挨拶さえもしない。ただ感じるのは友情のしるしのみ。


更に歩いていると、今度も2人の男が加わった。何も話さない。挨拶さえもしない。ただただ彼の幸福を願っているように見えた。




「はっ!」とすると、目前に大きな建造物があることに初めて気づいた。


総合病院だった。




「みんな、ありがとう」


「もう充分だ。気持ちは充分に頂いた」


「妻も喜んでいるにちがいないよ」


「責任は僕が取る。自分と妻の治療費ほしさに、すべて僕がやった」


「僕は、こんなに素晴らしい仲間に囲まれて、とても幸せだ。この気持ちを生徒に分けてあげたい」




「ありがとう」



「これから先は僕1人で行きます。妻を看取ってきます」


「しばらく待っていてほしいと伝えてきます」






今年初めより起こっていた一連の食品業界毒物混入事件について、石川県警並びにはくさん市警は高校教師緑田幸一を逮捕しました。

緑田容疑者はミスパと称し、半強制的に募金を迫り金を奪い取ったとみられます。

動機は自身と妻の治療費のためと供述しているそうです。現在容疑者は末期の膵臓癌を患わっており、また妻は先日、亡くなっています。

尚、単独犯であり共犯はいないとのことです。






ぶちおさん


「ぶちおさん」


「ぶちおさん!」


「これでいいんですか?これでいいんですよね?」


「あぁ」


「奥さんだけでなくて、自分自身も病に侵されていたなんて悲しすぎます・・・」


「これでいいんだよ。これで」


「彼は永遠に石川のラーメンブロガーだ」


「1つだけ聞かせてください。「猫探偵事務所のモットーは、どんな依頼でもその依頼主の意向に沿う」ではなかったのではなかったんですか」


「たまにはいいだろう。オレたちは警察ではないからな」




「ぶちお、おつかれ」


「すみません、圓八さん」


「いや、ワシでもそうするかもな。警察官失格だが」




「おまえは探偵だ。そしてワシは警察官だ。今更ながらワシからの依頼を変更する。猫探偵事務所殿。事件を解決してほしい。以上」






エピローグ


「ぶちおさん、小難しい話はそれくらいにして、煮干しラーメンを食べに行きましょうよ。だって、あれから半年以上経っているのよ。はやく♪」


「あーあたしも行きまーす♪」


「冴子ちゃん、あなたちょっと図々しいわよ!あなた鑑識課でしょ?なぜしょっちゅうここに入り浸ってるのよ!」



「まぁまぁ、みんなで食べに行こう、オレが奢る!」







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「あなたは、なぜ最初にあなたが愛するラーメンをターゲットにしたのですか」




「よくわかりません。ただ、自分はもうしばらくで消えゆく身ですが、その後もラーメンは進化し続けるでしょう。そのことに嫉妬したのだと思います」












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ラーメンの街 ー猫探偵事務所 猫野ぶちおシリーズー @ohiroenpachi8096

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