ヒールショー
ラム
どこにでもいるヒーロー
『良い子のみんなー! お姉さんとクイズしよう!』
『はーい!』
『主人公の名前はー?』
『優!』
『せいかーい! 第二問! 優はどういう人?』
『平凡大学4年生の冴えない奴ー!』
『またまたせいかーい! みんな、拍手ー!』
パチパチパチパチパチパチ
『それじゃあ優の出番です!』
──
「面接だ……頑張るぞ。俺はこの会社に入るために理転して情報学部に入ったんだ」
優は名前を呼ばれると、ドアに優しくノックし、面接室に入る。
面接官は3人。圧迫面接ではないものの、気は緩めない。
優は習った通りのマナーに従ったのち、椅子に座る。
「それでは早速ですが志望動機を聞かせてください」
「はい、御社の、AIの中でも生成AIに力を入れるという先見の明に強く興味を持ち〜」
「ほう……」
「生成AIは規制のリスクがあり、特にEUでは警戒されていますが、アメリカでは〜」
『おっとー!? 優、志望動機が長いぞー! このままじゃ時間オーバーだー!』
「〜であるからして、御社へ貢献したい所存です」
しかし、面接官は優の熱意を肯定的に受け取った。
「……素晴らしいですね。ここまで生成AIの未来を考えているとは……」
『大変! 優がチャンスだ! このままじゃ優が就職に成功しちゃう! みんな、優の
『努力する奴なんか失敗しろ!』
『真面目な人間なんてくたばれ!』『俺は上手く行かなかったのに……!』
『そんな声じゃ優に届かないよー! もっと大きな声で!』
『失敗しろ! 失敗しろ! 失敗しろ! 失敗しろ!失敗しろ! 失敗しろ! 失敗しろ!失敗しろ! 失敗しろ! 失敗しろ!失敗しろ! 失敗しろ! 失敗しろ!』
『すごいすごーい! みんなの
「なるほど、実に興味深い時間でした」
「貴重なお時間を割いていただき、ありが……」
その時、スマートフォンの間の抜けた着信音が鳴り響いた。
『おーっと!? 優、マナーモードにし忘れたー! みんなの罵声のおかげだね!』
『わははははは!』『ざまあみろ!』『こうなると思ってた』
「あっ、すみません」
「……いえ、結構です。結果は後日お知らせします」
結果から言うと、優は採用されなかった。
優はメールを見ると涙を流しつつ、そのメールを削除した。
『みんなが足を引っ張ったおかげで優は失敗したぞー!』
『ざまあw』『スカッとするな』『メシウマ』
『この後は迷走した優の悪手タイムが始まるから約束通りにマナーを守って嘲笑ってね!』
──
結局優は第一志望はおろか、第二、第三志望の企業にも受からず、まるで拾うかのように採用してくれた、正直に言うと眼中になかった会社に就職した。
「おい、まだこれ終わってないの?」
「すみません、本日中に終わらせますので」
「本日中にって……もう22時なんだけど?」
「はい、残業させていただければ間に合うかと」
「……ふん」
優が入った会社は、あるいは職種はブラック、と呼ばれるものであったのかもしれない。
(くそ、23時……いや、1時までかかるかな……)
『優、大苦戦! これは
『こりゃ持たないな』『でも頑張ってるじゃん』
しかし、仕事は過酷で地味ながら、ある程度充足していた。
気分転換に室内を軽く歩いていると、後輩の女性と目が合う。
「先輩、まだいるんですか!?」
「あ、奏さん、お疲れ様」
「気の毒に、コーヒー淹れてあげますね」
「ありがとう。あ、そこミスしてるよ」
「え!? あ、本当だ……」
「いい、ここはね……」
優は高速でタイピングし、奏のエラーを直す。
「ほらね、これで大丈夫」
「先輩……流石です! 私、惚れちゃいました!」
「あはは、大袈裟だなぁ」
「それで今晩一緒にディナー……なんて言っても夜食になっちゃいますけど、どうですか?」
「ディナー? いいね……」
「あ、もちろん先輩の奢りですよ」
「……仕方ないなあ!」
『おおっと、優と奏、いい感じだぞ!? みんな、優を
『いい夢見るな!』『振られろ』
『あれ、いつもより
──
0時に仕事を終えた優と奏は、深い夜、街をレストランを探しつつ、散策していた。
「ディナー、ね……どこがいいかな……」
「わくわく」
「じゃあ横浜家系ラーメンにしようか」
「……え?」
『まさかのラーメン、しかも家系を提案! これは彼女に失望されるぞー!』
「…‥あの、先輩」
「え? ダメだった?」
「恥ずかしながら私、その……大食いで」
「大食い?」
「だから……その……大盛り頼んでいいですか?」
「ああ、俺も大盛りだし気にしなくていいよ」
「やった!」
『あ、あれ? 意外と悪くない、いや、いい雰囲気だぞ……?』
優は家系ラーメンの濃厚な豚骨の汁と、かみごたえのある太麺の味わいを楽しんでいた。
「で、私先輩に惚れたんです」
「それは聞いたよ」
「いえ、本当の意味で」
「それって……」
「……私からはこれ以上言いません。先輩の返事を聞かせてください」
『大変! このままだと優と奏がくっついちゃう! 良い子のみんな、罵声を送って優を
『俺のように失敗しろ!』
『眠いのはわかるけど
優は、視線を机に開いた自身の手と奏の目と行き来させ、躊躇うように告げる。
「……俺は……いや、俺も奏さんのこと、魅力的だと思ってた。でも、俺なんかでいいのかな……」
「先輩、返事を聞いてるのは私ですよ」
「ほら、俺要領も間も悪いし、特に目立った特技もないし……」
『おおー! 優の必殺技、ネガティヴな言葉炸裂だー! 奏のテンションを駄々下げー!』
「……でも! 俺は君に相応しい男になってみせる。だから俺と付き合ってください」
「先輩……! 大声で言うから注目されちゃったじゃないですか!」
「あ、ごめん……!」
「でも先輩の情熱、嬉しいです。末長くよろしくお願いします!」
『あ、あ、あれれー? どういうこと? もしかしてみんなの
『……』
『みんなー! もっと大きな声で!』
『やめようぜ』
『え?』
『これ以上誰かの足引っ張るのは嫌だ。これじゃ俺らが
『そうだな。悔しいが、あいつみたいに惨めだろうが、みっともなかろうが幸せを勝ち取る奴が本当のヒーローだ』
『……ごほん。我々
──
「ちょっとあんた! 娘が高熱なのに会社行こうって言うの!?」
「いや、会議があるし、なにより熱って言っても37.2度だし」
「この季節だから危険なのよ!? そんなに会社が好きならもうどこにでも行きなさいよ!」
「トホホ……」
『おおーっ! これは離婚の危機か!? みんな、優に
『姉ちゃん復帰はええな……』『ま、これが現実だわな』『早々倦怠期で草』
(くそ、まるで呪われてるかのように不条理な目にばかり遭うな。だが、俺は負けないぞ!)
それから優は時には大きなミスをしてリストラの危機に遭い、時には奏と大喧嘩をし、時には娘に家出され、冴えないまでも、理不尽な社会に抗い、家族を守った。
社会に揉まれても強く生きるヒーローは、どこにでもいるのかもしれない。
ヒールショー ラム @ram_25
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