ガラスが落ちた場所で
硝子 咲
第1話 月の光
暗闇の中、大きな窓越しにいつもより長く月を眺めていた。
今日は特別に綺麗だ。月に一度、大きな満月になる日。
身に付けたネグリジェを引きずりながら窓際に近づき、手を伸ばす。
届かない事を分かっていながらも、まるで少しでも近くに感じるみたいに。
「触れられたらいいのにな」
そっと手を下ろして、静かにベッドへと足を運ぶ。
「……明日、夜更かししたこと気付かれちゃうかな…」
目の下にクマが出来たことを心配される、明日の自分の姿を思い浮かべて
少し苦笑いして横になった。
来週には社交会が控えている。
近くで顔を合わせる場面を思うと、少しでも疲れた顔を見せることはできない。
いつも堂々とした佇まいの父のように、私も振る舞いたいのだ。
早く眠りにつこうと、ふかふかの枕に顔をうずめる。
――とその時、
ガッシャーーーン!!……
大きくガラスが弾け飛んだ。
空気を貫く衝撃が全身に走る。
胸の奥が凍りつき、息がひゅっと喉の奥で止まった。
揺れる視界の焦点を合わせながら、驚いて咄嗟に割れた窓の方向を見る。
「!……誰…?」
見るとそこには、窓ガラスを割ってこの部屋に侵入したと思われる者の姿があった。
背格好は男のようだ、衝撃から身を守るように片足と片手を床についている。
触れようとしていた月光は脅威に染まる。
パリッとした背広からガラス片が月明かりに照らされ、キラキラと光りながらこぼれ落ちる。
そして立ち上がり、こちらへ顔を向けたかと思えば
一気に距離を詰められ、私はハンカチのような小さな布を口に当てられた。
冷たい感覚が意識を逆撫でる。
その口元がニヤリと笑ったような気がした。
男の顔をはっきりと見ようとする前に
薬品のツンとした甘い香りとともに、声を出す間もなく意識が遠のいていく――
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