ポイ捨てされたゴミを瞬間移動させる魔法
メガさんさいそば
ポイ捨てされたゴミを瞬間移動させる魔法
高校二年の夏。
僕はゴミ拾いのボランティアに参加していた。
場所は学校の近くの河川敷。
毎年花火大会が行われるこの地域では、自治体が周辺の学校と連携してゴミ拾いを行っている。
学校のイメージを少しでもよくしたいのだろう。
部の顧問であり学年主任でもある斎藤先生から参加してくれと言われた僕は、渋々ボランティアの参加を了承したのだった。
ああ、なぜ断れなかったんだろう。
自分の意思の弱さが嫌になる。
まだ朝八時だというのに太陽はジリジリと僕の肌を焼いていた。
簡単な説明を受け、ゼッケンを受け取った後は散会してゴミ拾いを始める。
一歩進めばゴミ。
また一歩進めばゴミ。
食べかけの焼きそばやチューハイ缶、はたまたレジャーシートまで見渡す限りのゴミ。
人が楽しんだ後のゴミを奉仕で拾う。
花火大会に興味のないインドア派の僕にとってそれはとても苦痛だった。
かと言って今更サボるのもなんか違うなと、小さなプライドを理由に黙々とゴミをトングで拾うと、ビニール袋に収めていく。
三十分もすれば、目立つゴミはおおかた片付けられた。
周りにいた他の参加者たちは雑談をしているし、遠くではメガホンを持った主催らしきおじさんが、ゴミの回収場所を案内している。
そろそろお開きか。
そう感じた僕は、階段に置かれたペットボトルを最後に集合場所に戻ろうとした。
からん。
音がした方を見ると、階段の上から
僕はひどくムカついた。
気温は三十四度を超えてるし、汗は止まらないし、ゴミ袋は重いし、タダ働きだし。
顧問はわざわざ僕に声をかけるし、散々花火を楽しんでおいてそのくせゴミは持ち帰らないし。今だってゴミ拾いをしている最中にゴミをポイ捨てされるし。
ああ、消えないかな。ゴミども。
頭の中で暴言を吐いた。
そうしたら、目の前で空き缶が消えた。
文字どおり消えた。
はじめからなかったかのように。
目を疑った。
いま起こった事を確認するかのように、もう一度頭の中で呟く。
消えろ。
階段に置かれていたペットボトルがふっと消えた。
その瞬間、先ほどまでイラついていたのが嘘だったかのように、僕は興奮に包まれた。
まるで魔法だ。
すごい!
僕はモノを消す魔法を手に入れたんだ。
ただただ興奮していてSNSにしょうもないことを呟いたりしたりもしたが、どうだってよかった。
ボランティアを終え、まっすぐ家に帰った僕は早速魔法を試してみることにした。
まずは机の上に置いてある消しゴムに対して頭の中で「消えろ」と唱える。
消えない。
それから物を変えたり、実際に声に出しても見たが、一切消える様子がない。
小一時間ほど試したのち、僕はベッドに大の字に倒れた。
しょーもな。
あれはきっと幻覚だったのだ、そう思った。
暑かったし、ムカつくことがあってカッとなって意識が朦朧としていたのだ。
行き場のなくなったやるせなさから、ズボンのポケットに入れていたボランティアのビラをひっぱり出すと、くしゃくしゃにして壁に向かって
放られたビラは放物線を描き、壁掛けのカレンダーに当たると
消えた。
思わず飛び起きる。
そうしてさらに驚いた。壁に投げたはずのくしゃくしゃのビラが自分の手元にあった。
今度は消しゴムを投げてみる。
消えない。
拾いあげた消しゴムを机に擦り付け、ケシカスをまとめる。
投げる。
消えた。
と思えば、ケシカスが今度は虚空から現れ、ぽとりと床に落ちた。
それから数ヶ月。
色々試していて気がついた。
僕が使えるこの魔法は捨てられたゴミを、捨てた持ち主の部屋に飛ばすことができる魔法だ。
気がついたのは偶然だった。
夏休み明け、クラスメイトの山田がポイ捨てしたゴミをこっそり消してみたのだ。
そうしたら翌日、山田がポイ捨てしたゴミが家にあったと怯えたように騒いでいるではないか。
笑うクラスメイト。
そんなわけないだろとツっこむ者、そもそも捨てんなよなと冗談半分に笑う者。
それを横目に僕は思わず唇を歪ませた。
手から火が出るような派手なものじゃない。
人を動物に変身させたり、空を飛ぶようなファンシーなものでもない。
それでも僕という人間の
それからの僕は、夜な夜な街へ繰り出すと路上に落ちているゴミを、持ち主の家に飛ばしながら散歩をするのが習慣になった。
とても清々しい気分だった。
やっていることは河川敷のゴミ拾いと変わらないのに、なんて清々しいんだ。
——なんて気持ちがいいんだ。
消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。
街が綺麗になる。ゴミをポイ捨てした者は報いを受ける。
消えろ。消えろ。消えろ。
消えろ。消えろ。
消えろ。
なんて僕はいいやつなんだ。
ゴミを飛ばしながら歩いていると、コンビニ横の駐車場で4、5人の男が集まって酒を飲んでいるのが見えた。
髪は染められていて、いかにも不良。
彼らの手元からはゆらゆらと煙が上がっており、タバコを吸っているのがわかった。
僕は彼らの視界から逃れるように電柱の影に隠れると「消えろ」と頭の中で唱えた。
消したのは彼らの足元に散らばるタバコの吸い殻だ。
途端に騒いでいた彼らの声が一際大きくなった。
ちらりと覗くと、彼らは床を指してジャンプをしたり手を叩いて笑っていた。
少しもやっとしたが、飛ばした吸い殻が彼らの家に飛ばされてると思えば溜飲が下がる。
かと思えば、なんと彼らは今吸っているタバコを次々と投げ始めたのだ。
消えろ。
彼らが投げたタバコが消える。
彼らはそれを見てまたゲラゲラと笑った。
そのうち一人がまるで手品師のように振る舞い始め、それを他の男たちが拍手をして盛り上げ始めた。
酔っているのだ。
超常現象が起こっているのに理解もせず、
ムカついた。ムカついたが、飛びだして行って何かを言う勇気はなかった。
プライドが傷つけられ、僕はその場から走って逃げ出した。
家に帰ると、机を強く叩く。
それでもまだ心のモヤモヤが晴れなかったので、僕はSNSを開いて呟いた。
『コンビニ寄ったら駐車場で猿みたいに下品に騒いでるやついて草』
少し気分が落ち着いた。
それと同時にこんな事をしている自分が情けなくなった。
翌朝、テレビをつけるとニュース番組が目に入った。
『昨夜未明、○○市にて火災が——死傷者は一名。八十歳の女性と——』
火災の場所はここから離れているが自分が住んでる市だった。
動悸がする。
手先が急速に冷たくなり、呼吸が浅くなった。
苦しいのに、その場にじっとしていられなくなり、駆け出した。
マンションを飛びだし自転車に跨ると、ニュースに映っていた場所に向かってペダルを漕ぐ。
違う違う違う違う。
まだ俺が悪いと決まったわけじゃない。
別の理由で火災が起きただけかもしれない。
こんなことをしたかったわけじゃない。
悪いのはタバコを捨てていたあいつらだ。
二十分ほどペダルを漕ぐと、ニュースに映っていた場所に着いた。
周囲にはまだ煤の匂いが立ち込めており、全焼とまではいかないがアパートの一角がまるまる焼け落ちていた。
朝だというのに少なくない人が集まっていて、みんながスマホを片手に写真を撮っている。
もう少し近づこうと思ったが、警察と消防が立ち入らないように周囲を封鎖していた。
警察の一人と目があった。
僕はまた逃げ出した。
自転車に跨ってこの場から離れる。
無我夢中になって逃げて、逃げて、気がついたら学校の屋上にいた。
自殺する人間の気持ちなんて今までわからなかったが今なら少しわかる気がした。
フェンスによじ登って、屋上の
風が背中を押した。
バランスを崩して体が宙に舞う。
時間が引き伸ばされる。
ここ数ヶ月のことがフラッシュバックのように思い起こされた。
ああ、なんて馬鹿で間抜けな人生。
愚かで、迷惑で、人を下に見て。
最終的に人を殺した。
コンビニで笑ってた男たちよりも、花火終わりにゴミを持ち帰らなかった奴らよりよっぽど罪深い。
ああ、消えてしまいたい。
「ごめ——」
…
『続いてのニュースです。きのう午前、○○市のマンションで大きな物音がしたとの通報がありました。警察の調べによりますと、マンションの一室で十七歳の男性の遺体が見つかり——』
ポイ捨てされたゴミを瞬間移動させる魔法 メガさんさいそば @Uni_1224
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