三角形の家で

三角形の家で


1.


某動画配信サイト

「急がばクリーンチャンネル」

2024.10.12配信分より抜粋


「はいどうもー!急がばクリーンチャンネルの五⼗川いそがわです!今回もご依頼を受けまして、こちらのお宅なんですけども、⾒てください、⼊り⼝までゴミ袋が、もうね、ぎっしりなんですよ、これは⼿強そうですねー」


(以下省略)



⼾⽥とだ たけしさんは、清掃業を⾏う会社につとめている。この会社は清掃業のかたわら、所謂いわゆるゴミ屋敷の清掃作業を動画配信という形で発信しており、登録者数は10万⼈前後と、それなりの規模だそうだ。


◼️


ああどうも、⼾⽥と申します。


はい、はいそうです、この動画も私が編集したものですね。私は画⾯には出ない、いわば裏⽅なんですけどね。


ええ、社⻑の五⼗川が動画撮影に積極的で。

社⻑のトークを撮って、現場の状況を撮って、それから作業内容を、って感じですね。


でもゴミ屋敷だと、もうインパクトがあるのは当たり前ですからね。注⽬されるには、⼀⾵変わった内容も必要ではあるんですが。


そう語る⼾⽥さんだが、中にはそのまま配信できない映像もあるという。


まあ、映像のインパクトだけで考えれば、ゴミ袋の下から出てくる⾍の群れだの、トイレの汚物だのをそのまま配信した⽅がいいんでしょうけど、いろいろ煩いですからね、ご時世的に。


だから変な話、そんなのがカメラに写っちゃうと⾯倒だなあ、ってのが先に来るんですよ、ええ、モザイク処理とかしなきゃなあって。まあただ、そりゃ画像処理すりゃ済む話なんでいいんですが。問題は――


画像処理とか、そういう感じで処理できない時なんですよね。


え?あはは、ご遺体なんかじゃありませんよ、それは画像処理しても配信できません。


霊的なもの?


うーん、どうなんですかね、それとも少し違う気がして。


だいたい、ゴミ屋敷に出る霊て、何かイヤじゃないですか。臭そうでしょ。


そう⾔って半笑いのまま、⼾⽥さんはある家での出来事を話してくれた。



2.


ご依頼のあった家に、私ともう1⼈の社員とでお邪魔したんです。


ええ、はい、ロケハンていうんですか、動画撮影的にはそうでしょうけど、本業として⾔うなら⾒積もり作業ですね、鍵をお預かりして、2⼈だけで確認に⾏きました。

ご依頼主は30代のご夫婦で、旦那さんのご実家の⽚付けをお願いしたいっていう話でした。


ええ、ご依頼主は息⼦さんで、ご両親は今は施設に⼊られてるそうなんです。

いや、ご健在らしいですよ。特別介護が必要というわけでもなくて、ただ、⾼齢者にとっては家が住みにくい形で。


ええ、三⾓形なんです、その家。


私は良く知らないんですけど、その、あんまり良くないって話なんでしょう?三⾓の家って。


昔読んだ本で、三⾓形の家で殺⼈があるってヤツがありましたけど、それは四⾓の家を対⾓線で区切って使ってるせいで、三⾓形になってるってだけでしたが――


ええ、その家は完全な三⾓形で、1箇所に直⾓があって、あの、1対2対ナントカみたいな――そんな形でした。


でもまあ、中に⼊れば普通の2階建ての家です。まあ、動線が少し変わってるくらいで、別段普通の家と変わらないな、って感想でした。


良くないって⾔われるのは、デッドスペースの問題もあるんでしょうけどね。

その家はご主⼈――ええ、ご依頼主のお⽗さんですね、その⽅が元は⼤⼯さんだったそうで。はい、上⼿いこと⾓の形に合う家具を作られていて、なんなら普通の家より洒落しゃれてましたよ。


何でまた三⾓形の家が良くないって⾔われるのか、よく解らなかったくらいで――



⼾⽥さんの⾔うように、三⾓形の家というのは――とかく悪い俗説がまとわり付くことが多い。


急に⾵⽔の話が出てきて、尖った形のせいで気の流れが悪くなるとされたり――

四⾓形に対して異形であるから、住⼈の精神に影響があるとされたり――


家からすれば⾔いがかりに近いものばかりではある。


それに加えて、何か不幸な出来事や異常な事が起きれば「家の形」に因果付けられてしまうのだから――縁起が悪くならない、と⾔う⽅が無理だろう。


単純に住みづらい形であるがゆえ、避けられているだけなのだろうと、⼾⽥さんも思ったのだそうだ。


ただ――



3.


本業は清掃業ですからね、ご実家の⽚付けと清掃をお願いされたんです。それはいいんですが、動画にするかというと、インパクトが弱いって⾔うか。


格別汚れがひどいとか、ゴミ屋敷状態ってわけじゃないですから、こりゃ普通の――え?ははは、確かに。動画にしないから普通のってのが、もうおかしいんですけど。まあとにかく、よくある清掃案件だと思ったんです。


ただ家の形がね、三⾓形なのが社⻑の⽬に留まったみたいで。いちおうカメラ回して、⼀通り撮影だけしといて下さいってラインが来て。


ええ、許可が出れば配信も、と考えたのかも知れませんね。私が家主だったら、配信なんか勘弁してよって思いますが――


で、⾒積もり作業をしながらカメラで撮影していったんです。家具の⼀部も撤去したいってご要望だったんで、作業員の⼿配とかシミュレートしながらですね。

で、2階ともだいたい撮影が終わりかけた時なんですけど――



最初にそれに気づいたのは、⼾⽥さんと⼀緒に来ていたもう1⼈の社員――⼤塚おおつかさんだった。


壁に沿って置かれた、⼤きな⾷器棚の下に――ふたのようなものの線が⾒えたのだという。


⾔われて初めて気づくほどのもので、よくある地下収納の蓋だと思われた。


⾷器棚の⼤きさと蓋のサイズから推測するに、それなりの広さの収納スペースがあると思われた。

中に納められている物の量によっては――⾒積もり額に影響が出るかもしれない。


⼾⽥さんと⼤塚さんは、床を傷つけないように苦労しながら⾷器棚を少しずつずらしていった。


下から現れたのは――畳半畳分くらいの⼤きさの、地下収納⼝の蓋だった。



4.


持っていたドライバーで引っかけるようにして開けたら――中は真っ暗な空間になってました。ペンライトで照らしてみたら、深さは50センチくらいじゃなかったかな。ええ、壁のコンクリートがだいぶいたんでましたから、かなり昔に作られたんだと思います。


⼈が⼊れるほどの広さじゃありませんでしたからね、最初に⼤塚が、こう、上半⾝を突っ込むような形で中を確認したんですが――何だか浮かない顔をして出てきて、⾔ったんですよ。


⼾⽥さん、気持ち悪いモノがありますって――



地下の収納スペースには、ほとんど何も⼊っていなかった。


あったのは20センチ四⽅程度の⼩さな⽊箱と――


⼟で出来ていると思われる⼈形のようなモノだったという。



5.


少し⼤きめの弁当箱くらいでしたかねえ、ええ、⽊製の。

⿊ずんではいましたが、しっかりはしてましたよ。

上蓋は乗せてあるだけだったんで、こう、ぱかっと開くことが出来ました。


中に⼊ってたのは――古い地図、だと思います。それと家系図、なんですかねえ、アレ。


凄く昔の⼾籍謄本こせきとうほんにも⾒えました。ええ、とにかく⼈の名前が書いてある紙です。⽊箱といい紙といい、普通なら湿気でボロボロになりそうなもんですが――形は保ってました。


その紙も少し変で――


⼈の名前が書いてあるでしょ、紙に。


その上から、名前の上から、×印が描いてあったんです。


ええ、並びからいうと家⻑の⼈ですかね、多分ですけど。


何だコレ変な紙だなあ、なんて⾔いながら地図も⾒たんですけど――


それも相当古そうでした。戦後間もない頃のものじゃないかと思います。どうやらその家の、ご依頼のあった家の周辺の地図だったんです。


ただ、これにも線が――


ええ、元は⾚い塗料で引かれてたんだと思うんですが、⿊ずんだ線が引かれてたんです、地図に。

ただ、気になったのは――


さっき、家に直⾓の部分があるって⾔いましたよね?


ええ、そこが四⾓形の⾓になるように、四隅の⼀つになるように――






依頼主の家を頂点のひとつとする正⽅形。


地下の収納スペースから⾒つかった地図には、そんな線が引かれていたという。


さらに⼾⽥さんの気を滅⼊めいらせたのは、依頼のあった家以外の頂点にある場所――


正⽅形を形作る他の3つの頂点にある家に、同じように――


⼤きな×印が描いてありました。


顔をしかめたまま⼾⽥さんは続ける。


判りませんよ、判りませんが――その家系図だか⼾籍謄本だか――


名前に×印を描かれていた⽅――その⽅のお宅なんじゃないでしょうか――


⼼底いやそうな表情で、⼾⽥さんはそう⾔った。



6.


ああ、そうです⼈形。

⼈形もありましたね、⼟で作られた、座った⼈の形をしたモノでした。


頭の部分が⼤きかったんで⾚ん坊に⾒えなくもなかったですが――どうなんでしょうね、わりと雑に作られてましたから、⾒る⼈によると思いますよ。


ソレの背中には――あれは髪の⽑だと思いますが、埋め込んでありました、ええ、⼟から少しだけ⾶び出ていたんです。


え?いや、そりゃ気味は悪いですが、⾒積もり対象じゃないですからね、邪魔なだけです。


髪の⽑だのなんだの⼊ってようが、⼈形は⼈形です、そこに置いてるだけじゃ何の効果もありませんよ、⼈糞が混ざってた⽅が怖いでしょ、いや、衛⽣的な意味で。


ええ、ですから、誰が何の⽬的でこんなもんを作ったのかは、さっぱり判りません。


でも何となくなんですけど――


この家を作った⼈が――三⾓形を嫌がったのかなって。


まあ、それ⾃体はただの迷信ですからね、どうでもいいと⾔えばそれまでです。


ただ、厭なのは――


「三⾓形の家ではわざわいが起こる」と⾯⽩そうに喧伝けんでんしてる⼈が居ると⾔うことと――

それを真に受けて、こんなモノまで作っちゃう⼈が居たってことです。


ええ、こんな事したって、何の意味もありませんよ。

書類と地図に×印付けただけで、その⼈に何かが起こるわけがありません。

泥人形で家を守れるわけありません。



でも、それでも――



この三⾓形の家に不幸な事が起きなかったのは、



⼀番こわくて厭だったのは、こんな陳腐なモノで――





吐き出すようにそう⾔うと、⼾⽥さんは⼤きく嘆息たんそくした。


◼️


撮影した動画を⾒た五⼗川⽒は、今回の件を配信することは⽌めた、とのことだった。


ご依頼主には事実だけをお伝えし――床下のモノはそのままにしてきたという。




あの家は――何かを呼び寄せているのか。


あるいは――何かをかてとして退けているのか。




あの三⾓形の家で、何が⾏われ、それがどんな意味を持たされていたのか――






それはもう、誰にも判らない。






(了)


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三角形の家で @gajagaja

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