【大人向け童話】英雄の最期

チェンカ☆1159

英雄の最期

 ある世界にヒーローと呼ばれる英雄と、ヴィランと呼ばれる悪者がいました。

 ヴィランはいつもヒーローに戦いを挑み、ヒーローはいつもヴィランを退けていました。

 ところが、ある時からヒーローはヴィランと戦うことが減っていきました。毎日のように戦っていたはずが、今では会うことすらなくなってしまったのです。

 これはどうしたことかとヒーローが思っていると、ある日ヴィランの仲間の一人が拠点を訪ねてきました。

 ヒーローの仲間達は警戒しましたが、ヒーローは相手の話をしっかり聞くことにしました。

「ちょうど良かった。僕も聞きたいことがあるんだ」

「それって、ヴィランのことかしら?」

「うん」

「あいつなら昨晩星になったわ。あたしはそれを伝えに来たの」

「えっ……」

 あまりの衝撃に、ヒーローは一瞬頭が真っ白になりました。

「重い風邪が長引いて、治らないまま逝ったわ。日頃の無理が祟ったのかしらね」

「そう、なんだ……」

「ってことは、この世が平和になるってことじゃんか!」

「ちょっと、彼の仲間がいる前でやめたまえよ」

「あ……すまん」

「……いいのよ。あたし達がやってきたことはあんた達からすりゃあ悪だもの」

 明るく言い放った彼女ですが、目元は僅かに腫れています。

 そのやり取りを黙って聞いていたヒーローは、一つの考えに辿り着きました。彼は相手に頼みます。

「お願いだ。君達のアジトへ行かせてくれ」

 ヒーローの仲間達は驚き、彼を止めようとしましたが、その決意はとても強いものでした。

「まあ、良いわ。あいつが遺したもの、あんたの気が済むまで見なさい」

「ありがとう」

 ヒーローはヴィランの仲間に連れられて、そのアジトへと足を踏み入れました。案内されたのはヴィランが生前よく使っていた研究室でした。

「すごいな、機械がこんなにたくさん」

「あいつの執念はとんでもなかったわ。普段はものぐさなのに、あんたを倒すためだけには努力を怠らなかった」

「そうなんだ……何も知らなかったよ」

「当然よ。努力は普通隠すものでしょう?」

 ヴィランのアジトをあとにしたヒーローは自身の拠点へ向かいながら一人呟きました。

「僕は、君と戦いたくなかったんだけどな」

 その後、ヴィランの死についてはすぐに町中へ広まりました。子供達は嬉しそうにヒーローへと言いました。

「これで平和になるね」

「良かったね」

「嬉しいね」

「……ちっとも嬉しくないよ」

 そんなヒーローの呟きを聞いた子供達は、揃って不思議そうな顔をしました。

 そしてどれ程経ったことでしょう。突然世界の平和を脅かす新たな悪者が現れました。その悪者はとても強く、ヒーロー達には太刀打ちできません。

 ヒーローはふと、ヴィランのことを思い出しました。

「そういえば彼、時々巨大なロボットで攻撃してきたこともあったっけ……あぁ、こんな時彼がいてくれたら――」

 しかし巨大なロボットを操縦できるヴィランはもうこの世にいません。そこでヒーローは決心しました。

「僕がやるしかない!」

 ヒーローはすぐにヴィランのアジトへ行くと、そこにあった巨大なロボットに飛び乗って戻ってきました。

「嘘だろ!?あいつ生き返ったのか!?」

「いや違う!あれに乗っているのは――」

 たどたどしい操縦をしながら、ヒーローは町で暴れている巨大な悪者に向かってロボットごと突っ込みました。

 ロボットはボロボロになり、中にいたヒーローも致命傷を負いました。

 しかしヒーローの特攻は、悪者にもかなりのダメージを与えました。

 そして、悪者はヒーローの仲間達によって遂に倒されました。

「おい大丈夫か!」

「しっかりして!」

 仲間達は倒してすぐにヒーローの元へ飛んできましたが、彼は既に息を引き取った後でした。

 こうして、世界には再び平和が訪れました。

 それからというもの、ヒーローの最期は英雄譚として末永く語り継がれるようになりました。

 さて、帰らぬ者となったヒーローとヴィランはどうしているのでしょう。

 もしかしたら再会して、ヴィランがヒーローに「来るのが早過ぎるぞ!」なんて、お説教をしているかもしれませんね。

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