第12話 小さな看板
交付通知書も仕入れ先も決まり、茜は前に進みだした。
仕入れは、杉本商会のサイトから発注をかけるようだ。
仕入れの間隔は週一回にし、まずは様子を見るようにした。
まだ、住人には『花守町よろず屋』について、認識されていない。
そのため、茜は地図付きで広告を出すことにした。自宅のパソコンで、チラシを作り、回るルートなども決めた。
茜が決めた一週間の予定はこうだ。午前中は両親の畑仕事の手伝い、午後の一時から五時まで移動販売。夕方五時から夜七時が急配対応という事に決めた。それ以降は次の日の移動販売で買ってもらうように、茜の中でルールを決め、チラシにも載せた。
チラシはお母さんの提案で、回覧板に入れて、まわすようにした。高齢者が多い地域だからこそ、安心してチラシを読んで、お店に来てもらえる。茜はそう思った。自宅訪問は押し売りと勘違いされやすい事も、アンケートの件で回った時に感じていた。
回覧板にチラシを入れるには、まず町内会長の意見もうかがわなくてはならない。そのため、茜は次の日に町内会長に話しを聞きに行った。
丘の上に立っている町内会長の家は立派なものだった。家は綺麗に手入れされ、庭も整えられていた。アンケートにも快く回答してくれた一人だった。玄関で呼び鈴を鳴らすと中から、町内会長が出てきた。
「こんにちは。」
「茜ちゃんじゃないか、今日はどうした?」
「あの、折り入ってご相談がありまして、、、」
「どうした?」
「今度、花守町で移動販売をしたくて、チラシを作ったんですが、、。そのチラシを回覧板に入れるのはどう思われますか?」
「そうか、移動販売か、、、。茜ちゃん、それは花守町のためにやってくれるんだよな?」
「はい、もちろんです。私はこの町が大好きだから。」
「そうか。実はな、以前にも居たんだ移動販売の人。その時は皆喜んでいたんだけど、突然、移動販売の人が居なくなっちゃって、その後はまた不便な街に戻ってしまって、三世帯ぐらいは引っ越してしまったよ。人は楽を覚えると不便には戻れなくなる。茜ちゃんがやるにしても、前みたいな事にはなってほしくないと思ってる。」
悲しげな顔で町内会長は過去を語り始めた。この話を聞いて、杉本社長の話しと重なった。茜は黙っていられなかった。
「私はその人のお孫さんに会いました。
そして、移動販売を始めた経緯もやめた原因も聞いています。
今でもずっと花守町が大好きで、気にかけてくれているみたいです。
彼も本当は離れたくなかったけど、仕方なかった。」
茜の気持ちが少し高まり、事実を知ってほしいと思った。途中で投げ出したわけじゃない。理由があったことを知ってほしかった。
「それは、充分にわかっているさ。だけどな、、、、。」
「私はこの町が大好きで、移動販売で皆さんの役に立ちたいんです。それに、、、、それに、、、、、、、将来的にはお店を出したいと思っています。配達だって、修理だって、おじいさん、おばあさんの話し相手もやりたいんです!」
茜は思わず、口走ってしまった。町内会長の渋る姿を見て、なぜか悔しさがこみあげていた。
今は茜自身に力が無い事も自分自身でもわかっていた。だからこそ、悔しさから、大きな未来像を語っていた。咄嗟に出た言葉だった。
「まぁ、待て。この町には今、79世帯が生活しているけど、全ての人が利用するとは限らないじゃないか。利益もない中で、お店を開く資金が出来るとはどうしても思えないんだが、、、。」
町内会長の言い分は最もだ。町の事を理解している。
確かに、全ての人が買いに来てくれれば、早い段階でお店は建てることは出来るだろう。しかし、始めの方は利益も無く、マイナスになることは茜も理解している。それでも、少しずつでも利益が上がれば、お店も夢じゃない。そう感じていた。
「はじめは利益が無いかもしれません。
ですが、皆さんのオアシスになるようにやっていきたいです。それに、一人暮らしの高齢者にも寄り添っていきたいと思っています。
私が行って喜んでくれるなら、私にとっても幸せなことです。」
「オアシスか、、、。そうだな、、、。せっかく茜ちゃんがやってくれるっていうのに、俺は何を心配していたんだろうな、、、。回覧板で回してみよう!利用するもしないも住人が決めることだ。」
「ありがとうございます。」
茜は町内会長にチラシを託し、回覧板に入れてもらう約束を取り付けた。そして、『花守町よろず屋』のチラシは茜の前で、回覧板に入れてくれた。
「茜ちゃん、ちゃんと回すからな。茜ちゃんの自宅に届いたら、住人には閲覧されてるってことだからな。」
「ありがとうございます。楽しみに待っています。」
茜は町内会長にチラシを託し、期待を持って自宅へと帰っていった。
茜の中で、少しだけ、重圧はある。町内会長にお店まで建てたいなんて言ってしまって、本当に出来るのかは不安が残る。
だが、やってみないとわからない。始めて見ないとわからないのだ。
まず、目の前の事をしっかりとやっていこうと心に決めてバイクに乗った。
それから、数日後、自宅に回覧板が届けられた。その中にはチラシがちゃんと入っていた。住人の印鑑が沢山並んでいた。約半数の住人がチラシを見てくれている。この後も引き続き回覧されて、全住人の目に留まる。茜は高揚した。
仕入れはすでに準備して、発注もしてある。注文したのは消費期限のない日用品がメインである。食品はまずはカップ麺のみにした。軌道に乗ってきたら品数も増やす予定だ。
バイクのリアボックスに入る分の量は限られる。あまり大きいものは入らない。トイレットペーパーや箱ティッシュもバラ売りが基本となる。緊急時の販売になることが予想された。
ゆくゆくは軽トラを改造して、移動販売をしたいと考えていた。まるで、コンビニが車でやってくるようなイメージを想像して、その時はセット売りが出来るようにしたいと思っている。茜の夢は膨らむばかりだ。
後日、仕入れ品が段ボール箱で梱包されて、届いた。大きめの箱が3箱ほど届いた。すべての荷物は両親にも話して、奥の部屋で保管することを許されている。各種類の品物を広げながら、発注書と照らし合わせていった。数量も間違いなかった。
そこから、茜は販売価格を決めていかなくてはならない。仕入れ値から2割増しで販売することにした。そして、在庫表もパソコンで作って、一日の残在庫を計算し、その日の売り上げを確認できるようにした。この辺の事務的な仕事は茜の経験が役に立っていた。
価格も在庫表も出来上がり、最後に茜は花守町よろず屋の看板を手作りし、リアボックスに貼り付けた。なんだか、ワクワクが止まらなかった。
いよいよ、始まる花守町よろず屋で、どんな出会いがあるのか楽しみだった。しかし、不安もある。茜は黙って看板をそっと撫でた。
町はずれのよろず屋は今日も忙しい 翔峰リアン @shovorise
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。町はずれのよろず屋は今日も忙しいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます