快楽主義者の鎧機青春

@siking

第1話 皆さんロボは好きですか

 僕はロボが大大大大大大大大好きです。プラモデルを作っている時間って幸せですよね。片腕がもげても戦うロボ。スピードに全振りしたピーキーなロボ。全身銃火器で身動きがとれなくなってしまったロボ。どの機体もそれぞれの魅力があっていいです。

 僕はそんなロボットの中でも、2,3メートルサイズのロボがお気に入りです。レバーやボタンのあるコックピットがなくて、体に纏って戦うタイプのロボです。当然20メートルもあって、文明の技術の塊みたいなのも好きですよ。けれどお互いの顔が見えている状態で戦うことなんて〇ュ―タイプでもない限り不可能ではないですか。互いの声を、感情をぶつけ合いながら激しく戦うのって最っ高に熱くて、そそられます。僕は幼いころから、激情や拮抗したバトルといったものが大好きでした。また、戦う機械に対しても無限に興味が湧いていたそうです。その二つが混ざった小型の鎧型ロボットはまさに運命の存在だったのでしょう。

 しかし、年齢を重ねるごとに激情を感じなくなってしまいました。それでも、ロボットへの愛は止まらなかったんですけどね。おかげで、高校2年生となった今では突然意味の分からない単語を延々と話し続けるムードメーカーな変人として、クラスに溶け込んでいるのでした。



  ∬



 高校2年の7月。明日から夏休みの為、生徒たちは普段とは異なる表情をしていた。その中でも一際目立っていたのは、誰から見ても彼であろう。

 。

「だーかーら、美少女がアーマー着込んだ時に素肌が見えるか見えないか、どっちのほうがエロいのかって訊いてんだよ!」


 不良のような口調で一般人からすれば意味が分からないことを言っている身長180センチメートルぐらいの痩せ型の男子生徒。彼の名は御鳥慎吾。慎吾をよく知る人間たちは揃ってこう言う。黙っていればかっこいいのにと。話を戻して、慎吾にとっては日常会話の一つに過ぎないのだが、青春を謳歌する若人からすれば日本語しゃべれやといった様子だ。


「あー、はいはい見えたほうがいいですよー。てか、今日さ。全部活が休みで午前中で学校終わるから午後からカラオケいこーよ」


 そんな慎吾の質問に答えたのはクールで知的な雰囲気のイケメン神崎優騎であった。この二人は幼馴染というやつで、幼少のころから慎吾の謎発言に慣れていた優騎にとってはスルーも容易である。


「いやっ!全身ピチピチのライダースーツみたいなの着てたほうがエロいね!」

「うん行く行くー。慎吾も行くってー」


 優騎のカラオケ発言に反応したのは、髪を金に染めたポニーテール美少女ギャル城雪英奈。慎吾の言動を完全スルーし、3人でカラオケに行くことを確定させようとする。慎吾、優騎、英奈は一般的にクラスの1軍と呼ばれる人間であった。


「よし、じゃあ他にカラオケ一緒に行く人いるー?」


 優騎は、3人がカラオケに行くことを確定させるとクラス全体に問いかける。


「じゃあ、俺も...」

「じゃあさ!スピード特化の設定の美少女機体って双剣とハンドガンどっち好み?」

「うるっせーよ御鳥ぃ!今俺が話そうとしただろうが」


 慎吾がカラオケに行くと言おうとした男子生徒の声を遮ってしまい、キレる男子生徒。


「うるせぇのは《テメェ》手前だ古嶋ぁ」

「瞬も追加っと」

「お兄ちゃん行くならあたしも行くー」


 古嶋と呼ばれたサッカー部にいそうな男子生徒と言い合いを始めようとする慎吾。だが、優騎の声に遮られてしまう。瞬に続き名乗りを上げたのは慎吾の妹の御鳥美夜。


「結局いつものメンバーかよ」

「ねぇ、双剣かハンドガンどっちかこたえてよー」


 ボヤく瞬と質問の答えが得られていない慎吾。


「よしっじゃあ行くぞー」


 まとめ役の優騎が1軍を引き連れ、学校からカラオケに移動する。



  ∬



 「「「「「じゃんけんぽん」」」」」

 「負けたぁ」

 「やったぁー、一番手だ!」


 カラオケに到着し、誰が最初に歌うかを決めるじゃんけんの結果トップバッターは英奈に決まった。


「それでは聴いてください...」


 曲のイントロが始まる。英奈は最近流行っているボカロとやらをうたっている。高音でも音を外さない歌声は、人を魅了する力でも宿っているのか全員が聴き入っていた。おまけに、スクリーンに映されたアニメMVではなく、英奈を見ている。曲ははサビに差し掛かる。しかしながら、相変わらず空気の読めない我らが慎吾は美夜のほうへ体を傾け小声ながらも口を開く。


「なあなあ、美夜。この曲って有名だったりするの?」

「流石はお兄ちゃん。アニソンしかわからないお兄ちゃんにこの妹が教えてあげましょう」

「やっぱいいや」

「お兄ちゃん、口にスライム詰められるか断食一週間どっちがいい?」


 物騒な会話になりつつある兄妹を横目に、英奈が歌い終わる。英奈は2番手の瞬にマイクを渡し、慎吾のとなりの赤いシートに座る。


「お二人さん、ちゃんと聞いてた?」

「聞いていましたとも」「うんうん」

「じゃあ次、6番手慎吾君」

「えっ。次って瞬じゃなかった?」


 慎吾は瞬にマイクを渡そうとするが、瞬はそれを拒む。


「何言ってんだよ。6番目は慎吾だろ」

「流石にボーっしすぎだよ慎吾君」


 困惑したまま、慎吾はマイクを握り立ち上がる。


「俺ってさっき曲入れてたっけ?」

「入れてたよー」


 曲をセットした記憶もない慎吾は、一旦記憶がないことについて考えることを放棄してやめて歌いだす。

(一体何なんだ?10分ぐらいの記憶が消えてんだが。まあいっか)


「おほん。お前ら全員耳の穴かっぽじってお聞きください。」

『並列世界の君へ』


 慎吾が曲名を口にした瞬間、世界が歪んだ。




  ∬



 「...兄.........ちゃん......お...兄...お兄ちゃんってばあ!」

 「はっ、ココはどこ。私は誰?てか美夜そんなに声を荒げてどうしたんだ」


 慎吾が目を覚ますと、まず目に入ったのは妹の美夜だった。美夜は涙を流していた。美夜をなだめようと頭を撫でる。状況把握のため周囲を見渡すと、豪華な装飾のヨーロッパ風の部屋の中で、慎吾はベッドに寝かされていたようだ。


(衣服は学校の制服のまま。腹は減っていないため、気絶してから大して時間は経っていない。体に若干違和感があるのと、妹がおなかの上に乗っていて身動きがとりにくいってもんか)


 部屋の中にはよく見知ったメンツが勢ぞろいしていた。カラオケに行っていた5人がこの場に揃っているようだ。


「うーむ。状況説明をしてもらおうか優騎君よ」


 腕を組み、隣のベッドに腰かけていた優騎に問いかける。困ったときは一番頭のいい優騎に訊ねるのが最善だと慎吾は判断した。他人任せなやつである。


「悪いがこっちが訊きたいぐらいだ。なんで俺たちはこんなところにいるのか。何があったのか見当もつかない」

「お前で分かんないならもうわかることはないな」

「ただ」

「ただ?」

「気を失う前の最後の記憶が慎吾が歌いだそうとしたところだったということは分かる」


 胸の中で泣いている美夜を除く全員から睨まれてしまう。それに対し、慎吾はペースを崩さずいつも通りの表情で反論する。


「皆様、僕は無罪ですよ?歌を歌おうとして、次の瞬間にはこの通り高級そうなベッドに寝かされていたんですよ?信じて?」

「御鳥が悪いとは誰も思ってねえよ。こんな風になった理由が御鳥ぽかったってだけだ」


 瞬は慎吾に対してぶっきらぼうにそう告げる。慎吾は自分に跨っていた美夜をどかすと、軽くストレッチをして関節を鳴らす。もう一度周りを確認すると、一般的に部屋に出入りするために使用される設備を発見した。


「あー。そこの扉をぶっ壊そうとは誰も思わなかったワケ?」


 慎吾は広い部屋の一番奥にある白いくて、一面に模様が彫られた木製扉を指さす。


「もうやろうとした。けど扉の手前に薄い膜みたいなのがあって扉に触れられないんだ」

「ほぇー」


 瞬はもうお手上げだといった様子で両手を振る。

 なんか異世界転移みたいで面白そうじゃん、と慎吾の気持ちが若干高ぶる。

 慎吾は扉の前に立つと大きく足を振りかぶり、回し蹴りをする。瞬の言った通りであれば、蹴りは跳ね返されるはずなのだが...


「なっ」


 蹴りはあると思っていた膜を通り越し、扉に当たる。

 ―ように見えたが扉が開き、扉の向こう側に立っていた人間の顔面にクリーンヒットする。


「ようこそ別世界の人間様方!ワタクシはフォルテス王国第一王女グランレイ・ニーぶごっふぁあ」

 

 それはもう綺麗に吹っ飛んでいった。お嬢様口調の美少女が顔面に回し蹴りをくらいギャグマンガのワンシーンように回転しながら吹っ飛んだのだ。グランレイ何某が床に着地すると、疑心暗鬼で黙り込んでいた英奈が思わず吹き出してしまう。


「あはははっ、ぶごっふぁだって。ふふふふ」


英奈の笑いで緊張の糸が切れたのか、その場の倒れている王女以外は笑いをこらえようとするも、微笑してしまう。


「はっワタクシはいったい何を...確か、別世界の人間が召喚されたと聞きお迎えに上がろうとして...そうですわ!扉を開けたらいきなり顔面に何かが飛んできたんですの!」


 独り言を馬鹿みたいに大きな声で話すお嬢様にバレないように慎吾は扉の前から、ベッドの上に戻る。王女の言動から慎吾達5人は全員同じことを思ってしまった。


(((((このお嬢様、ポンコツだ...)))))


慎吾は回し蹴りをくらわせたことを誤魔化すように口笛を吹いていると、王女が服を直し再び口を開く。


「おほん。改めて、ようこそ別世界の人間様方。私はフォルテス王国第一王女グランレイ・ニーナ・フォルテス。あなた方5人の水先案内人を務めさせていただきます」

  


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

快楽主義者の鎧機青春 @siking

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ