夢で食べたら

青川メノウ

第1話 夢で食べたら

「甘い物が食べたい」

と高齢者施設で暮らすたまさんが言った。

珠さんは口から物が食べられない経管栄養けいかんえいようの方だ。

「例えば?」

と介護士のすみれが聞く。

「チョコね」

「私も大好きです」

優しく寄り添う菫だった。

しかし午後の休憩でハプニングがあった。

「戸棚のチョコがねずみに食べられてる!」

と同僚が叫んだ。

その後珠さんの所へ行くと、

「チョコを食べる夢を見たの。美味しかったわ」と言う。

この時は気に留めなかったが翌日また同僚が、

「今度はカステラをやられた!」

地団駄じだんだを踏んだ。

一方珠さんもカステラを食べる夢を見たと言う。

更にクッキー、マカロン、ドーナツと同じことが連日続いた。

鼠と同じ物を珠さんも夢で食べているらしい。

(まさかね)

菫は試しにワサビ入りの最中もなかを置いてみた。

すると珠さんは「最中がワサビ辛くて」と顔をしかめるではないか。

認めるしかなかった。

(でも利用者が鼠になってるなんて誰が信じるの?)

「どうしよう」

その矢先問題の鼠が捕まって処分された。

菫は非番だったから後から聞いたが、

同じ日に珠さんも突然亡くなったそうだ。

菫は心が晴れなかった。

「でも最期に色々食べられて良かったのかな。安らかにね、珠さん」と冥福を祈る菫だった。

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夢で食べたら 青川メノウ @kawasemi-river

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