魔法戦

 魔人は悠々と魔術師たちの上空へ翼を扇いだ。

 そうして再び、彼の指先には光の弾が装填される。

 焼けた森に転がる魔術師たちは、それを呆然と見上げ、彼らの纏う灰にまみれたローブが陽光により晒されていた。

 そして、一瞬にして迫りくる光線——。

 地面へ着弾しても爆発は起きなかった。僅かに円い痕が付いただけだった。

 ——ただ、一人の頭を貫いて。

 魔術師が一人、直立に倒れた。

 地に跳ねた体。茶色の瞳は、光を失い青い空を映していた。

 周囲の視線は、その額に空いた穴から流れる血に吸い寄せられた。

 時が止まったかのように、魔術師たちは固まった。皆の瞳が震え喉元には力みがあった。

 その中で、動いていたのは、舞う塵と——黒の長髪。

 天へと突き出された杖の先に、火が灯る。それと一直線に結んで、黒の瞳が魔人を捉える。燃焼の上にさらに熱が重なり、空気も焦げたように陽炎を揺らし、杖の先には火の玉が膨れ上がった。

 ——バンッ!!

 ローブの裾がはためいてすぐ、衝撃波が焼け焦げた木をなぎ倒した。

 放たれた火の玉は、標的を捉える前に宙で破裂していた。

 そこから白煙が立ち昇り、掻き消えた後に二つの視線が交錯する。

 魔人とソフィア。

 余裕に笑みを浮かべる魔人に対し、ソフィアは鋭利な眼で睨みつける。

 僅かな沈黙を、生ぬるい風が埋めた。

 そして、先に動いたのはソフィアだった。

 彼女は横へ向かって走りつつ、叫ぶ。


 「総員っ、私の援護を!!」


 数秒の後、魔術師たちはようやく硬直から解け、はっとしたように杖を掲げた。そうして、震えた足のままに詠唱を始める。

 ソフィアも何か言葉を出しながら、杖を抱え依然として走り続けていた。

 そんな彼女を、光線が襲う。

 長髪を掠めて、それは地上に跡を残した。

 倒れた木を飛び越えつつ、今度は身をかがめて光線を躱す。

 それから何度も、背中に迫る死をソフィアは掻い潜った。

 開いた瞳孔に落ち着いた表情で、彼女は焼けた森の中を駆けていた。

 一方、魔人は、蟻を潰す子供の様な瞳で光線を放ち続けていた。

 

 「逃げてばかりじゃつまらんな」

 

 そう魔人が呟いたその時、空へ向けて巨大な水の塊が打ち上げられた。

 そして、水の塊は魔人のいるよりも高い位置まで上昇すると、パンと弾け無数に別れた。

 キラキラと輝くそれは、槍の形へと姿を変えて——一斉に地上へと降り注ぐ。

 晴天の雨。

 だが、どれ一つ魔人に当たることがなかった。それどころか、全く明後日の方向に行って地面を濡らした。

 魔人は首を傾げ、魔法の打ち上げられた方を見下ろした。

 彼の向く先では、魔術師たちが呼吸の荒いままに震えた瞳をしていた。


 「ふんっ。やはりそんなものか」


 魔人は鼻で笑うと指先に先刻よりも大きな光の玉を従えた。

 そして、それはソフィアの方へと向いた。


 「終わりだ」

 「貴様がな」

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