モナーク カリゴ ヘレナ

○モナーク


 三日月が浮かぶ夜。

天月黒は馴染みのBARにいた。

ステージの上には、グランドピアノ。

 

バーカウンターの上には、

グラスの結露跡があった。

その席に座った天月は、

 

「マスター。

もう帰ってしまったかな?」

 

 その質問に物静かに

 

「はい。

 つい先程。」

 

と物静かに返すBARのマスター。

「そっか。

それじゃ、今日は、

フォーリンエンジェルを。」

と言った。

 するとその後に、

 

「マスター。

この子には、

メロンソーダを。」


と言う少し声の低い声でオーダーしなおした。

 

「もう。

僕は、子供じゃないんだからさ。

マスター、彼に

アプリコットフィズを」

と何時もより甘い声で言う黒。


「だが、

君は未成年だろ?

見過ごす訳にはいかない。」

と言う、天月よりも背の高い、二十歳位の男がいた。

「ふふ。

君は本当に、優しいんだね」

と出てきたメロンソーダのグラスの縁を指先でなぞりなが男を見る黒。

「当然だ。」

とだけ言う男。

 

「そう言えば、

三ヶ月前位に、

君の名前を借りたよ。

黒崎安助。」

 

といい満面の笑みの黒に、

杏介は、

マスターから受け取った、

アプリコットフィズを呑み、

少し笑った。


「そうだ!

実はこの間さ……」


何時物静かなBAR

だがこの時だけは、

生温く、

メロンソーダのグラスの結露が、ポタリと落ちた。

 

○カリゴ

 

水辺に浮かぶ、遊郭のような屋敷。

三日月と、屋敷が水面に反射し、鴨が飛ぶ。

その屋敷、鬼釈迦邸。

そして、その中心部、

燕亭にて。

 

「燕様。

私の娘が、!

気が狂ってしまったのです、!

どうか、どうか、

お助け下さい」

 

そう咽び泣きながら、縋り付く女。


「もちろん。

私の信者の子なら、信者同然だ。

その子をここに連れてきなさい。」


 そう静かに言う。

 

「ありがとうございます」


 そういい少し経つと、

高校生くらいの女の子を連れてき、

 

「燕様。

この子を、どうか、どうかぁ」

 

と泣きすがる。

 

「お母さん!

私は、普通だよ!

能楽燕、!

お母さんを、元に戻して、!

あの優しかった、

 

いっつも一緒に遊んで、

買い物に行って、!

 

前のお母さんに戻して、!」

 

といがり、叫び、訴える娘。

 

「あんた、!

燕様になんてことぉ、!

申し訳御座いません、!」

 

 そういい深く土下座する女。

その女に優しく、


「大丈夫だよ。

きっと、 

他の世界に晒されてしまったんだよ。

元に戻るためには、

清潔な鬼釈迦の使徒に仕えさせれば元に戻るさ。」

 

そう言った教祖。

能楽燕は、

 

「そうだ、

元に戻るまで私達の元で預かろうか?」

 

と美しい笑みを魅せた。

すると、パッと顔を明るくした女。

 

「いいのですか?

娘を、娘をどうか、どうか、

よろしくお願いします」

 

そう言い、

涙を流しながら畳に額をつけ

再び深い土下座をした。

 

「お母さん!

私は、

私は普通だよ?!

お母さん!」

 

 そう叫びながら問いかける娘を尻目に、女は、


「ありがとうございます。」


 とだけ言い、部屋を後にした。

 

「お母さん。」

 

そう言った娘のか細い声は、


男女のうるさい声、 

色っけある女の声、

酒と煙草の臭さに

 

掻き消された。

 

○ヘレナ

 

 ある日のお昼時。

子供の楽しそうな声が響く、公園。

その公園の木下で、

賑やかな声がした。

 

「しゃちょ とうころもし おいしいよ!」

 

 拙い言葉。

まだ少し、正確では無い言葉に

「あぁ。そうだな。

美味しいな

椿。」

と渋い声で、椿を見る、

いずれ菖蒲か杜若の社長、

福智桃源。

 

「椿

それは、とうころもしじゃないよ。

とうもろこしだよ」 

 

 そう言うのは、

いずれ菖蒲か杜若の探偵、

辻竜胆

 

「りんど!

どーぞ!」

 

そういい、竜胆に林檎を渡す、椿。

「あぁ!

ありがとう!」

貰った林檎を

ひょいと、口に入れ食べる。


「うん!

美味しいよ!

ありがとう椿!」

 

「ぱんちゃん

どーぞ!」

 

と、熊猫のパペットに食べさせるふりをする椿。

そんな二人をみて、幸福な気持ちを、

お茶と一緒に飲む、桃源。


 木々の間から差し込む日光。

ぽかぽかの太陽。

椿と、竜胆の笑顔。

桃源の、穏やかそうな顔。

 

 その幸せに、忍び寄る影があった。


 お弁当を食べ終わった椿と竜胆。

二人は、

レジャーシートの上で仲良くお昼寝をしていた。

 

「仲のいいな。

本当の兄弟のようだ」

 

 そういい、二人を眺める桃源。

その時、桃源の携帯機器に、着信音が鳴った。

事務所の社員、武蔵野鉄線からだ。

 

「すまん。

鉄線からだ。

椿を少しの間頼む。」

 

と、竜胆に言い後を去る。


「任せてよぉ」


眠たそうな声で返事し、また、

眠りに落ちた。

 

 数分後

 

「ぱんちゃん 

 ないないった」

 

と言い、泣く椿。

その声に起き、竜胆が

「どうしたんだ

椿」

 と、心配の声を掛けたと同時に、


 「なるほどね。

つまり、椿のぱんちゃんが居なくなったと」

 

と、理解する。

椿の方を振り返り、手をバッと開け

「大丈夫!

この謎は、

この名探偵、辻竜胆が解決する!」

と、高らかに宣言した。

 

 その声に

「りんど!

ありがと!」

 

 と、笑顔でお礼する椿を見、

嬉しそうな笑顔を見せた。

 

 椿と一緒に捜査を開始する竜胆。

 

「まず初めに、現場をみてみよう!」

 

 といい、椿に問う。

「ここは、中華街だよね?

中華街は、

美味しい食べ物が沢山あったね!

例えば?」

 と簡単な質問をする。

すると大きな声で、

「ごま おたんご!」

  その応えを聞き、にこっこりと笑顔を向け、

  

 「そうだね!

 美味しい胡麻団子があるよね。椿も大好きってことは、椿の好きなあの子達も食べるよね?」

 

 と聞く。

「にゃーにゃーたち!」

と言う椿に、いい笑顔をし、

「そう!

普通、人間がいたら近づいて来ない!

なのに、

椿が持って寝てたぱんちゃんを持って

行ったってことは、

僕たちを信用してるってこと!

椿の、一番仲良しな猫さんは?」

と、目線を合わせ聞くと、

ハッとした顔で

 

「レッサー!」 

 

 と二人息ぴったりに答える。

「レッサーの所へ行くぞー」

と言う竜胆に合わせ

「ぞー!」

と答える、椿だった。

 

 カラスの鳴き声がした頃。

「すまない。

長引いてしまった」

と、急いで帰ってきた、桃源に

「二人で事件を解決してきたんだ。

凄いでしょ」

 と自慢げに言いながら、

椿の頭を撫でる竜胆。

 

 その竜胆を、

「よくやったな。」

と頭を撫で、褒める桃源。

それに小声で

「あったりまえだよ」

といい、笑う竜胆。

そして、寝ながら少し笑う椿。

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心臓 天月黒 @amatuki_

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