3900円の焼売

なつき

3900円の焼売

私は飯が食えない。


正確には、食べることはできる。ただ、人目があると食べられない。


独り暮らしの小さな部屋で、小さなテーブルで、そこでは食べられる。ちゃんと1人前。デザートだって付けられちゃう。


外に出ると食べられない。他人の目があると飯なんて食ってらんない。

それどころじゃない。

どこからかやってきた門番が喉を塞いでしまう。

なんとか飲み込んだって、浅いところでいつ飛び出してやろうかって隙を狙ってる。



目の前には20年来の幼馴染。

なんだって知ってる。泣き顔も笑い顔も好きなものも嫌いなものも。


今日も私の喉には門番がいる。

取り分けられた焼売。

一口サイズって何かねなんて、小さく小さく啄む。

門番にバレないように、隙間から潜り込めるように。

「今日お昼遅くてさ」

腹の虫は酔っぱらいの喧騒に負けている。はず。


鳴き喚く腹の虫と引き返す、ひとりぼっちの小さな部屋。

小さな部屋、小さなテーブル、いつものここで冷たいコンビニおにぎりを頬張る。

今日も。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3900円の焼売 なつき @natsu_0209

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画