想像に殺された神と、逸脱する少年

イミハ

第1話 光と闇のあいだで


 森は、静かすぎた。

 風が吹いているはずなのに、木々はざわめかない。


 鳥の声も、虫の音も、まるで最初から存在しなかったみたいに消えている。


 ――嫌な予感がする。

 メグルは足を止めた。


 十五歳。

 まだ少年と呼ばれる年齢だが、その目だけは妙に落ち着いていた。


 いや、落ち着いているというより――慣れていた。

 この世界の「嫌な光景」に。

 かすかに、泣き声が聞こえた。

 子供の声。


 そのすぐ後に、くぐもった大人の悲鳴。

 メグルは迷わなかった。


 森の奥へ、音のする方へと駆け出す。

 開けた場所に出た瞬間、光景は最悪だった。


 翼を持つ影――悪いテンシが三体。

 その足元で、親子が地面に倒れ伏している。


 子供をかばうように抱きしめる母親。

 その背中に、テンシの持つ炎がゆらゆらと揺れていた。


「……またか」

 メグルの喉から、低い声が漏れた。


 テンシ。

 かつて人間を救った存在。

 今は、人間を支配する存在。


 悪いテンシの一体が、母親に向かって手を伸ばす。


「やめろ」

 メグルが言った。

 その声は、森の静けさを切り裂くには、あまりにも小さい。


 だが――

 次の瞬間。

 メグルの右手から、光と闇が同時に溢れ出した。


 白く輝く光と、底の見えない黒。

 相反する二つが絡み合い、形を成す。


 ――銃。

 引き金に指をかける。

 悪いテンシが振り向いた、その瞬間。


 一発。

 光が撃ち抜き、

 闇が喰らった。

 テンシの体は、悲鳴を上げる間もなく霧散した。


「……な、何者だ!」

 残りのテンシが叫ぶ。


 メグルは答えない。

 ただ静かに銃口を向ける。


「悪いけど」

 引き金に、力を込めながら言った。


「俺は、テンシを殺す旅をしてる」

 ――二発目、三発目。

 森に、再び静寂が戻った。


 親子は、震えながらメグルを見上げていた。


「もう、大丈夫です」

 メグルは銃を消し、できるだけ優しい声で言う。


 その優しさが、

 自分の中の闇を、少しだけ抑え込むように。

 彼はまだ知らない。


 この旅の先で、

 なぜダテンが生まれたのか

 そして――

 自分が何者なのかを、知ることになるということを。


 世界を救うための旅が、

 同時に、自分を壊す旅でもあることを。

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