追放≪うらぎり≫の街とダンジョン

うすしま潔

第1章

 「なに…これ…」

 ストーンヴィルの大通りの雑踏の中、そばかす顔の町娘はおびえた声でそう言いながら座り込んだ。

 娘の服の上では緑色の粘液が這いずり回り、ゆっくりとそれを溶かしていっている。

 「なんだよ、一息に脱がす魔法はねえのかよ?」

 大男がニヤけた表情で娘を見下ろしながら言った。腕や肩に筋肉は目立つが、締まりのない腹をしていた。

 「まあそう言うなって、少しずつ脱がしていく方がそそられるってモンだろ?」

 大男の左隣の赤ら顔のノーム族の魔術師が答えた。

 「それもそうだな、ゲヘヘ…」

 町娘は恐怖のせいか、カタカタと震えるだけで助けを呼ぶことも出来ずにいた。

 もっとも娘に気づいた町人たちの反応は無視を決め込むか、またか、とでも言いたげな視線を向けながら通り過ぎるかのいずれかであったが…

 しかしそんな中、短い忍者服とタイトな黒革のレギンスを身に付けた一人の女が二人の男に背後から忍び寄っていた…

 「…よお、ずいぶんと楽しそうな遊びしてるじゃんか」

 女忍者はノームの肩に手を回しながら言った。親しげだがどこかトゲのある口調だった。

 忍者の名前はユメカ・コスガ。中年に差し掛かるか位の年齢で、長い黒髪をポニーテイルにくくり、長身かつ筋肉質な体型をしていた。左頬の傷と鋭い目つきが、並の男であればたじろぐであろう凄味を顔に与えていた。

 「こんなのよりもっと楽しい遊びしてみないか?」

 「楽しい遊び?どんなだ?」

 ノームは答えた。顔はニヤけていたが声には警戒の響きがあった。

 「…お前らの脳ミソの色を確かめるって遊びだよ!」

 そう言いながらコスガはノームの額にクナイを突き刺し、下へ切り裂いた。

 「ひいいい!」

 「てめえ!」

 大男は叫びながらコスガに掴みかかろうとした。

 それに対してコスガはノームを突き飛ばした。

 大男は相棒を受け止めながらバランスを崩し、下敷きになった状態で尻餅をついた。

 コスガは倒れた大男に素早く近づき、顔面に踏み蹴りを数発放った。鼻から血を噴き出して大男は失神した。地面に飛び散った血液と白い歯がコントラストを描いていた。

 「生き…てる…?」

 ノームは額の傷に手をやりながらつぶやいた。

 「冒険者様が額を切られたぐらいでオタオタするとはざまあねえな」

 ノームを踏みつけながらコスガは嘲った。

 「命だけは…カンニンしてくれえ…!」

 「二度とこんなつまんねえことしないと誓え。もしまたやったら役立ってもらうことになるぜ。野犬のエサか畑の肥やしとしてな…」

 「…誓えば命は助けてくれるんだな?」

 「それだけじゃあダメだ。金も置いてってもらうぜ」

 「…お前は強盗か?」

 「何勘違いしてるんだ?あの娘の服の弁償にきまってるだろうが!」

 「わ、わかったよお!」

 そう言いながらノームは腰に付いた金貨入りのポーチをコスガに渡した。そして震えながらも立ち上がり、気を失った相棒の体を引きずりながら去っていった。

 「ったく…」

 コスガは吐き捨てるようにつぶやいた。その後ノームたちの姿を少しの間見つめてから町娘の方へ振り向いた。

 「大丈夫かい?」

 コスガは言った。今までとは打って変わった優しい口調と表情だった。

 「あ、ありがとうございます…」

 町娘が答えた。そばかすまみれの頬を安堵の涙が濡らしていた。

 「ああいうチンピラが冒険者でございますってツラしてふんぞり返ってるから困るよなあ…」

 ひとりごとのような口調でコスガは言いながら町娘が起き上がるのを手伝った。

 「一緒に服を買いに行こうか?そのカッコで一人歩きはイヤだろ?」

 立ち上がった娘の服を一瞬だけ見やってからコスガは言った。かなりの面積が溶けていた。

 「いいんですか?何から何まですみません…」

 「いいんだよ…」

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追放≪うらぎり≫の街とダンジョン うすしま潔 @kiyoshi_u

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