大健康帝国
ちびまるフォイ
心も健康な人たち
この国の大統領が高らかに宣言した。
「今、この国は不健康に満ちています。
不健康は犯罪や悪意の種です。私はそれを一掃する!
これからは健康じゃない人間は逮捕します!」
その演説を塩分過多のカップ麺食べながら見ていた。
ワイドショーではフリップ付きでわかりやすい解説が行われる。
そこには見事自分も不健康人間に含まれると知った。
「え……肥満のままだったら逮捕されるの……?」
肥満の人は不健康である。
不健康な人間は犯罪者予備軍である。
そうテレビでは伝えていた。
次には若者の間で大人気のシール文化の紹介とかし始めてる。
「おいおいちょっと待ってくれ。もっと詳しく!
シールなんかどうでもいい! どれだけ痩せれば良いんだ!?」
テレビに話しかけるくらいには切羽詰まっていた。
とはいえ一般人の平均体重まで減らせば健康であると思うので、
トレーニング服に着替えて急き立てられるようにランニング。
「ふっふっふっ……し、しんどい……」
とにかくさっさと痩せなければならない。
今こうしている間にも健康警察が、生活習慣病の人を逮捕している。
涙ぐましいスパルタ・ダイエットのかいあって、
数日で自分の体重は肥満の水準を下回り平均値となった。
「はあ、これでOK。もう間違いなく健康な体だ」
念のため人間ドックにも行き、体に病気がないことも証明済み。
誰にも疑いようのない健康優良国民だ。
悦にひたっていると家のインターホンがなる。
「はい? どなたです?」
「健康警察です」
「えっ!? け、健康警察!? どうして!?」
「不健康であるという通報でうかがいました」
「待ってください。ほら、この健康通知書を見てください!
どの数値を見ても健康値になってる! なにかの間違いです!」
「いいえ、間違いではないです」
「はあ!?」
「あなたの精神は不健康になっています。
過度なダイエットでもしたのですか?
ストレスが不健康値になっています」
「そんなんありかよ……」
「逮捕」
体はしっかり健康になったものの、
自堕落な私生活から急ハンドルで健康にふりきった影響で、
心がついていかずに精神のほうが不健康になってしまった。
健康刑務所では心と体の健康プログラムが実施される。
朝早くに叩き起こされてエクササイズを行う。
食事はしっかり管理されて塩気ゼロの食べ物。
心の健康を保つためと、児童書や映画を視聴。
日が落ちるのに合わせて布団で寝かしつけられる。
「はあ……こんな生活……かえって不健康になるよ……」
その予想は見事的中し、健康数値は刑務所に入る前より悪化した。
数値を計測している健康刑務所は首をかしげた。
「どうして健康プログラムをやっているのに、不健康になるんだ!」
「健康プログラムが合わないからに決まってるでしょ!」
「いいや、健康プログラムは全国民をモニターした結果
もっとも平均的にシミュレートされているから間違いない。
この健康プログラムで健康になれないお前が間違ってる」
「それじゃプログラムに馴染めない人はどうするんです?」
「健康になるまでこの刑務所の中だ」
「健康になる前に死んじゃうよ!!」
けして健康プログラム側の問題は認められなかった。
ますます健康プログラムには拒否反応が出るようになり、
児童向けの絵本を読み聞かせられた時点で強烈な吐き気が出るほど。
健康刑務所のトイレてうなだれていると、
みかねた他の収監者がやってきた。
「よお、アンタつらそうだな……」
「そりゃそうだよ。健康なんていう数値に踊らされて
こっちはすっかり心も体もめちゃくちゃにされてるんだ」
「そんなアンタに良いものがある。これさ」
「なんだその子供向けシール?」
「そう偽装しているけど違う。
これはマイクロチップが施されている健康パッチさ」
「肩に貼れば肩こりでも治るのか?」
「いいや。このシールを貼れば健康になれる」
「そんな簡単に健康になれるわけないだろ?
ダイエットだってあんなに大変だったのに」
「ああその通り。健康は一朝一夕でできるもんじゃない。
でも、アンタの言った通り健康なんて数字でしかない。
それを偽るのはたやすいって話さ」
「え……まさか、健康だと偽装できるのか?」
「話が早いな。そういうことだ」
「くれ! もう刑務所内でおままごとは限界なんだ!!!」
定期的に健康刑務所へカップ焼きそば密輸を条件にシールをもらう。
シールがバレないようにお尻の割れ目に貼ることにした。
「特に健康にはなってないけど……」
「あくまで数字の偽装だけだからな」
効果実感はなかったが、次の健康診断が出た。
「囚人番号3667番、体も健康! 心も健康!
すばらしい数値じゃないか!!」
「へへへ。ありがとうございます」
「つい昨日まであんなに不健康値だったのに。
いったいどうしたんだ?」
「実は、自分の心を健康にしてみたんです。
心が健康を受け入れると、自然と体も健康になりました」
「そんなのありえるのか……?」
「でもほら。健康モニター値は正常でしょう?」
「たしかに。まあいいだろう。お前は健康刑務所卒業だ」
「やったーー!!」
晴れて健康刑務所を離れることができた。
健康な人だけが暮らせる世界の空気は澄んでいる。
たくさんの人が街を往来しているが、
その顔は一様に暗く不健康そうな顔をしていた。
「変だな……。みんな逮捕されてないのに不健康そう……」
考えごとをしていると、猛スピードで車がつっこんできた。
避けるスキなどありはしない。
「ぶげっ!!」
思い切り跳ね飛ばされて地面に叩きつけられた。
体中から流れる血液に重症であることを察する。
「な……なんで……。せっかく……外に出られたのに……」
大事故をかぎつけたくさんの人が集まってくる。
これは心強い。
「だ、誰か……救急車……助けて……」
息も絶え絶えに最後の助けを求めた。
集まってきた人はみんなカメラを構えて、健康値を読み取る。
そこに表示される値はーー。
「なあんだ、健康じゃん」
「撮影用のドッキリだ」
「解散解散。ああびっくりした」
カメラを構えた人は飽きたように立ち去った。
「こんなの……健康なわけ……ない……じゃん……」
心も体も健康な人たちに見捨てられ、
しだいに気も遠くなりやがて目を閉じた。
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