「祝い」か「呪い」か、どっちなの?
@AKIRA54
第1話 「祝い」か「呪い」か、どっちなの?
祝いか呪いか、どっちなの?
壱
「何?『祝い』を主題(テーマ)にした『小説(ショート・ショート)』のアイデアが浮かばないの?ヘエ~!千文字程度で完結したいのね?『ジャンル』は?『笑い話(コント)』それとも『怖い話(ホラー)』。『推理小説(ミステリー)』は難しいわね! どちらでもいいの?そう!じゃあ、面白くないかもしれないけど、小噺をしてあげるわ!時代や場所は、特定しないでね!まあ、昔、昔ってことにしておくわ!」
と、アカネが言った。
「四国の山中の小さな集落の神社での出来事よ……」
イヤな予感がした。前に一度『秘密』をテーマにした小説が書けなくて、アカネにボヤいたことがある。その時にアカネが語った『秘密の話』は、四国の山中の神社での、私自身の体験談だったのだ。最後のオチは、アカネの創作だったのだが、私は結局、その話は……、ボツにした。本音をいえば、創作(フィクション)ではなくて、本当のことのように思えるのだ……。
「おい、まさか、主人公は『F氏』っていうんじゃないだろうな?」
と、私は冗談っぽく確認した。
「ははは、前の話?あれは『面白くない!』って、ボツにしたんでしょう?違うわよ!今回の主人公は……、そうね、美少女の霊能力者にしておくわ!名前は……、『ミユキ』……」
弐
「ミユキが子供の頃、修行をしていた庵に、少し年上のスエという霊能力者がいたのよ……」
と、アカネが物語を語り始める。
スエとミユキは、修行の一環として、四国霊場を回る旅に出た。その旅の途中、岩本寺という札所をお参りした時のこと、ふたりの傍で参拝していた中年の女性が、声をかけてきたのだ。
「ふたりは、ご姉妹(きょうだい)かしら?ふたりとも、大変な能力を授かっているようね……」
そう言われて、スエは、遠慮がちにその女性の職業を尋ねた。すると、女は、自分は、葉山という土地の、ある神社の巫女をしている、シノという者だ!と自己紹介して、スエとミユキに自分と同じ匂いを感じた、と言った。
「ちょっと、葉山のわたしのところに遊びに来ないかい?あんたらのような子を探していたんだよ!」
と、シノが言った。
シノが巫女を務めている神社の秋祭りが明日あるという。ちょうど、七五三の祭りと今年は重なっていて、いつもより、参拝客が増えそうなのだ!と説明した。スエとミユキを臨時の巫女に雇いたい、という。
「ちゃんと、お礼はするよ!それに、あんたたちの修行にもなると思うよ……」
「修行にもなる?わたしたちが修行をしている!と、どうして思うのですか?」
と、スエが尋ねた。
「そりゃ、わかるよ!お姉ちゃんが、しきりに、参拝の作法とか、神様、仏様にお伺いをする方法を教えていただろう?しかも、ふつうの参拝客が唱えない、真言を唱えたりして、さ……。お姉ちゃんは、イッパシの祈祷師のようだね?」
「わたしたちのことを観察していたんですか?」
「まあ、ふたりが杖をついて、石段を登ってきた時から、ただの参拝客じゃない!と感じたから、ね……。わたしは、自分と同じ『波動』を出している人間には、敏感なんだよ!それに、ここにわたしが来たのも、夢で『御告げ』があったからだよ!ここで、わたしが逢いたい人間に逢える!って、ね……」
「なるほど……。では、運命には逆らえませんね!ご一緒します……」
というわけで、スエとミユキはシノの後について、葉山の里に行くことになったのだ……。
参
「スエ姉さん!あの神主さん、ちょっとおかしい、というか、怪しいですね……」
と、ミユキが巫女装束に着替えて、シノから紹介された神社の神主が、祝詞を詠んでいる背中を見つめながら言った。
「なるほど、修行になるわね……」
と、スエがミユキの問いかけには答えず、呟くように言った。
「修行になる?どういう意味ですか?」
「ミユキちゃん!神主さんが、どういう風に『怪しい』と思うの?」
「人間の姿をしていますけど……、影に尻尾があるみたいですよ!狸というより、狢かな……?」
「凄い!わたしがミユキちゃんの年頃には、何にも見えなかったよ!ミユキちゃん、妖(あやかし)の影が見えるんだ!」
「えっ?本当にあの神主さん、狢が変身しているのですか?あんなに、完璧に人間に変身できるものなんですか?」
「まあ、ミユキちゃんに影で見破られたなら、竜王院の寛善さんの域には達していないわね……」
「寛善さん?おばあさんのところへたまに来る、大きなお坊さんのことですか?えっ?あの方も妖なんですか?時々、お野菜や、卵を届けてくれる、お百姓さんのふたり連れは、狸のようですけど……」
「ははは、あのふたりはバレるよね……。刻屋(ときや)のボンにも、バレてたから、ね……。みんな、ミユキちゃんを守ってくれてる、優しい妖たちだよ……」
「そうですね!だから、わたしは修行して、みんなの保護がなくても、悪霊に立ち向かえる力を身につけないと……」
ミユキという少女は、その霊能力故に、妖狐との間に確執が生じ、命を狙われているのだ。今、その妖狐は、妖力を失っていて、反撃できないが、何時復活してくるかわからない。その時のために、ミユキは持って生まれた才能を、さらに開発している途中なのだ。
「おやおや、本当によく似合っているね!わたしより、巫女さんらしいよ!」
と、白い巫女装束と赤い袴に着替えたシノがふたりの背中に声をかけた。
「七五三の親子連れが多いから、ふたりには、御札と千歳飴を配って欲しいんだよ!わたしは、神祭のお祓いをしないといけないから、ね……」
そう言って、シノはふたりを社務所前のテントを張った場所に案内した。ここで、七五三の受付をして、御札と千歳飴を渡す。そのあと、社殿で、妖の神主が祝詞を詠んで、無病息災を祈祷するのだ。シノは別の祠の前で、薪を焚いて、別の神様に祈祷をするようだった。
「不思議な祭りだね?八幡さまを祀っている神社と、龍神か、白蛇を祀っている祠があって、龍神さまのほうにご祈祷するんだね……?まあ、秋の豊作の祭りだから、かもしれないけど……」
と、スエが言った。ミユキにはまだ、神様の違いがよくわからない。ただ、シノの祈祷に何か違和感を感じていた……。
社務所前で、御札と千歳飴を渡していると、小さな集落にしては、二十組近くの親子連れが受付に来た。中には、三歳の女の子と五歳の男の子、反対に、七歳の姉と弟といった、一家族に複数の御札と千歳飴を渡す場合もある。
「ちょっと、待って!」
と、十九人目の女の子に、ミユキが御札を渡そうとした時、スエがそう言って、止めた。そして、別の御札を取って、女の子に渡すと、ミユキから渡そうとしていた御札を取り上げたのだ。
「どうしたんですか?」
と、ミユキが訊いた時、次の女の子が受付に現れ、千歳飴をねだった。数えで三歳になる、幼い娘だった。
そのあとも、子供が次々と現れ、ミユキは、その対応に追われてスエに答えを貰えなかったのだ。そして、その御札と、ひとつだけ、千歳飴が残ったのだ……。
「御札と千歳飴は二十四個。受付に来た子供は、二十三人。誰か、来れなかった子供がいるのかな……?」
四
「ミユキちゃん!起きて!ちょっと、様子がおかしいよ!」
と、スエが言った。
「なんですか?今、何時ですか?」
と、ミユキが訊いた。
「十二時、少し前かな……」
スエとミユキは、社務所に付属している日本間で布団を敷いて寝ている。九時過ぎには、布団に入ったから、三時間程度寝ていたことになる。
部屋の窓の外は、神社の境内だ。社殿が見える位置にあった。その窓が、明るいのだ。月は、新月前の下弦の眉月が東の空に『チェシャ猫』の口のように出ている。
ふたりは、手早く巡礼姿に着替え、荷物を持って表に出た。
「社殿の前に、神主さんとシノさん。それに、変な男の人がいますね……。妖っぽい、というか……、狸ですね……」
「こんな夜中に、松明を持って、集まって、何をするんだろうね?」
社殿の陰から、境内を覗くと、三人の人物が、それぞれ松明に火を灯して立っていた。三人は小声で、何かを語り、社殿の反対側、シノが祈祷していた祠のほうに歩き始める。
「ミユキちゃん!あとをつけるよ!」
「スエ姉さん!ちょっと、危ない気もしますけど……」
「気もするけど……?」
「好奇心のほうが、上ですね……」
「そうだね!『荼枳尼天』さまの護符と、真言を唱えるんだよ!」
「はい!おばあさんから、しっかりと教えられましたから……」
ミユキが『おばあさん』と呼ぶのは、ふたりの師にあたる、霊媒師で、この地方では『太夫』と呼ばれる老女だ。巡礼中の厄除けに、荼枳尼天の護符をふたりは身に着けている。スエは他にも、複数の護符や真言を使える能力を身に着けているから、少々の妖や悪霊には、対応できるのだ。
ふたりは、ゆっくりと社殿の陰から出て、松明の灯りを目印に三人の後をつける。松明は祠の前を通り過ぎ、森の中に入って行く。森は、小高い丘のように登り斜面になっていて、石段が丘の頂に続いているようだ。
「おや?鳥居があるよ!どうやら、奥之院があるみたいだね……」
石段が曲がった先に、松明の火に照らされて古い鳥居が眼に入った。三人はその鳥居を潜って先に進む。松明の光に照らされた扁額の文字をスエが素早く、読み取った。
「クラオカミ……。龍神さまか……」
「イヤな気配がしますよ……。松明とは違う光が奥のほうに……」
「ミユキちゃん!『安倍晴明』だね!晴明は、まだ子供の頃、百鬼夜行が近づいてくるのを、師匠の賀茂忠行より先に感じたそうだよ!」
「でも、ここには、おばあさんはいないし、スエ姉さんは、もう気づいていたんでしょう?」
「ほぼ同時だよ!わたしは修行をして、この能力!ミユキちゃんは、まだ、三月だよ!凄いよ!」
「でも、わたしはまだ、式は使えません……。シロは傍にいるのに……」
「まだ、ダメなんだ!ミユキちゃんが式を使うと、妖狐に悟られる危険があるから、ね……。今は、真言を唱えて、身を守る術を、完璧にすることのほうが大切なんだよ……。それがシロの霊の力をより強くして、式になれる時がきたら、猫というより、豹になるよ……」
スエの言葉に「はい!」と頷いて、ミユキは、『荼枳尼天』の真言を唱える。十一月半ばの真夜中の山中だ。南国土佐といえども、身体が凍れるような気温なのに、真言を唱えると、身体の中から、熱量を感じるのだ。
石段が途切れた先は、雑木もない、広場のような空間がある。そのさらに先には、石積があり、その上に石で造られた御堂に、木造りの祠の扉が見えている。その祠の前に、何人もの人影が、焚き火を囲んでいた。
「遅かったな!」
と、焚き火の右端にいた影が言った。人間の形はしているが、明らかに、鼬鼠の顔をしている。
「鼬鼠に獺、白蛇に蝦蟇蛙、猫又に泥亀、狗神に河童、五位鷺に小天狗……。神主の狢と、村人の狸。シノさん以外は、妖の代表だね……」
スエが焚き火の周りにいる人影を一人ひとり、品定めをする。人間の形をしているが、顔は人でないモノばかりだ。神主も村人の男も、顔が獣になっていた。
「太陽暦になって、面倒臭いが、今日は『七五三』の祭日。今年は、『子年』で、十一月は『子(ね)の月』じゃ!今は『子の刻』。しかも、旧暦の『神無月』がもうすぐ始まる……。神々のいない、またとない、好機よ!」
と、狼の頭をした狗神が言った。
「じゃが……、おかしい……。龍神の玉、水晶に、今日の当たりの主が現れぬ!」
と、小天狗が首をひねって言った。その両手に大きな水晶が乗っている。
「シノ!狢!『七五三』に参拝に来た、子供らに、御札は渡しただろうな?二十四枚の中のひとつに『当たり!』がある。その子が十二年ぶりの『白羽の矢』の子になるのじゃぞ!いうなれば、最高の『当たり籤』『祝い籤』じゃ……」
五
「また、長い?『ショート・ショート』じゃなくなる!っていうの……?面倒臭いわねぇ!これから、いいところよ!」
と、アカネが言った。
「しかし、依頼された作品が、二、三千字。長くて、五千字だ!このまま、オチに行っても……、優にそれを越えるよ……」
と、私は言った。
「ふふふ。あんた、『妖怪噺』は苦手だからねぇ……」
「いや!苦手じゃないさ!だけど、依頼は、『祝い』の噺だぜ!このままじゃ、『ホラー』になって、『呪い』の噺になりそうだよ!『ノ木偏』と、『口偏』の違いだけだけど……」
と、私は本音をごまかしながら、頭に浮かんだ適当な言葉を口にした。ホラーの、しかも『ノンフィクション』は、苦手なのだ。
「あら?あんたにしては、面白い発想ね!じゃあ、噺はここまで!祝い籤は、スエさんが持って帰りました!ジャン、ジャン!」
「おい、待てよ!確かに、十九番目の子に渡した御札を、スエさんが取り替えたよな?俺も怪しい?と思ったさ!しかし、そのオチじゃあ、噺がまとまらないだろう?謎が残り過ぎだよ……」
「だって、長くなるからさ……。あんたも作家なら、オチは自分で考えなよ!文章も推敲して、短くしなよ!」
「わかっているけど……、もう少し、結末を教えてくれないと……」
「面倒臭い人ね!謎解きは、わたしも良く知らないのよ!適当にごまかそうと思ってたんだけど……。そうだ!当事者に訊けばいいわ!」
と、アカネが閃いたように言った。
「当事者?誰のことだ?」
「ミユキさんよ!確か、京都の左京区のお寺の別坊で、霊媒師として活躍しているそうよ!」
「左京区?お寺の名前は……?」
左京区といっても広い。寺の数は数え切れない。
「さあ……?そうだ、京都の『心霊等研究所』ってところに電話すれば、わかるはずよ!そこの仕事を、手伝っているそうだから……」
「心霊等研究所か……。誰かの紹介とか、いらないか……?」
私の苦手な分野だ。イヤな予感しかしない。
「そうね……、ああ、コユキさんか、コノハの名前を出せばいいわ!」
「コユキにコノハか……」
「ミユキさんの知り合いよ!わたしから、コノハに連絡しとくよ……」
六
「コン、いや、コノハさんからのご紹介の方ですね?」
と、巫女装束の女優のような美人が言った。私は、すぐには、答えられず、その顔に見とれていた。霊媒師というから、醜女の婆さんを想像していたのだ……。
(アカネのヤツ、教えてくれよ!手土産には『八ツ橋』じゃなくて、真っ赤な薔薇にすれば良かったぜ……)
そんなことを考えていた私の答えを待ちながら、ミユキという美貌の巫女は私を見つめている。
「は、はい、そうです!三上タケシと申します。ルポライターをしたり、小説を書いたり……」
「それで?コノハさんの話では、二十年近く前の『葉山』での出来事の結末を知りたい!ってことでしたけど……?」
そこで、私は知人のアカネから聞いた、葉山という場所にある、八幡さまと、七五三の日の出来事──ノートにまとめてきていた内容──をミユキに話した。
「クラオカミの祠の前に、十二体の妖と、シノという巫女がいたんですね?わたしが十一歳の十一月十五日の夜。日付が十六日にかわった頃のことですね……」
「そうなんです。『白羽の矢』とか『祝い籤』とか、狗神が言っていたところまで聞いたんですけど……」
「わかりました。では、その続きをお話ししましょう……」
と言って、霊媒師は結跏趺坐の型に座り直すと、両手を重ねて、印を結び、なにやら真言を唱え始めた。
印をほどくと、傍に置いてあった湯飲みのお茶を一口飲んで、私の眼を見つめ直した。
「では、狗神がシノと神主に、『当たりの御札を渡したか?』と尋ねたところから、お話しいたします……。噺というより、謎解きでございます……」
(やっぱり、『イヤな予感』しか、しないぜ……)
七
「あなたさまが、ご指摘のとおり、『当たり籤』は、スエが取り替えました。しかし、御札と参拝する子供の数は、あらかじめ決まっていて、二十四人の誰かに『祝い籤』が配られるはずでした……」
と、ミユキが言った。
「誰かひとり、来なかったのですか……?」
「そう、実は、シノさんの娘が七歳になっていたのです……」
「あっ!御札のことを知っている人間がいたんですね……」
「そう、籤に当たる確率は、二十四分の一。それでも『0』ではない!」
「つまり、当たりたくない『籤』?ということですか……?」
「噺を急がないで!謎解きは、一つ、ひとつ、順番に!ですよ……。クラオカミの祠の前の噺を始めますよ……」
と言って、ミユキは一度眼を閉じて、語り始めた。
狗神の問いに、シノは、
「誰か来なかった子供がいたのかもしれません……」
と、答えた。
「来なかった子供?招待状に『参拝しなければ、多いなる禍(わざわい)が家族に見舞われます』と書いてあるのに、か?」
「病気だったかもしれませんよ!」
「病(やまい)の場合は、代理人がくるはずだ!そう招待状に書いてある!」
「まあ、原因を探しても仕方がない!その御札はどうなっているんだ?それを参拝しなかった子供の家に届ければいいのだ!参拝者は、受付で名前を記載しているはずだから、な……」
と、怒り心頭の狗神を制するように、小天狗が言った。
「御札は……」
と、シノが口ごもる。
「御札は、ここにありますよ!」
と、集団の外から声がした。
「何?」
と、集団の誰かが言って、集団の視線が一斉にその声を発した人間に向けられた。
「お前は、誰だ?おい!狢!人間が入れない『結界』を張っていなかったのか?」
と、小天狗が訊いた。
「あんな結界なら、『不動明王』の護符で、突破できますよ!」
と、スエが言った。
「それより、妖の皆さんが集まって、どんな悪巧みをしているのですか?この御札からは、祝いの波動など出ていませんよ!中を確認させていただきましたら、『祝』の字が、墨の関係なのか、ノ木偏が崩れて、『口』に見えて、仕方がないんですけど……?『祝い』なの?『呪い』なの?どっちなの?かしら……?」
八
「やっぱり、あなたたちに来てもらって良かったわ!」
と、シノが言った。場所は八幡神社の社務所の日本間だ。日付は十六日。朝陽が登ってくる頃だ。
「シノさん!もう少し詳しく話してくれませんか?わたしたちが一昨日、岩本寺に現れることを誰に訊いたのですか?」
と、スエが尋ねた。
「まあ!『夢告げ』って、言ったはずよ!」
「嘘ですね……。まあ、だいたいの予想はつきます……。コンジョさん!人間の時は、コノハさんですけど……。シノさんは、コノハさんと知り合いなんですか?」
「スエさんは、恐ろしいわねぇ……。そこまで、わかるんだ……。わたし、若い頃、伏見稲荷の巫女をしていたんだよ!特別な能力があって、稲荷神に御遣いしている、白狐と話ができるようになったんだ。その白狐がコノハさんの母親だったんだ……。葉山に帰る時、白狐に『娘と息子が土佐にいるから、何か困ったら相談しなさい』って言われていたんだよ……」
「伏見稲荷の、お母さまに……」
「わたしの能力は、三十六年前、『祝い籤』に当たった所為なんだ……。七歳の時に、ね……。それで、何の因果か、ひとり娘が今年数えで七歳なのさ。招待状が届いて……」
「なるほど、それをコノハさんに相談したんですね?」
「でも、『当たり札』を貰わなければ、いいのでしょ?コノハさんに当たりの御札を教えて貰えばよかったのに、何故、スエ姉さんを使ったのですか?」
「妖狐のコノハさんが、その能力を使ったら、土佐の妖たちが黙っていないわ!『四国に狐は、住んではいけない』のだから……。それに、わたしは、こんな『白羽の矢』の行事を終わらせたかったのよ……」
「確かに、小天狗が、わたしたちの名前を尋ねて、『スエとミユキ』だと知ったら、小天狗が慌てて『三郎坊にお仕置きを喰らうぞ!もう、ヤメじゃ!』と言って、神主と狸の村人以外は、パッと姿を消しましたよね……。三郎坊って、大天狗の三郎坊さんのことですよね……?じゃあ、わたしより、ミユキちゃんの能力が、必要だったんだ……」
「そう!ふたりのどちらかが、欠けても、ダメだったのよ!スエさんの霊媒師としての能力と、ミユキさんの『人脈』というのか……」
「妖脈ですね……。シノさん!その十二年に一度の行事のことを話してくれませんか?何のために……?」
九
「残念ながら、噺は、ここまでです!シノさんも詳しい経緯(いきさつ)は知りませんでした……」
と、美貌の霊媒師が言った。
「ただ、シノさんの経験から推測するとですが……」
当たりの御札を貰った子供は『神隠し』に会うそうだ。夜中に白鼠の神主と巫女装束の妖が現れ、何処か蔵のような場所に連れて行かれる。そこで、狗神や小天狗たちに呪法を教えられるのだ。その日数は十二日間。それが終わると、家に帰された。ただ、『神隠し』に会い、帰宅するまでの期間は、人間の世界では、まる一日だけだった。だから、家族たちは、心配はするが、安堵に変わり、『神隠し』ではなく、『鼠に引かれた』と、笑い噺にしてしまったのだ。
「それから、シノさんは不思議な能力を持つことになります。妖と話しができるばかりか、神無月の満月の夜に、白鼠が現れ、クラオカミの祠の前で、狢や狸らの獣を人間に変える祈祷をさせられたのです……」
つまり、あの夜、祠の前に集まった集団のうち、狗神と小天狗以外は、シノによって妖力を得た獣たちだったのだ。
獣に妖力を与える祈祷は、次の亥年まで続き、十二年後、新たな『祝い籤』を貰う子供に受け継がれることになっていた。シノは、それを終えると、葉山を離れ、京都に移り住んだ。
「つまり、妖たちは、自分たちの仲間を増やす目的で、儀式をしているのです。しかし、シノさんのような『能力』を持つ子供になるのは、とても稀で、シノさん以外には、三百二十年余りで、三人だけだったようですよ……。だから、三上さん!あなたのように、籤に当たっても、能力を得られない子供のほうが多いのですよ……」
と言って、美貌の霊媒師は、私に一枚の御札を差し出した。
そう、私は母親の『里帰り出産』のため、葉山で生まれ、数え歳の『五歳の祝い』を葉山でおこなったのだ。その時、一日、行方がわからなくなったらしい。つまり、私は『当たりの御札』を授かったのだ。『祝い』か?『呪い』か?わからないが……。
もう、記憶も消えかけていたのに、何故、ミユキには、わかったのだろう……?いや、それ以上に、アカネが何故……?
「あら?アカネさんの正体が、わからないのですか?シノさんのあの時の、七歳の娘さんが、アカネさんなんですよ……」
私の心の中を見透かしたのだろうか?菩薩のような、まぶしい微笑みを、美貌の霊媒師は浮かべていたのだ……。
了
「祝い」か「呪い」か、どっちなの? @AKIRA54
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