末代まで呪います
@Nadaraka_so-saku
序章
「なあ」
「ん?」
スマホから顔を上げることなく、続きを促される。
昼食を終えて俄かに騒がしくなった教室で、周りに聞こえないよう、なるべく小さな声で話す。
「お前…ってさ」
「なに」
少し焦れたような声。しかし、こちらを見る気配はまったくない。
前の席の人が立ち上がり、俺たちの周りが少し広くなった。
「その…どんなぁ…ううん…」
「だからなに」
催促が激しくなってくる。相変わらず視線はスマホに釘付けだ。
最適な聞き方を見つけられないまま、ほとんど投げやりな気持ちになって、見切り発車してしまった。
「…母親に、興奮…?すること、ある…?」
「…は」
居心地の悪い沈黙の後、ようやく顔が上がり、大きく見開かれた双眸がこちらを凝視した。
ほんの一文字の中に、困惑やら恐怖やら驚愕やらが混ざった複雑な感情が込められている。
しまった。どうやら質問の仕方を間違えたようだ。
「えっ、そ、れはつまり、性的に?」
「まぁ…」
肯定とも否定ともとれない返事をする。
やらかした。
その事実に、脂汗が背筋を流れた。
しばらく考えた末にあの質問だからな…すごくキモいよな…縁切られたりしないかな…
そんなことばかりが頭の中をぐるぐる回り、せめてこれ以上直接的な表現をしないようにだけ意識する。
「え、それ聞いて、どうすんの?」
「……まぁ〜…」
戸惑いからか、一言一言を刻むようにして質問してくる。
視線を泳がせ、返事とも言えない間延びした声を出すことしかできない。しかし、これで誤魔化せている気は全くしない。
真面目な顔で話しかけなけりゃよかった。せめてふざけて言えば、笑い話で済んだのに。
「ええー、マジで何?キモいんだけど…」
10年来の親友が、しばらく言い淀んだ末にこの質問をしてきたら、俺はどう思うか。
気持ち悪。
これ以外ないだろう。
自分の母親に欲情するかどうか。そう考えるだけで、頭の中にはお気に入りの女優の顔に母の顔を貼り付けた雑コラ画像が生成されてしまう。
あまりの生々しさに、鳥肌が立って仕方ないだろう。
「うえ〜、キモいこと想像させんなよ…」
眼をキツく閉じ、本気で嫌がっている返事。
こいつにとって、血のつながった親への欲情は信じられないことだからだろう。いや、こいつにとってだけじゃない。少なくとも、この教室にいる人たち全員にとって、そうなのだろう。
「…いきなり、ごめんな。マジきっしょいこと聞いたわ。忘れて。」
努めて明るく振る舞う。全部冗談だと笑って、その場から逃げるように教室を飛び出した。
「お、おい、公孝!?どこ行くんだよ!」
背後から焦ったような声が響く。
しかし、俺は教室から1秒でも早く遠ざかりたくて仕方がなかった。
振り向くことなく、人の波に逆らって廊下を歩き進める。
自分が惨めに感じられて仕方なかった。わかってたはずだった。気色の悪いことだとわかっていたはずだったのに。面と向かってキモいと言われて、こんなに傷つくなんて。
キモいことぐらいわかってるよ。
けど、しょうがないだろ?
俺だってこんなの嫌だ。
何とかしたいに決まってる。
でも、なぜか
実の母親以外に興奮できないんだよ!
あまりの情けなさに目頭が熱くなる。飛び出した勢いのまま、今まで一度も行ったことがない図書室へと足を進めた。
末代まで呪います @Nadaraka_so-saku
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